第72話 アニオタの乱④
「――――
ぬか娘が持つ木刀に武器強化魔法をかけてやる。
魔法によって加護が付加されたその木刀は赤黒く輝き、なんだかSF映画に出てくる光の剣みたいでぬか娘は興奮を隠しきれない。
「はぁはぁ、はぁはぁ……」
「……おい、ヨダレを垂らすな」
二人はすでに、かなり上まで上がって来ていた。
小さな山なので麓から頂上までは二十分もあれば着く。
アニオタがその付近にいるのだとすれば、そろそろ遭遇してもおかしくない頃合いだ。
「でも、占いさんの言ってたこと……本当なのかな?」
慣れない山道によたつきながら聞いてくる。
捜索に入る直前、占いさんが忠告してきた。
『私の術に反応したと言うことは……アニオタのやつ……もしかすると……取り憑かれとるやも知れんな』と。
陰陽道は、もともとこの国の妖怪や悪霊を退治するために考案された古の術。
それに探知されてしまったアニオタには、人間ではない何かが取り憑いている可能性が極めて高いと思われる。
何かとは?
言うまでもなく悪魔憑きのことだろう。
「アニオタの奴め……普段からおかしな言動をすると思ったら……淫魔の類にでも毒されていたと言うことか……」
納得顔でアルテマが呟と、
「いやぁ~~それはどうだろう……。あんまり言いたくないけど、アニオタみたいな人……こっちの世界では珍しくないよ?」
と、苦笑いで答えるぬか娘。
それはちょっと……どうなんだとアルテマは嫌な顔をする。
「なんだと? ……ではアレがこの世界の青年の平均的思考とでも言うのか?」
「う~~~~~~~~~~ん……。平均的かと言われれば、それは絶対違うんだけど……でも意外と多いのはホントだよ? 一昔前とかじゃアキハバラって街はアニオタみたいなニキの巣窟だったからね」
「アキハバラ、ニキ?? ……よくわからんが……そんな魔獣の
猛獣と化していたアニオタの姿を思い出し、背筋を冷やすアルテマ。
あんなモノが何匹も街中をうろついている光景なぞ、とても想像したくはない。
そんなアルテマに「いやいや、さすがにそれは……」と否定するぬか娘。
今回の変貌は悪魔憑きが原因なのだろうが、普段の言動は素のアニオタから生み出される個性なのだろうと言いなおす。
「……でもどうなんだろ? 仮にアニオタが悪魔憑きであの性格になってたとしたなら、その悪魔を退治したら真人間になっちゃうってことなのかな?」
そうなるとどうなるんだ?
何となくキレイになったアニオタを想像し、それはそれで気持ちが悪いと背中を震わせる。
「それはわからん。とにかく陰陽道に反応したと言うのだから、私らもその覚悟はしておいた方がいいだろう」
「うん。そのために木刀も強化してもらったんだもんね!!」
輝く木刀を掲げ、鼻息を荒くするぬか娘。
剣道など、学校の授業以来やったことはないが、それでも強化された魔法剣。
ともかく当てさえすれば、その威力はアルテマの保証付きである。
そう意気込んだとき、
「うぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉりゃあぁぁぁぁぁっっぁっぁぁっ!!!!」
六段と思われる激しい声が山に響き渡った。
闇に潜み眠っていた鳥たちが一斉に飛び離れる。
次いで、ドカバキグシャッっという殴打音も離れたところから聞こえてきた!!
「え、なに!? ろ、六段さん!??」
「あっちだ!! 急ぐぞ!!」
いきなりの叫び声に慌てふためくぬか娘だが、アルテマは冷静に反応し、山道の先を指差すとイタチの如く駆け上がった。
その後をぬか娘も追う。
走るにつれ、六段ともう一つの気配が濃くなり、取っ組み合う音も鮮明になってきた。
「こ……こ!! き、貴様!! や、やめろ、離せっ!!」
やがてはっきりと六段の鬼気迫った声が聞こえてくる。
到着すると二つの取っ組み合うシルエットが見えた。
その影の一つは六段。
そしてもう一つは、
「そこまでだ!! 動くなアニオタよ!!」
やはりアニオタであった。
二人は山頂のわずかな広場でもみ合い、取っ組み合っていた。
アルテマは手に
その気配に気付いたアニオタは、
「う……うぐるるるるるる……おのれおのれ、次から次へと……しつこい追手め。いくら追いかけて来ようが、このお宝は渡さんでござる!!」
血走った目でアルテマを睨み返すと六段を弾き飛ばし、
「ぐわっ!?」
「貴様らごときに捕まる僕ではない――――とうっ!!」
頭にかぶった異世界猫耳美少女パンツを大切そうに押さえると、脱兎のごとく暗い茂みに飛び込んだ。
それを追いかけアルテマは、
「逃がすか――――
その進行方向へ向けて黒炎を、その背に向けて解呪の魔法を唱えた。
アニオタが本当に悪魔憑きになっているのだとしたら、これで悪魔を引き剥がせるはずである。
しかしアニオタは素早い動きでその二つの魔法をかいくぐると、
「嫁おぱんていと同化し完全体となった僕は、そんなものでは止まらないでござる!!」
謎の理論で構築された捨て台詞を吐き、木々の影へと消えていく。
舌打ちひとつ、すかさずアルテマもそれを追い、茂みへと飛び込んだ!!
「アルテマちゃん気をつけて!!」
「心配するな!! 障害物の多い中ではかえってこの小さな体の方が動きやすい、逃しはしない!!」
勇ましく言い放ち、闇へと消えていくアルテマ。
「六段さん大丈夫!??」
ぬか娘は、倒れている六段へと駆け寄った。
大丈夫だと、すぐに立ち上がった六段だが、その顔を見たぬか娘の顔が引きつる。
「……あ、あの……馬鹿者が……!! この屈辱……拳、百連打くらいじゃ済まさんぞ……」
怒りに燃える六段の顔はベタベタに濡れていて、さらに赤い、いくつものアザが浮かび上がっていた。
「ろ……六段さん……。それ……キスマーク……」
「噛まれただけだ!! 断じて!! 断じて違う!!!!」
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