(順番無視で先行チラ見せ②)幸福な幼いシャーロットの絶望
今から約9年前の、大戦が始まる前、人々はまだ国境を自由に行き来することができていた。
夏になると、都会に住む裕福な家庭の人間や貴族たちは、国内外問わず、こぞって自然豊かな田舎や避暑地を訪れ束の間の休暇を満喫した。
当時11歳だったシャーロットもまた、短い夏の間を、母方の親戚が別荘を構える国境付近の外国の片田舎で過ごすことになっていた。
今でこそ健康的でハツラツとしたシャーロットだが、当時は身体が弱く、綺麗で端正な目元はどこか陰鬱としていて、まるで可憐な花がしおれているかのように元気がなかった。
幼い彼女を追い詰めた要因は、非凡な才能を持つが故に課せられた息の詰まるような英才教育や、母親の病死など、幾つもあったにもかかわらず、シャーロット自身はそれを自分の弱さや至らなさのせいだと思い込んでいた。そのため、悲しいかな、彼女にとって『休息を取る』ということは、そのような暗い自己嫌悪の中に身を沈めることと同義だった。
シャーロットは、休む方法も、子どもらしく遊ぶ方法も知らなかった。それができていた時期もあったのかもしれないが、忘れてしまっていた。
自分の弱さを見なければならなくなるくらいなら、休みなんてない方がマシだ。手持ち無沙汰になって悲観に暮れるくらいなら、こなさなければならない、さらなる課題を課されることの方を望んでいた。
当時家を空けていた父親に代わって目をかけてもらっていた、年の離れた一番上の兄の愛情のこもった計らいで田舎に滞在する話が進められ、それを「勉強はしなくてもいいんだから、楽しんでおいで」などと手紙で伝えられた時には、密かに絶望した。
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