第9話

「食料問題の……延命の兆しも見えてきましたね」


「本当に延命だけどね……」

 

 食糧を調達し、それを流す作業を終えた僕とミミリーは廊下を雑談しながら歩いていた。


「……ん」


 僕が歩いていると、ミミリーとともに廊下を歩く僕はマキナと僕の部屋の窓に……張り付いて、こちらを凝視しているマキナを見つける。


「ふふふ」


「……?どうしたのですか?」 

 

 いきなり笑い出した僕を見てミミリーが首をかしげる。


「いや、なんでもないよ」

 

 僕はそんなミミリーに対して誰でもわかるような噓の言葉を投げかける。

 ふふふ……嫉妬しているマキナも可愛いなぁ……。

 

 優しさ。誠実さ。

 それはゴミだろう。

 良い味方をすれば英雄と呼ばれるような人間にはほとんど闇とも言える部分が存在する。

 ナチスの総統たるヒトラーやソ連の書記長たるスターリンは語るに及ばず。フランスのナポレオンやアメリカの偉大な大統領であるワシントンやリンカーン、ケネディ大統領だってそうだ。

 

 優しさと誠実さに溢れる王が世界に君臨するよりも冷酷で残虐な王が君臨しているほうがいいのだ。

 だが、それではただの恐怖政治でしかない。

 だからこそ、恐怖の対象である王に意見することが可能であり、人々に優しく接することのできる副官が必要になる……なんてことを僕はマキナに語ったのだ。

 

 マキナは一人頂点に立つ絶対の王。

 その傍にいるのは僕だけ。

 ゲームのようにマキナが蛆虫どもに囲まれる光景なんて絶対に作らない……その代わりをするのは僕なのだ。

 マキナは永遠に僕のことだけを見続けていればいいのだ。


「ふふふ……」

 

 随分と僕も変わったものだよね。

 昔、この世界に元々生きていたもう一人の孤独に泣いていた『僕』は死んだと思っていたけど……今もなお歪んだ形で僕の中を生きていた。

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