第25話 救世主?
それから俺達は地面に埋めた者達も回収してからベルセルの町に戻る。
昨日からずっと回復させる事をしていたので、時刻は明け方にまでなっていた。
ベルセルの町は思った以上に静かで、まるでバレないように息をひそめているみたいだ。
「大分静かですね。……明け方だから当然ですか」
「そうだな」
俺は自身の背に水牢に入れた者達を浮かべて町に入る。
「見張りもなしか」
町に入って、集会所の方に行くと多くの人が集まっていた。
なるほど、町の外付近にいなかった理由はこれか。
彼らが話している会話を聞いて納得する。
「急いでここを出るべきよ! 昨夜の地響きも何があったのかわからない!」
「ですがここからどうやって出るというのですか! 戦える者もいないのですよ!」
「それでもここで死を待つよりはマシなはず!」
「そんな事は出来ないわ! まだ赤子も沢山いるのよ!」
この様に、町から出るかどうかでかなりの議論を続けていたらしい。
俺はゆっくりと彼らに近付く。
すると、1人また1人と話すのをやめてこちらを見つめてくる。
俺は軽く手を振った。
「よう」
「……」
しかし返事はない。
生きていると思うのだがな。
「シュタル……様……ですか?」
「それ以外の誰に見える?」
そう口を開いて来たのは、昨日、俺達を出迎えてくれた町長だ。
彼らの議論の中心にいたらしい。
かなり高齢で厳しいだろうに、よくやる。
彼は俺の後ろを見ながら聞いてきた。
「その……後ろ……のは……。もしかして……」
「ああ、この町の者だ」
「おお……では……なぜ……?」
「なぜ? 暴れたからな。動けないようにしている」
「そんな……」
彼はそう言いながら、恐怖を抱いた様な目を俺に向けてくる。
そして、彼の言葉に今度は俺が驚かされた。
「彼らを奴隷にするのですか?」
「!?」
「ど、どういう事ですか?」
俺は不意打ちでそう言われた事が驚き過ぎて何も言えなくなってしまった。
ただその代わりに、リュミエールが聞いてくれた。
連れてきて初めて良かったと思えたかもしれない。
町長はこちらと後ろの兵士達を伺いながら聞いて来る。
「以前来られていた時も、山賊を同じように扱っていらっしゃったので……もしかして……と思いまして」
「ああ……あれか」
確かにこの町に入って来た時はそんなことをしていたなと思う。
でも、それは確実に違うので安心させてやらねば。
「こいつらはSランクの魔物。ダークカーニバルトレントに操られていたんだ。だから、その時に暴れてな。そうさせないように操られた状態を解いて、動けなくなったからこういう形にして運んできたんだ」
「そんな……たった……たった1日でそれを解決されて来られた……と?」
「ん? そう言えばそうか。まぁ俺は最強だからな。それくらいはして見せよう」
「救世主様……」
「ん?」
こいつは何を言っているんだ?
俺は最強であって救世主ではない。
「俺は救世主ではない」
「しかし……その背中……背後にはまるで後光が指している様に……」
「なんだ?」
俺は彼の言っていることが分からずに、後ろを振り向く。
すると、そこには俺が浮かべていた水の牢に朝日が当たり、俺に向かって光が集まっているようになっていた。
「シュタルさん……これはやってしまいましたね」
「狙っていた訳ではないだが……」
適当に後ろに浮かべて行く時に、綺麗に資格に並べるよりも〇にした方がいいかな。
という程度でしか思っていなかった。
それが、いつの間にか後光が指していることになり、町長は手をあわせて祈っている。
「ありがとうございます。ありがとうございます」
「いや、いいから立て。そして、こいつらを世話してやってくれ」
「はい! 救世主様! 貴方の言葉であれば全て聞かせて頂きます!」
「そこまでは……いいが……」
俺が流石の押しに一歩下がると、彼が一歩出て来る。
「いえ! 是非とも! 是非とも宴もさせて下さい! 流石に今すぐ、という事は無理ですが、それでも彼らが目を覚ました
「わ、分かった。それならそれでもいい。とりあえず、こいつらの身元、家族などが分かるやつを連れて来い」
「畏まりました! お前達! 救世主様に頼み我々の大切な仲間を受け取るのだ!」
「はい!」
それから俺は彼女達に男達を返して行く。
最近は力仕事も女がやっていたようで、男一人くらいだったら持っていける者もいた。
けれど、1日中議論等もしていたので、きっと疲れていたのだろう。
途中からは、俺が送るようにした。
「後は……100人くらいか? リュミエール。お前は寝て来い」
「いえ……シュタルさんが……起きているなら……私も……」
「全く。仕方のないやつだ」
リュミエールは目をしぱしぱさせながらも、俺の隣で立ち続けている。
きっと座っていたら眠ってしまうと思っているのだろう。
可愛い奴だ。
それから俺は残りの者達も回復し、全てが終わる頃には日が高くまで登っていた。
「すぅ……すぅ……」
俺の足元では、リュミエールが寝息を立てている。
足に寄りかかるようにして、意地でも寝転がる気は無いらしい。
「全く。無理をして」
俺は彼女を抱えて、宿に向かった。
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