里依紗の話④
私は、離婚を突きつけられたのに、寝室に入った。
譲は、眠っていた。
「譲、嫌だよ」
「明日、仕事なんだ」
「譲、しよう」
「俺としたって妊娠しないよ」
「わからないじゃない」
何のプライドが、邪魔するのかな?
譲にごめんなさいを言えない
「そうしたいなら、そうしなよ」
穴ぼこが開いてるみたいに真っ黒な目が私を見つめていた。
私、譲を追い詰めてる。
本当に、譲は限界なんだ。
「いいよ、して」
なのに、優しくしようとしてる。
愛した人だからだと思う。
「里依紗、しないなら寝るよ」
そう言って、譲は私の頬に手を当てる。
初めて知った、私は譲をこんなにも追い詰めてる事。
そして、私自身、こんなにも追い詰められていた事。
「愛してるかわからないのに、優しくするの?」
涙が、頬を濡らしていく感覚がする。
「それは、愛してた人だからだよ」
譲は、私の涙を拭ってくれる。
「私達、もう無理なの?」
「ごめん」
「それなら、抱いて」
「里依紗」
「離婚する日まで、抱き続けて」
「里依紗」
私は、譲の傷つけ方なら知ってる。
「3ヶ月あるんでしょ?だったら、抱いてよ」
「でも…」
「妊娠したら、一人で育てるから」
「それは、駄目だよ」
私は、譲の優しさを知ってる。
「こんなに頼んでるのに、駄目なの?譲」
「わかった」
譲の長い指先が、私のパジャマのボタンをはずしていく。
私は、譲の愛し方より、譲の傷つけ方を知ってしまったようだ。
「抱いて」
「俺としたって妊娠しないよ」
そう何度も泣きながら言って、私の胸に手を当てる。
上に乗ってる私に、譲の膨らみがあたる。
まだ、私でそうなるじゃん。
愛してるかわからなくたって、体は答えてるじゃん。
譲は、ずっと涙を流してる。
いつから、こんな風になったのかな?
誰かの妊娠の話を聞く度に、心が磨り減った。
誰かに赤ちゃんが産まれる度に、譲を傷つけた。
二人で生きて行こうって、一度でも譲に笑って言えたら良かったんだよね。
夫婦二人、治療して幸せそうな人がネットに溢れてる。
私は、そこにすら入れなかった。
【俺としても、赤ちゃんできないよ】
そんな言葉を譲に言わせてばかりだった。
「いれていいよ」
「まだ、いいよ」
「明日、早いんでしょ?」
「そうだけど…」
さっさといれて、終わらせてよって何度思ったっけ?
長くしようが、短くしようが、妊娠しないんだから…。
だったら、短くていいわって何度思ったっけ?
「里依紗、俺を愛してた時あった?」
「譲?」
「3ヶ月って言われたから、やけになってるだけかなって思ったんだ。ごめん」
その言葉に、固まっていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます