第55話 小さな村の祭り

***リュミエール視点***


「う……うぅ……ん」


 私は疲労感ひろうかんの残る体を持ち上げて周りを見る。


「ここは……宿?」


 昨日の記憶をさかのぼると、確か集会所の魔法陣を消す所までの記憶があった。


「成功したの!? あう!」


 私は不安になり、ベッドから飛び出そうとした。

 でもその瞬間に何かに弾かれてベッドに戻される。


「何……これ……シュタルさんの『結界魔法シールド』?」


 私をベッド含めて囲んでいるそれを見て何かを察する。


 恐らく、私は魔法陣を解いた時に疲れてしまって眠ってしまったのだろう。

 だから、シュタルさんが私を守ってくれるつもりで張ってくれたに違いない。


「別に一緒のベッドでもいいのに……」


 私は独り言を言いながら『結界魔法シールド』を解く。


 それを解くと、村の中が騒がしいことに気が付いた。


「何これ……凄く……楽しそうな……曲?」


 私は村の状況を思い出しながら外に出ると、そこはまさに祭りと言った雰囲気だった。


 村の中ではこんなに人がいたの? と思うほどに大勢の人達が飲めや歌えやで騒いでいる。

 どこにあったのか鳥のような肉を焼いた物を口いっぱいに頬張っている人、酒が入っているのか顔を赤らめながら木のジョッキをあおる人、中央では大きな火がかれていて、それの周囲で踊る男女。

 本当に祭りにしか見えないが、どこからこんな食料を……。


 そう思ってふらふらとそちらに行くと、ちょっといかつい男性に声をかけられる。


「あれ? アンタまさか光の巫女様かい?」

「え? ああ、はい。そうですが……」

「そりゃあ良かった! おい皆! 主役が目覚めたぞ!」

「何!? そりゃあこっちに案内しろ!」

「こっちでさぁ! 巫女様!」

「え? あ、ちょ、ちょっと?」


 私は皆に誘われるように中心に連れていかれる。

 そこは少し大きく組まれたやぐらがあって、そこには所狭しと色々な料理が並べられている。

 その前にはシュタルさんが座っていた。


「シュタルさん……」

「リュミエール。目が覚めたか?」

「はい。しかしこれは……どうなっているんですか?」


 私は訳が分からずシュタルさんに聞くと、当然という様な言葉が返ってきた。


「何、お前が寝ている間にちょっとこの近辺にいる魔物を狩って来たんだ。だから今のこの村の食料庫はあふれる程に一杯だぞ」

「え……そんな……私ってそんなに眠っていたんですか?」


 目の前には肉や魚、野菜、果物等一体どこから取って来たんだと気になる様な物がある。

 もしかして1週間とか寝てしまっていたのだろうか。


 シュタルさんはそれを否定する。


「いや? まだお前が寝てから15時間くらいしか経っていないぞ」

「え……15時間でこんなになるものですか?」

「村長を起こして祭りの準備をさせて、それから狩りに行った。割と全力で色々と狩って来たからな。これくらいには増やせるさ」

「流石ですね……」


 一体どんな速さで行ったのだろう。

 私は……やっぱりシュタルさんの足を引っ張ることしか出来ないのだろうか。


 そう思っていると、シュタルさんは嬉しそうに話してくれる。


「リュミエール。好きな物を食べろ。今回はお前が頑張ってくれたお陰でこの村は助かったんだ。皆も感謝している」

「え? でも私は……」

「魔法陣を綺麗に解除しただろう? 忘れたのか?」

「いえ……でも、これを集めたのは……」

「集めたのは俺だが、この街を救ったのはリュミエール。お前だよ。その事は勝手に俺の手柄てがらにするなど許さんぞ。俺は最強。必要な手柄は自分で立てる」

「シュタルさん……」


 私がそう言うと、シュタルさんは楽しそうに木のジョッキを差し出してくる。


「今日は精一杯頑張ったんだ。ひとまず楽しもう」

「はい!」


 それから私はシュタルさんの進めるままに食事を楽しみ、シュタルさんを誘って踊った。

 とても楽しかった。

 今までは……ずっとシュタルさんのやっている事を見ているだけだった。

 でも、今回私もその力になれて、本当に……本当に嬉しかったのだ。


 次も……私は彼の力になりたい。

 そう、心から思った。


******


「それじゃあ俺達はこれで出発する」

「ううぅ……シュタルさんが5人います……」


 俺達は祭りを終えた次の日にサラスに向かって出発することを決めた。

 ただ、リュミエールは昨日羽目を外し過ぎたのか今日は二日酔いだ。

 今も俺の手に捕まってかなりぐったりをしている。


「リュミエール。光の巫女がそれでいいのか」

「光の巫女が楽しまないで誰が楽しめるんですか……」

「たく……」


 彼女は酔うと口が回るようになるらしい。

 全く、なんて奴だ。


「ふふふ。とても仲がよろしいんですね」


 そう言って来るのは最初助けたそばかすの少女だ。

 彼女は村長と一緒に俺達の見送りに来てくれた。

 それ以外の人は基本的に酔いつぶれている。


「どうだろうな」

「とっても素敵ですよ」

「そうか」

「しかし、もうちょっと残って下さっても良かったではないですか?」


 今度は村長が言って来る。


「いや、俺達にはやることがある。だから長居は出来ん」

「そうですか……もっと感謝の気持ちをお伝えしたかったのですが……」

「せんでいい。いや、その気持ちがあるのなら、この俺、シュタルが最強であると伝えろ。それと……」

「それと?」

「恐らく、これから王都からかなりの者が来るはずだ。その時に、お前達の食料がなくならない範囲で食わせてやって欲しい」

「それは構いませんが……本当に我々だけで食べてしまっていいのでしょうか? あれほどの量……一体いくらになるのか」

「いい。必要なら俺は自分で取ってこれる」

「……ありがとうございます。シュタル様。貴方はわが村の救世主です」

「気にするな。ではな。もう行く」

「シュタルさん……おんぶ……」

「分かった。おんぶしてやるから吐くなよ」

「頑張ります……なので、その頑張りをめて下さい……」


 俺はリュミエールを背負い、苦笑している2人に別れを告げる。


「ではな」

「はい。本当にありがとうございました」

「またいつでもお越しください。その時は村を上げて今回のより凄いのを開きます」

「楽しみにしている」


 俺はそれだけ伝えると、サラスに向かって進む。


 時折振り返ったのだけれど、2人はずっと頭を下げたままだった。


「全く、律儀りちぎな奴らだ」


 俺はそう呟いて先への道を少しだけ急いだ。

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