夏祭りヒーロー/線香花火

TiLA

夏祭りヒーロー

紅く染まった入道雲

東の空は紫がかり


オレンジ色の提灯が映ゆる

夕暮れの夏祭り


参道に並ぶ屋台と

行き交う人々


かき氷を食べながら歩く

楽しげな少女達


サイリウムをまわす

甚平姿の子供


肩車している父親の手には

おまけの金魚が一匹


近くて遠い

賑やかな祭囃子


遠くて近い

ヒグラシのこえ


浴衣姿のきみは

いつもより大人びて


上げた髪に刺したかんざし

とても似合っていた


綿菓子はふっくら大きく見えても

口に入れてしまったら

途端に小さくなるよ 


ときみが言う


何だか幸せみたいだね 


とぼくが返す


うん、それで甘いの 


きみが笑った


いくら団扇うちわあおいでも

顔の火照りがおさまりそうにないから


特撮ヒーローのお面で顔を隠した


遠くて近い

幼馴染みのきみ


近くて遠い

その右の手


なんで急に変身したの? と訊かれても


ヒーローに秘密はつきものだから


地球の平和は無理でも


守りたい笑顔がぼくにはあるんだよ


きみに聞こえない小さな声で


そっと呟いた


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