夕陽から飛びだして来い
山と空
第一章 宇宙の定め!?
第1話
天春晶(あまがすあきら)は高校からの帰り、田んぼの前で友達と別れ一人歩いていた。
畑と家が並ぶ郊外の道。風が強くてスカートがめくれたけど、周りには誰もいなかった。
晶は天に感謝した。
冷たく怪しい風がスーっと吹き抜け、雲が重くなってきている。
雨が降ったら厄介だと、晶はせかせか歩いた。一張羅のローファーを濡らしたくはないのだけど、走りたくもないのだ。
しかし、地面をぽつっぽつっと叩く音がすると空から一斉に白いものが降ってきた。水気で濃くなったアスファルトの上を氷の粒が転がっている。
晶は近くのビニールハウスから、地面で砕ける氷と弾ける雨を見た。間一髪のところで逃げ込めたのだ。
ビニールハウスの入り口で氷雨が止むのを待っていると、隣接している家から農夫がやってきて、晶の前で立ち止まった。
「すいません、雨宿りして、させて下さい」
晶は、まごまごして言った。ビニールハウスの天井を叩く雨音が強くて、声が届いてるのかも分からない。
農夫は何も言わずにただビニールハウスの扉を少しだけ閉めて見せると、濡れながら家に戻って行った。晶はホッとして、「この辺の農家はこういう所が良いんだよな」と思った。
農夫と入れ違いに、小学生が声を上げながら走って来た。ランドセルを被って、頭を守っている。そして、ビニールハウスに入ってくるや否や。
「ねぇ!これ何!?」と、友達のように聞く。
「ヒョウだよ」と、晶は答えた。
小学生は独りで感嘆したり、氷を手に入れようと空に腕を突き出したりしている。
ふと背伸びをする小学生の足下を見ると、先ほど農夫が閉めてくれた所が水たまりになっていて、跳ね返りで扉が泥だらけになっている。
「あの人」、晶は心の中で農夫の親切を理解した。
しかしおかしな天気だ。今朝の予報では一日晴天と言っていたのだ。晶は空を眺めて、まだかかるのだろうかと思った。犬の散歩もあるし、昨日買ったお菓子が食べたい。犬は雨でも雪でも散歩を喜ぶから、きっと待っている。
大体こういうものは二十分くらいで収まる、晶はそう見当をつけていたが携帯も時計も持っていないので、ただ待つしかなかった。
そのうち小学生も飽きてきたのか、「まだかなぁ」と、しきりに呟いた。
晶は、ビニールハウスの外側に小枝を発見すると、サッと飛び出して拾って来た。小学生は「なになに」と、晶の手にしがみつきたいような手をした。
晶はしゃがむと、扉の内側に「Thank you」と書いた。小学生は「何これ」と聞く。しかし晶は「ありがとうございました」と、直接的なことを書くのが恥ずかしいから英語で書いたのであって、言葉にするのは同じく恥ずかしい。しかし小学生は、何度も聞いてくるで晶は考えて、「雨宿りをした時に言う言葉」と、言った。
そして、君も書くか?という風に小枝を渡すと小学生は丸や星を書いて、晶の書いた文字と偶然にも似合うような形になった。
気が付くと、雨音は消え木の葉から落ちる滴の音だけが微かに聞こえた。そして陽が差仕込むと、辺りがパッと明るくなった。
小学生は水たまりをジャンプして外へ飛び出し「バイバイ」と、大きな声で言うとランドセルを鳴らしながら帰って行った。
ようやく帰路に着ける。安堵した晶は空を見上げて太陽を探した。白金色に煌く光を辿ると雲の輪郭を照らしていた。雲の中にいるらしい。
晶は水たまりを避けながら、のんびり歩いた。濡れたアスファルトに降り注ぐ光が反射して、眩しい。
眩しがり屋の晶は、手を傘にして歩いた。しかし、輝きが増していくようで、晶は目を開けていられなくなった。
心配になるぐらい眩しい。なんだこの明るさは。
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