第27話 祠の謎②

「お、おい!! 酷いじゃろがお前、ワシらを置いて先に逃げるな!!」


 一気に麓まで降りてきた一行はゼイゼイと息を切らせながら、思い思いに道路にひっくり返った。


「……せっかく苦労して溜めた魔素を吸われてはたまらん!! 今の私は魔素を切らしては文字通りただの子供になってしまうからな……はあはあゼエゼエ」

「こ……ここまで来たら大丈夫なのか? ……ゼイゼイ」


 大汗を掻きながら元一が占いさんに聞く。


「ああ、一先ずはな。よぼど近づかん限りは急激に吸われる事もあるまいよ。しかしゆっくりゆっくりではあるが、ここら一帯の気はアレに吸い込まれて薄くなっているようじゃがな……」

「どうりで……」


 この世界に来たとき、やたら魔素が薄いと思ったのはコレのせいだったのかとアルテマは納得した。


「おいおい、それは大丈夫なのか!?」

「すぐにどうこうはならん……。しかし、気の薄れは不穏を呼び込む。この先、不吉なことが起こるやも知れんぞ……」

「なんとかならんのか? 封印するとか、流れを元に戻すとか!!」


 六段が喚くが、


「どちらも無理じゃな。龍脈とは自然の力と同じじゃ。人ごときがどうこう出来る代物ではない」

「いったい、いつからこうなっていたんだ?」


 と、元一。


「……わたしが正気だった五年前は、まだ気は溢れておったよ。なにせわたしゃその気を借りて占いをしていたからね。この地に移り住んだのもそれが目的よ」

「てことは……何十年も湧き出ていたものが、ここ最近で逆転したと言うことか」

「そういうことじゃな。……ここ最近で何かきっかけになる出来事と言えば……」


 すると三人の目がアルテマに集中する。


「うむ、まぁ……うん。言いたいことはわかる。私もそう思う」


 苦笑いしながらアルテマは降参するように両手を上げた。





「……つまり、アルテマが転移したショックで龍脈の流れが変わり、出ていた気が、逆に吸い込まれるようになったと」


 鉄の結束荘に寄り、応接室(職員室)でお茶を啜りながら六段は聞いた。


「わからんが、最近起こった大きな刺激と言ったらそれしかないからのう? 異世界からの転移など、時空の理を歪めるには充分な出来事よ……ポリポリ。ん、こりゃ旨い」


 ぬか娘が出してくれたきゅうりのぬか漬けをお茶請けに、占いさんが答える。


「ちょっと待ってよ、そんな面白そうなことゲンさんたちだけで見てきたの!? 私も呼んでよ~~~~っ!!」


 ぬか娘がアルテマを膝の上に乗せながら頬を膨らました。


「……おい、私はぬいぐるみじゃないぞ離せ」


 もがくアルテマだが、


「黒髪さらさら~~ツノ可愛い~~~~♡」


 と、後頭部に頬ずりして聞く耳を持たれない。


「そうですよ、そんな心霊ネタ、超とくダネじゃないですか!? いまから撮りにいってもいいですか??」


 ヨウツベが興奮気味に足をバタつかせるが、


「やめときな。ロクに霊力も無いような者が迂闊に近づくと……下手すりゃ魂どころかその身すらも分解されて『気』として吸収されかねない。まぁ……早死にしたいっていうんなら止めやせんがね」

「う……や、やめときます……」


 ギロリと睨む占いさんの眼力に押され、小さく縮こまるヨウツベ。

 本当ならオカルト的なものなどネタ以外の何物でもないと、臆することはないのだが、こうも立て続けに怪奇現象(異世界転移・悪魔召喚)などを見せられると洒落では済まない。


「ならば、あの祠は誰も近づけないように封鎖したほうがいいのう」

「……そうじゃな」


 元一と六段がうなずき合うが、そこにアルテマが待ったをかける。


「ちょっと待ってくれ!! それだと私が困る。あの祠はやはり私が元の世界に帰る鍵となっているはずなんだ。あれは恐らく向こうの世界の『奈落への入り口』に繋がっているはず……。もう少し調べさせて欲しい」

「それはわかるが、しかしそう慌てることもないだろう。何事も迂闊は愚かだぞ?」

「う……む、それは……」


 元一の忠告にその通りだと思い直し、アルテマは首を引っ込めた。


 戦いにおいても軽率な行動は即、命取りになる。

 かつての部下たちに口うるさく説教してきた自分が、よもやこんな初歩的な説教を受けるとは……どうやら自分は思っていたよりも焦っているようだ。


 聖王国に攻め込まれ、いくつかの街を陥落され、ついには自分も追い詰められた。

 故郷たるサアトル帝国は今頃どうなっていることか……。

 部下たちは、師匠たちは私が死んだと思っているだろうか?


 考えるといても立ってもいられなくなる。

 しかし、ここは元一の言う通り、焦らず確実に行くしか無い。

 それが一番の近道だと何度も学んだではないか。


「……わかった、では祠のことは一旦置いておこう。その代わりまだ試したいことがあるのだ」


 アルテマはそう言うと番茶をずずずずと啜る。

 その頭をナデナデしながらぬか娘が、


「試したいことって?」

「うむ。我が暗黒魔法究極の秘技にして奥義『開門揖盗デモン・ザ・ホール』を試してみたい」

「――――開門揖盗デモン・ザ・ホール? なんじゃそれは?」


 眉をしかめて占いさんが聞いてくる。


「なんか強そうですね? 究極……となると攻撃魔法ですか!?」

「え……なんか怖いなぁ……。開門揖盗デモン・ザ・ホール……ブラックホールみたいな感じ?」

「……重力系魔法か、汎用性が高そうだな」


 ヨウツベにぬか娘、それからいつの間にか生えてきたモジョが興味深げに話に参加してくる。


「いや、攻撃魔法ではない。そんなものよりも遥かに強力な支援魔法だ」


 不敵に笑い、席を立つアルテマ。


「こういうのをこちらの世界では『百聞は一見にしかず』というのだな? いいだろう、さっそく見せてやろう。みんな広場グラウンドに出てくれ」

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