第24話
エイト率いる蜂たちは大変優秀であった。
ヨシヤの眷属となった彼らは【フォレスト・ビー】という種から【レジェンダリー・レインボウビィ】というものになっていた。
蜂たちの羽が、日の光を浴びてキラキラと七色に輝くことがその名の由来らしい。
そんな彼らは毎日飛び回り、ヨシヤたちに毎日毎日蜂蜜を届けてくれる。
時には蟻たちにもお裾分けしてくれるところがあっちゃんを仲間にした際にハナの説明にあった『同じ木を挟んで共生関係にある』というやつなのだろう。
蟻たちは基本的に自分の巣がある木を育て、外敵から守るそのついでで蜂たちを守る。
蜂たちは木の世話をして自分たちの巣に還元させ、空からの外敵と戦うのだ。
空から襲う敵は蜂により地に落とされ、その先で蟻にやられる、と……まあそんな関係性である。
(ただまあ、神域には敵がいないんだよなあ)
そういう意味で彼らは鈍ったりしないのだろうかと心配になるヨシヤだが、毎日のように神域の外であるジャングルに意気揚々と繰り出す蟻たちを見れば、それは杞憂というモノらしいのだが……。
そんな中、ヨシヤはジャングル産の果物と鉱石、それからエイトたちがくれた蜂蜜を元手に少しばかり足を伸ばして人の多い土地へと行ってみようと決めたのである。
「あっちゃんたちも頑張ってくれてるし、珍しいお菓子とかお土産に買ってあげられたらいいよなあ、エイトたちも蜂蜜毎日くれるから、他にもよさげな果物があればそれも買ってやりたいし……大きな町なら、苗木も手に入るかもしれない」
「きっとみんな、喜ぶわ」
「勿論ハナにもお土産買ってくるからね!」
「ええ、楽しみにしてる」
ぐっと握りこぶしを作るヨシヤに、ハナもにこにこと笑う。
彼らの計画はこうだ。
まずは村に立ち寄り、工房で瓶を分けてもらう。
それを持ち帰り蜂蜜を詰め、売り物の準備をする。
それとは別にリチャードとマーサがいたという大きな町の話を詳しく聞き、ついでに商人ギルドにツテがあるようならば紹介状を書いてもらえそうならお願いする。
それから、人気があるところまでは蟻たちに
かなり大雑把な上に他力本願なところが見える作戦ではあるが、それもこれも致し方ない事情があるのだ。
なにせ、ヨシヤもハナもこの世界生まれではないだけに、地理に疎いというハンデがある。
一応、ハナが持つガイドブックにも大雑把な地図が記されているが、世界情勢は変わるモノであると彼らは認識しているので、何事も現地の人々に聞いて動くのが確実だと判断したからだった。
「街道はわかりやすいけど、標識とかあんまりなさそうだし……治安ってどうなのかなあ」
「この辺りは平和みたいだけれど……一番の問題は私たちがどう対処するかよねえ」
元いた世界でも喧嘩や酔っ払いの因縁など、そういったものは身近に存在していたがヨシヤは穏やかな性格が幸いしてか、それらとは無縁だったのだ。
勿論、ハナもそれは同様で、この世界で人のいない場所ならば蟻たちに護衛を頼めば済む話であるが(それはそれでやり過ぎにならないか、注意しなければならないのだが)、対人となるとそうもいかない。
それこそ他の人の目がないところでなら、袋から出てきてもらえば済む話なのだが……人の行き来が多い場所や町の中などでは危険人物と目されるリスクの方がどう考えたって高いではないか。
「ヨシヤさんみたいな蟲使いたちって、普段はどうしているのかしらね……」
「ガイドブックには載ってないの?」
「うーん……あの、ね? 言いにくいんだけど……ガイドブックによると、蟲使いって人気のないジョブらしくて……」
この世界にはジョブ適性がある。
ただし、それは適正値が最も高いものになると
つまり、職業適性が示されたとしてもそれを受け入れず次点のものを選んでもそれなりに生きていけるというわけだ。
そういう意味で言えば蟲使いというのは大変有用なスキルを有するジョブであるものの、地味だし、モテないし、初心者には大変厳しい職なのである。
その事実にヨシヤは思わず膝をつく。
(予想は……、していた……ッ!!)
ヨシヤとて選ぶかと問われたらまず選ばないジョブである。
異世界に移住したヨシヤには適正値が最も高いものをジョブとして定めるのが合理的とわかっていても、これは予想済みとはいえ、かなり辛い現実であった。
「だ、大丈夫よヨシヤさん。ね? きっとなんとかなるから!」
「うん……うん……」
「いざってときは物陰に隠れて神域に帰ってきちゃえばいいから! ね!!」
必死に夫の肩を叩いて元気づけるハナと、遠くを見ながら立ち上がるヨシヤの姿に周囲にいた蟻や蜂もオロオロしっぱなしである。
遠くで、アーピス様の「んも~~~~ォう」という間延びした鳴き声を背に、ヨシヤは神域の外へと出て行ったのであった。
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