第23話 崩落?

 トレントは地面の中からボタンのついた箱の様なモノを地面から取り出した。


 俺は不思議に思い訪ねる。


「それは?」

「これはな……こうするんだよ!」


 ポチ


 奴がそのボタンを押すと、ゴゴゴゴゴゴゴと地鳴りの音が聞こえてくる。


「貴様。本当に何をした」

「何をした? 決まっている。この町を土の下に沈めるのさ! さっきのボタンはあの町を囲っている岩の壁を壊す為のスイッチだ!」

「まさか……ここにそこまで人が居なかったのは……」

「そうだ! その為の準備でかなりの数を動員していたからなぁ! 王都を落とす前の準備運動に丁度良かったぞ!」

「そうか。少しの間待っていろ」

「はぁ!? 何でてめぇの為に俺様が待っておかないといけ「『植物固定魔法プラントロック』」


 俺は植物の時を止め、ずっとその姿を保たせる魔法を奴に使う。

 一応Sランクの魔物なので、効くかどうかは少し賭けだった。

 まぁ……ダメでも他に手段は幾らでもあったけれど。


「リュミエール。少し待っていろ。そこに居れば安全だ」

「し、しかし、町が!」

「俺に任せろ。最強である俺に出来ぬことなどない」

「……ええ。信じています」

「行ってくる」


 俺は少し足に力を入れて空へと飛び上がった。

 そして、今何が起きているかの現状把握から始める。


 ダークカーニバルトレントが言っていたように、周囲の壁が緩やかに揺れ、次第にその揺れが大きくなっている。

 町の中の人々も何が起きるのかと家の外に出て、絶望しているのかしゃがみ込んだり、神に祈っていた。


 俺はそんなのを見た後に、やることを決める。


「まずは『飛行フライ』」


 空を飛べる魔法を使い、もっとも崩れかけている所に向かって行く。

 そして、今にも崩れかけそうな大岩に向かって張り手を繰り出した。


 ズン!


 俺の張り手を受けた大岩は、崩れるようにセットしてあった何かごとズン! と少し地中に埋まり、動かなくなる。

 感触からして奴が作った植物の何かだろう。


「よし、いい感じだな。さっき人を埋めこんだ時の力加減が活かせそうだ」


 俺はそれから崩れそうな壁に近付いては張り手を繰り返し、壁が壊れる事を全て防ぐことが出来た。


「うむ。これだけやれば大丈夫だろう。ただ……」


 問題も1つある。

 それは、こうやって埋めこんでいるままだと、いつか崩れて来るかもしれないのだ。


「どうするかな……。うーん。まぁ……普通に固めるか」


 俺は目を閉じて魔力を循環させる。

 そして、威力をそれなりにあげ、範囲を広くして魔法を発動させる。


「『土固定魔法アースロック』」


 俺の近くの岩をそれなりの固さに固定していく。


 コンコン、ゴン!


 俺は少し強めに岩を殴るけれど、それが動いたりする様子はない。


「よし。これくらい出来ればいいか」


 岩から手を引っこ抜き、次の場所に向かう。

 壁が全て崩れないように確認してから、俺はリュミエールの所に戻った。


「よし。終わったぞ」

「え? 音が止んだからまさか……と思いましたけど……本当に……もう?」

「ああ、崩れないようにして固めてきた」

「そんな……パンをこねるんじゃないんですから……」

「まぁ……何でもいいだろう。それよりも俺が離れている間に何か変わった様子は無かったか?」

「離れていたって……5分も経っていませんよ?」

「それでも、お前から離れた事は事実だからな。お前の護衛をするんだ。本当は一時も離れるつもりはない」

「そんな……1人になりたい時もありますよ。水を浴びている時とか」

「安心しろ。気配で全て把握している」

「それはやっぱりやめてもらえないです!? プライバシーって大事だと思うんですよ」

「お前の命の方が大事だ」

「もう……そんなこと言われたら……と。それはいいんでした。あの魔物……どうします?」


 リュミエールが話を途中で打ち切り、トレントの方を見る。


 俺もそれにつられてトレントの方を見て、魔法を解除した。


「ない訳がないだろうが! これからこの山は全て土の下に沈むのだ! ぐっぐっぐっぐっぐ!」

「……」

「……」


 俺とリュミエールは奴がこれ以上何を言うのか待っていた。


 奴は、もう色々と終わっているのに気付いていないのか更にぺらぺらと話始める。


「そもそもこの町はミリアム様の作戦の拠点の1つに過ぎない! 王都を包囲する為の作戦のなぁ! いいのか? もう岩が壊れて町を押しつぶすぞ? 1人でも助けに行くべきではないのか? 正義の味方よ!」

「……」

「……」

「どうした? 諦めてしまったのか? それはそれでいいだろう。そうなるのが当然ではあるからな! ぐっぐっぐ。どうした? なぜ何も喋らない? もしかして壁の崩れる音に絶望しているのか? ぐっぐっぐ。俺様も聞くとしよう」


 奴はそう言って口を閉じて耳を澄ます。

 けれど、シンとしたままで、何も聞こえる様子はない。

 木なのに何だか汗が出ているような気がする。

 あ、奴の場合樹液か。


 奴も不思議に思ったのか、上目遣いで伺うように聞いてくる。


「な、なぁ。お前……何かしたか? 壁が崩れて来ないんだが……。というか、壁の色とかちょっと濃くなってない?」

「ああ、だって壁はもう崩れないように固定したからな」

「は? なんて?」

「壁は崩れないように固定した」


 奴は大きな口をこれ以上無いくらいに開けてじっと俺を見ている。

 それから、思いだしたかのように話し出す。


「壁っていうのは……町の中の?」

「なんでこんな時にそんなことするんだ。無駄だろう」

「固定……湖底? 湖の底の話?」

「脈略が無さ過ぎると思わんのか」

「それじゃあ……まさか……本当に?」

「ああ、お前の時を止めて壁を直して戻ってきた」

「そ……」

「そ?」

「そんなことあるか~~~~~~!!!!!?????」


 奴の叫びが、この日山中に轟いたと言う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る