第18話

 それから幾日か経ってから、ヨシヤはリチャードとマーサの様子を見に再びあの村に足を踏み入れていた。

 例によって、行商人を名乗っているため物々交換ができるよう、森の恵みを蟻たちに採ってきてもらってからだ。


 なにせヨシヤからしても、新鮮な卵にバター、それから牛乳、小麦粉と、元いた世界から持ってきて尽きてしまった品々が手に入るのだからこれはなんとも有益な物々交換なのだ!!

 それらの品々は妻を喜ばせるだけではなく、ヨシヤの食卓を豊かにしてくれる大変ありがたいものである。


 しかしそれ以外にも、ごくごく自然に村へと足を向け、また果物を持ってきましたよ~みたいな感じで行商に来た男を演じているのには理由がある。

 警戒なんてこの村では一際されていないのに、何故そんなことをしているのかと問われれば、ヨシヤには目的が二つあるからだ。


(これでハナにプリン作ってもらえる!)


 彼の目的――そう、それは、新鮮な卵と牛乳であった。


 彼の好物の一つに、妻の手作りプリンがあるのだ。

 基本的にヨシヤはハナが作った料理に不満を持ったことはないし、なんでも美味しいと思っているし、作りすぎたり焦がしたりすればうっかりさんだなあ、可愛いなあなんてなるのだから重症である。


「さて、と……」


 一通り行商を終え、目的の品々をゲットしたヨシヤは気合いも新たにリチャードとマーサの家の前に立っていた。

 行商中に彼らが現れるかと期待もしたが、その様子はない。

 ただ、村人たちとの世間話によれば二人は元気であるということだったのでそこは胸を撫でおろした。


 ハナによれば、女神として二人の願いを叶えたとはいえ、急激に影響を及ぼしては胎児によろしくないということで、時間をかけてそろそろ正常になったはずだという。

 今回はそれを見に行ってほしいというものだった。


 それに加え、今回信徒ではないにしろ、『願いを叶えた』ということでハナは女神としてのランクが上がったのだという。

 それに伴い、ヨシヤも活動をしたこともプラスして眷属レベルが二つ上がったのである。


 具体的に何ができるようになったのかというと、コレがなかなかすごいのだ。


 ヨシヤは一度眷属として鑑定した妊婦、お呼び胎児の状態をハナの協力を得ずして行えるようになったのだ!

 とはいえ、まだそちらの能力は低いので、初見の相手に関してはヨシヤが接触した状況でハナの力を借りなければならないのでやはりハードルは高いままである!


 そしてハナの女神としての能力は、及ぼせる影響力というやつである。

 具体的には、胎児に対して好影響を及ぼすことや、妊娠能力向上や抑制を元々司っていた部分だけでなく、出産後も彼女が祝福した子供達に関して加護を与えられるようになったのだ!

 これにより、ハナは『妊婦限定』だった神格が『妊婦を主とし、子供たちの健やかさに関してもお願いできる』神格へと変化したことになる。


 些細な変化ではあるが、これはかなり大きいのだ。

 そう、つまり……信者獲得に対して、宣伝できる部分が増えた、そういうことである!


(よし……いくぞ!!)


 ヨシヤは気合いを入れて、ドアを控えめにノックする。

 トントン、トントン……。


「あ、あの、すみません……」


 お前は恩返しに来た鶴か。

 そう突っ込みたくなるほど、か細いノックと声であった。


「ご在宅ですか~……ヨシヤですが……」


「ヨシヤさんっ!?」


「うおっ!?」


 もう一度ノックをして、無反応ならきっと留守なのだ。

 留守なら出直そう、そう思いつつ念のためヨシヤは名乗りを上げた。

 すると途端に扉が勢いよく開いたのである。これには思わずヨシヤもびっくりして大声をあげてしまった。


 開けたのは家の主であるリチャードであり、その後ろにはマーサの姿も見える。

 二人はヨシヤの顔を見ると、満面の笑みを浮かべて――そして、有無を言わさずにヨシヤを家の中に引きずり込んだのであった。

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