エルフの国のおせっかいオバサン
最近、暑くなってきましたね、中村宗次郎です。
暑い時期になってくると皆さん活発になるのは日本でもエルフの国でも同じようです。この国でもスポーツ観戦が人気の娯楽で、中でもコラットという球技は国民的スポーツです。
イメージとしてはラグビーとかサッカーに近いでしょうか。広いコートを自陣敵陣に分かれて、ゴールにボールを入れると点数が入ります。一番の相違点はゴールが空中に浮いていることでしょうか。空中に浮いてて結構な速度で動きます。魔法ありと魔法なしの形式に分かれていて、魔法ありだと空中をアクロバティックに飛び回る派手な試合になるのです。昔、お姫様と一緒に見たことがあるのですがとても面白かったです。
スポーツは苦手なのですが、たまに見に行くと楽しいですね。
「この前はうちの旦那が妙なことを言ったらしいね」
謝って来たのはドワーフの鍛冶師ボノボムさんの奥さんであるバレナさんです。今日はお客さんとして来てくれています。
オレが何のことかと聞くと、先日ボノボムさんがドライアドのお嬢さんを紹介しようと言いただした時のことのようです。
ボノボムさんとはその後も商売としてもお客さんとしてもお付き合いさせていただいているのですが、その際によくお見合いを打診されます。
「うちのはああ見えて顔が広いからね。気を悪くしてないかい?」
別にそんなことはありません。ただ日本にいた頃はお見合いなんて勧められたことはありませんので不思議な感じはします。オレの親の世代にはこういったお見合いを勧める上司やおせっかいオバサンが世の中には沢山いて、それで実際に結婚するひとも沢山いたのだと聞いたことあります。
「まぁ、あいさつ代わりだと思って、適当に流してくれるといいよ」
オレは苦笑いで答えます。
バレナさんは旦那さんと違いあめ耳です。
なので耳かきも使うのですが、綿花をメインに使います。木製のピックの先に綿花を挟んで即席の綿棒を作ります。本当は普通の綿棒を使いたいのですが、この国には綿棒がありません。異世界に来た時に持っていたのですが、お姫様に耳かきをするのにほとんど使い切ってしまいました。
まぁ、あの綿棒がこの店の開業資金に化けたのですから、割のいいわらしべ長者だったとは思います。
なので代用品としてピックに綿花を巻きつけて綿棒の代わりとしているわけです。綿棒はあと5本ほど残っているのですが、何となく使い切れないところに貧乏性な性格を感じてしまいます。
既に耳の周りは拭き終わっているので、綿花を巻きつけたピックをバレナさんの耳の穴にゆっくりと入れていきます。1か月ぶりの耳には粘着質の耳垢がべったりと貼りついています。オレはそれをピックの先端で拭っていきます。
綿花の柔らかい感触が耳の壁をくすぐった後、ピックの先端が圧力を加えて耳垢をこそぎ取っていきます。抜きだした綿花は耳垢で汚れて黄ばんでいます。
これを見たいというお客さんもいるのですが、基本的には見えないように傍らに置いている小さなツボの中にさっさと隠してしまいます。
「うぅ~、いいねえ~、癖になるよ~」
耳の中を掻きまわされる感覚にバレナさんは心地よさそうに声をあげます。このご夫婦は施術中は結構大きな声をあげるので、来るたびに似たもの夫婦だなと思ってしまいます。
「ナカムラの奥さんになる人は羨ましいね。家でも耳かきしてもらえるんだろ?」
それはどうでしょう?
まず奥さんがいないので何とも言えません。
オレは曖昧な笑顔でそれに応えます。
「まぁ、興味があったら旦那の話も聞いてあげな。知り合いのゴブリンのお嬢ちゃんにいい子がいるんだ。器量よしの子でね……」
あ、なんか聞いたことある話題です。多分、ボノボムさんが言ってたお嬢さんと同一人物ですね。
それにしてもお見合い、お付き合い、結婚、何だかピンときません。日本にいるときもオレの友人で結婚した人はまだいませんでした。そのせいか結婚というものが何だか縁の遠いものに感じてしまいます。
実は女性とお付き合いしたこともないのです。思い出せば学生時代にチャンスがあったような気もしますが、そのときは資格試験やバイトで忙しくそれどころではありませんでした。
……いえ、違いますね。
女の人とつき合うのって、何だか面倒そうだなって思っていたので避けていたような気がします。でもエルフの国にやってきて、実際その通りだと思いました。顔で笑って心で泣くという特技を覚えれたのは収穫だったかもしれません。接客業なのでいつか使うときが来るかもしれません。
オレはバレナさんの申し出をやんわりと断ると施術に専念します。汚れた綿花を取りかえて新しいものに替えます。
次の綿花は硬めに巻いています。仕上げ用の綿花です。耳道にところどころ残った耳垢をポイントで取り除いていきます。
片耳が終わりました。では次はもう片方です。
「しかし耳の中を掃除するなんて、すごいアイデアだねぇ。普通に生活してたら、ちょっと思いつかないよ。繁盛してるんだろ?」
どうでしょうか?
エルフの国ではほかの仕事をしたことがないのでよく分かりませんが、食べるのには困っていません。
まぁ、お姫様への借金が滞りなく返せているので順調なのは間違いないでしょう。
ちなみに帳簿は完全にルナラナ任せです。経費だのなんだのの計算は全部彼女がやってくれています。
「何だかウチと一緒だね……まぁ、ルナラナちゃんなら問題ないんだろうけどね」
喧嘩早い性格のせいで勘違いされがちですが、ルナラナはああ見えて事務仕事が得意なのです。オレよりも計算も得意ですし、ミスなんかしないでしょう。
「ナカムラも珍しいけど、あの子もこの辺りじゃ相当珍しいよね。レプラコーンだっけ?」
ピックでバレナさんの耳の穴を掻きながら、オレは首を縦に振ります。彼女の種族は確かそんな種族だったと思います。
よく知りませんが、成人しても背があまり高くならない種族だそうです。あと赤毛が特徴なのだと本人が言っていました。
とは言っても、この国では彼女以外にレプラコーンを見たことがないので真偽のほどは分かりません。
まぁ、嘘をつくはずもありませんが。
「最初は子どもだと思ったんだよねえ……ああ、そこ、もっと強めにして欲しいわ」
言われた通りに、耳孔のラインに合わせるようにピックをクルリと回します。同時にバレナさんの口から「うう~ぅ」と声が漏れました。
ちなみにルナラナが子どもに見えるというのはオレも同意です。日本人基準でも、エルフ基準でも、ドワーフ基準でも、彼女の背丈は小さく子どもに見えます。
ただレプラコーン同士だと、何らかの基準で大人か子どもかなど一目瞭然なのだそうです。もちろん本人が言っているだけなので真偽のほどは分かりません。
「ドワーフの国よりももっと北の方から来たって言ってかしら。ほら、あの娘って、ナカムラのこと変な呼び方をするじゃない? 言葉も若干発音が違うし……あ、うん、そこももうちょっとして欲しい」
オレは手早く綿花を取りかえます。次は香油に浸してから、最後の仕上げとして耳の穴の全面を拭いていきます。
「ああ、これ、いつものと違うね」
この香油はひんやりとした清涼感を感じるタイプで、あめ耳との相性もよいのです。ルナラナが考案してくれた一品です。
「そうなんだ。香油を売り始めたりとか商才もあるね、あの子は」
耳の中を綿花でグルグルと拭かれながらバレナさんは感心します。そして何かに思い立ったように、横目でオレを見ながら聞いてきました。
「そういえば、ルナラナちゃんはどうなんだい?」
どう?……とは何でしょう?
頭の上に「?」が浮かびます。
すると、バレナさんは呆れた顔をして見せました。
「いや、ナカムラはルナラナちゃんとつき合わないのかい? お似合いに見えるけどねえ」
ルナラナとつき合う?
何を言っているのでしょうか?
意味がよく分かりません。
きっと今のオレの顔は先ほど以上にポカンと呆れ顔をしているでしょう。
「まぁ、いいけどね……ナカムラの問題だし」
イマイチ釈然としませんが逆に呆れられているようです。
そしてバレナさんは去り際に2枚のチケットをくれました。コラットの観戦チケットです。
ボノボムさんの工房に出入りしている業者の営業さんからもらったものなので気にせず行ってこいと言ってくれました。ただ「まぁ、好きな娘と行ってきな」というのが、何だか意味深で怖いです。
好きな人
いますけど、忙しいでしょうし、あまり連れまわすと身体も心配です。それに昔ほど気安く話もかけにくくなりました。
机に置いたチケットを眺めてオレは考えます。
どうしましょう?
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