第13話 鉄の結束団②

「学校……?」


 アルテマが不思議な表情を浮かべ、そのプレートを眺めていると、


「ああ、元々ここは小学校だったんですよ。もうずいぶん前に廃校になって廃墟になっているところを僕たちが借り入れたんです」

「ほお?」

「僕たちって言うか、まあ、手配してくれたのはNPO法人の方なんですけどね」


 NPO……何のことだかわからないが、ともかく学び舎だった建物を拝借して住処に使っていると言うことか?

 まあ、使わなくなった施設を他に利用するというのは良いことだと思うが……しかし学び舎が必要なくなるとはどういうことだ?


 そういえば、ここの集落には子供の姿が見えない。


 タブレットで読んだ『少子化』とかいう現象なのだろうか?

 貧しい帝国の村ならばいざしらず、こんな豊かな世界で子孫を増やせないというのは一体どういうことだ?


 アルテマは深く首を傾げつつ、玄関へと入った。


「さ、どうぞどうぞ。あ、埃がひどいんであまり壁とか触らないほうがいいですよ」

「なに!?」


 サンダルを脱ぐため、無意識に下駄箱に手をついていたアルテマは、真っ白になった手を見て微妙な顔になった。


「すいませんね。なんせみんなズボラで適当なんで、自分の部屋以外は掃除しないんですよ」

「……お前たちは一体どういう集団なんだ??」


 用意されたボロボロのスリッパに履き替え、アルテナは尋ねた。


「昨日、ぬか娘も言っていたと思うんですけど、僕たちはみんなニートなんですよ」

「ニート??」

「ええ。……まぁ……何ていうか……。社会から離脱したというか……世捨て人というか……まぁつまり、働くのを放棄した若者のことなんですけどね」


 ちょっとバツが悪そうに説明するヨウツベ。

 それを聞いたアルテマはますますわからないといった顔で、


「働かない!? ……それでどうやって生きているんだ??」


 濁りのない素直な質問をぶつける。

 と言うのも帝国の場合ほとんどの民は、大の大人が朝から晩まで汗を流したとて、家族分の食いぶちすらもまともに稼げず、幼い子どもも教育を放棄して家族のために働いているくらいだ。

 貴族ならばいざしらず、どう見ても平民らしきこの者たちが不労働生活をしているなど、アルテマにとっては呆れるを通り越して不思議でしょうがない。


「う~~~~ん……まぁみんな、それぞれ少しは蓄えを持っているみたいですし、それを切り崩しながら……。あとは適当に気が向いた日にだけアルバイトですかね」

「……気が向いた日にだけ働く……だと?? それで生きていけるのか??」

「まぁ、ギリギリですね。みんな食べ物以外は極力お金を使いません。服とかアクセサリーとか化粧品とか、とにかくギリギリまで生活を切り詰めて……そのかわりストレスの無い穏やかな生活を送っているんです。僕たちはそういう生き方を選んだ人種の集まりなんですよ」


 言ってヨウツベは手にしている箱をアルテナに向ける。


「これはデジカメって言いまして。僕はこれで動画を取ってお小遣いを稼いでます」

「???」

「いいですねぇ~~アルテマさん。可愛いですね~~!! もうちょっと笑顔でお願い出来ますか?」


 と、カメラをアルテマの下から上へ、舐めるように這わせるヨウツベ。


 すると――――どどどどどどどどどどっ!!!!

 二階へ伸びる階段から、けたたましい足音が猛スピードで近づいてきた。


「何だ? ――――っ!?」 


 そちらを振り向くよりも早く、一つの影がアルテマの脇をすり抜け、


「アルテマちゃんにヤラしいカメラを向けんな、この変態チューバーがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 叫びとともに、ヨウツベの首に渾身のラリアットが炸裂した!!


「ぐっはぁぁぁぁっ!!!!」


 吹き飛ばされるヨウツベ。

 そのお腹にさらに2,3発ケリを食らわしたその影はアルテマへと振り返ると、


「ようこそアルテマちゃ~~ん。どうしたのぉ? 遊びに来てくれたのぉ? あ~~ん、言ってくれたら迎えにいったのにぃ~~~~♡」


 と、アルテマに抱きつき頬ずりしてきた。

 黒髪三つ編み丸メガネ。ヨレたシャツに着古したジーンズ。

 ぬか娘である。


「こ……こら、き、きさま……アルテマさんは年上の貴族様だぞ……た、タメ口は止めんか……失礼だろうが――――ぐふ……」

「うっさい、ぺっ!!」


 息絶えるヨウツベに、ぬか娘はトドメのツバを吐きかけると、


「いいんでちゅもんね~~、アルテマちゃんは子供でちゅもんねぇ~~♡ ささ、お姉さんの部屋に行って遊びまちょうね~~~~♡」


 ぎゅ~~っとアルテマを抱きしめるとそのまま階段を上がっていく。


 突然の展開に身が固まってしまったアルテマは、青ざめた顔もそのままに、なすがままズルズルと拉致られていくのであった。

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