第71話 強そうな2人


「ガメェ?」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「何とか……なったな」


 俺は思わずその場にひざをつきそうになるが、それはしない。

 膝をつく。

 それは敗北と同義だ。


 俺はそんな事は決してしない。


「嘘……そんな……蘇生なんて……出来るはず……」


 そうつぶやいて見ているのはメディだ。


 彼女はじっと守り神を見ていた。


「信じられないのであればもう一度殺すか?」

「ダメ!」

「だろう? なら、お前はその一族の力を使って会話をしてみろ」

「……うん」


 それからメディは両手を組んで祈るように守り神の方を向く。


 守り神もじっとメディの方を見つめていた。


 それからしばらくして、メディは目を開いてこちらを向く。


「大丈夫だった。守り神様も……シュタルさん……様に感謝していた」

「そうか。それは良かった。では何が起きたか聞いてもいいか?」

「何がって?」

「守り神は誰かに魔法陣を描かれていたんだろう? なら、そのやってきた相手の情報を持っているとは思わないか?」

「なるほど。分かりました。少しお待ちください」


 そうして彼女は再び先ほどのポーズを取った後に、またこちらに向き直る。


「守り神様は、とても……とても強い2人と戦ったと言っています」

「とても強い2人?」

「ええ、1人は多彩たさいな魔法陣を扱う老人……魔族だったと」

「それは恐らく【魔陣】だろうな。もう一人は?」

「もう一人はたった1人で守り神様を持ち上げることが出来る程に力の強い者だったと言います。持ち上げられてひっくり返されている間に意識を持っていかれた……と」

「なるほど、守り神を持ち上げる事ができる程の力の持ち主……か。なるほどな。それはそれで楽しみだ」


 守り神を持ち上げられる……。

 そんな力を持つ奴とこれから戦うことになるのかもしれない。


 そう考えるだけでかなり楽しみだ。


「よし。分かった。それでは……後は帰るだけだな」

「はい!」


 それから俺達は一緒に戻り、街の中に入った。





 ざわざわざわざわ。


「あれ、リート一族の2人は……」

「本当だ……もしかして……生きておられたのか……?」

「おい急げ、急いで報告に……」

「そ、そうだな」


 そんな具合でかなりメディとシビラは目立っていた。


「目立っているな。というか、2人はこれから屋敷に帰るということでいいのか?」

「はい。これからのことを……色々と話していかないといけないと思ったので……」

「では送ろう」

「……ありがとうございます」


 それから俺達は多くの目に見られながら彼らの屋敷に戻る。


 屋敷は領主の館か? そう思える程に大きく、少し壊れているところもあるが、いまだに手入れをされているのが分かった。

 俺達は揃って中に入る。


 すると、彼らの屋敷に入ると、メディ達に駆け寄ってくる1人の老人がいた。


「姫様! 姫様……では……ありませんか?」

「ええ、大分……開けてしまいましたね。申し訳ありません」

「いえ……姫様……それに若君まで……。よくぞご無事で……」

「じいやこそ元気で良かった」

「いえ……ワシのこと等お気になさらず……。そして、そちらの方々は?」


 じいやと呼ばれた老人が俺達の方を向いてくる。


 そして、メディが俺達の事を彼に紹介した。


「彼らは守り神様を元に戻して下さった方々です。丁重にもてなして下さい」

「守り……神様を……戻して……とは?」

「最近水賊に操られている。そう言われていたでしょう? それを何とかして下さったのが彼らなのです」

「それは……真実ですか?」

「そうだ。最強であるこの俺、シュタルにかかればその程度造作もない」


 俺がそう言うと、彼はわなわなと体を震わせ、それからおもいきり俺の手を握ってきた。


「ありがとうございます! ワシ等は……このリート一族は守り神様がおかしくなってからそれはもう……大変な状況だったのです。領主が口出しをして来たり……。他にも民の中にも悪いことをささやく者もおり……。これで全て問題がなくなります。貴方様のお陰です!」

「気にするな」

「今あるもの……そこまで豪勢には出来ませんが、出来る限りの事をさせて頂きます! なので、ごゆっくりとして行って下さい!」

「いいのか?」


 俺は確認を取るようにメディに視線を向ける。


 彼女は当然という様に頷いた。


「勿論です。貴方が望むならずっと居てくださってもいいのですよ」

生憎あいにく俺にはやるべきことがあるからな。それは出来ん」

「そっか……残念です」


 そう話す彼女の顔は若干赤い。


 きっと、じいやと再会出来て嬉しいのだろう。

 ずっと……娼館で掃除をし続けていた訳だからな。


「近くを通ったらまた来る。その時に寄らせてくれ」

「! はい! もちろんです! それではじいや! 早く屋敷の者達に知らせて! それに街の皆にもこの事を知らせないと!」

「勿論ですぞ!」


 そう言ってじいやは走り去り、俺達はメディの案内で部屋に行こうとする。

 その時に、後ろから声をかけられた。


「おっと、メディ……わたしへの挨拶が先ではないかな?」


 俺達が振り向くと、そこにはきらびやかな服に身を包んだ如何いかにも貴族ですという様な面構えをした男がいた。

 その男の周囲には、騎士らしき男たちが6人ほど囲っている。


 メディはその男を見て、嫌そうにつぶやく。


「領主様……」

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