第29話

「ごめん……殺せなかった」

 

 アークライトを殺せなかったマキナは僕の前に立って頭を下げてくる。


「いや。これは完全に僕の失態だ。……あれはマキナであってもどうしようもない。不可能な命令を出した僕の責任だ」

 

 三大魔道具のことは完全に頭の中になかった。

 明らかなる僕の大失態だろう。

 魔道具は自分の代わりに魔法を使ってくれる便利な道具なのだが、大した働きをシない……魔族が使う代物でない

 後一つの三大魔道具はどこかの公爵家が持っていると予め警戒しておいた方が良いな。


「……本当にごめん」


「いや、大丈夫だってば。……魔族の軍勢はしっかりと倒したんでしょ?」


「うん。倒したよ」


「それで十分だよ。ありがとう」


 僕は短い手をいっぱいいっぱいに伸ばしてマキナのきれいな髪を撫でる。


「えへへ」

 

 マキナはだらしなく頬をだらけさせ、デレデレの表情を見せる。

 僕が撫でやすいように自分は屈んで撫でやすいように配慮してくれる。うん。これなら僕は疲れない。


「終わり」

 

「あっ……」


 しばらく撫でていた僕は自分の手を外す。


「ほら、もう良いでしょ?帰るよ」


「……うん」


 少しだけ寂しそうにしているマキナを連れて僕はお城の方へと戻る。 


「……」


 アークライトを殺せなかった。

 ……僕がアースライト公爵家に齎された新しい風であることを最悪に近い相手に知られ、逃げられてしまった。

 

 どうする?僕を殺すとかかなりのイージーゲームだぞ?持久力がない僕とか囲まれるだけでフルボッコなのだが。

 ……引きこもろう。うん。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る