エピローグ

「こ、これからどうするのよ……」 

 

 燃え盛るラミレス公国を眺めるながら呆然とするアルビノたち。


「逃げる……当然だろう?」

 

 それに対するアルビノのリーダー格である男、リウスの答えは簡潔だった。


「それしかできん。元より俺たちに選択肢など無い。ここでノコノコ出ていっていつか魔族によって人間社会が脅かされる!とでも言うつもりか?殺されるだけだとも。何も出来ない。俺らは裏の住人であるから故に……ふー」

 

 何もかもを諦めたような表情でリウスは崩れ落ちる。

 

「俺たちに与えられた選択肢など……一つしかない。どんなことがあろうともあの小さな男の子に協力するしかない。それ以外に方法など無い。どうせ10年以内には攻めてくるだろう。あの子の年的にも。全盛期を外れた年齢で攻めてくることはないはずだ……それも希望的な観測にすぎんがな」

 

 完全に詰みである。

 魔族が侵攻してくると誰かに伝えることもできず、アルビノたちだけで魔族に反抗する事もできない。

 出来るのは何も知らなかったと忘れるか、魔族のためになることをするか。

 そのどちらかしかないだろう。 

 忘れることなんて出来やしない。

 であるならば、魔族のために行動するしかない。手伝うしか無い……あの少年が信頼におけない人間であったとしても。


 ずっと居なくなった名も知らない少年が消えた場所を見つめていたリウスが振り返り、苦笑する。


「なァ?俺はそうする。忘れることはできん。忘れても魔族は来る。なら保身に走る……お前らはどうする?味方は平然と嘘をつき……平然とこの地獄を許容する男だ」

 

 ラミレス公国は沈んだ。

 男も子供も生きたまま焼かれて絶叫して死に、女は友を、恋人を、夫を、子を……目の前で焼かれながら犯される。

 ラミレス公国で生き残っているのは尊厳を踏みにじられている女たちだけ。

 それも、明日には殺されているだろう。

 ここを地獄と言わずしてなんと言うだろうか?


 これを作ってなお、平然としているなど……一体どれほどの物を心の内に抱えれば……それとも生まれながらの、生粋のものなのだろうか。

 どちらにせよ。恐ろしい。

 リウスはあの小さな少年に心の底から恐怖し……逆らうなどと言う気は微塵ももちあわせていなかった。


「……」


「……」


「……」

 

 そして、それは他のアルビノたちも同様だった。


「逃げるぞ」

 

 リウスは彼ら、彼女らの瞳を見るだけで理解出来てしまう。


「……」

 

 アルビノたちは撤退していく。

 現実から目を背け、自分たちが助かるために。

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