第17話

 この日も、周りに誰もいないのを確認すると、晶は素早く小道に入って行った。そして、梅の並木道の前で小鬼にリードを渡した。

 はじめのうち、小鬼はただリードを持ってその場で喜んでいた。犬は持ち手が変わったことに気づいて後ろを振り返り不思議そうにこちらを見つめていたが、それよりも立ち止まっていることが手持ち無沙汰で、また鼻を鳴らし始めた。

 晶は小鬼に、犬が歩きたがっていることを伝え、進んでもらおうとした。すると、小鬼が進みだした途端、犬に引っ張られて新幹線のような速さで並木道を駆け抜けて行ってしまった。

 あっという間に姿が見えなくなり、晶は驚いて犬の名前を呼んだ。こういう時に言うことを聞くような犬ではないのだが、戻って来て欲しい一心で呼び続けた。

「どんぐり!どんぐり!」

 やっぱりね、あぁそうだよね、そういう者だよね。晶がそう思っていると、並木の外れから落ち葉を踏む音が聞こえる。

 目を凝らして奥を見つめると、どんぐりが梅の木の根元を嗅いでいる。そして、犬の背中辺りに小鬼が浮いているのが見える。

 晶はホッとして、並木道に入って行った。近づくにつれ、犬と小鬼の表情が明るいのが分かった。二人ともうまくやってるみたいだ。晶は、二人が来るのを立ち止まって見ていた。

「けっこう力が強いんだよ」

 晶の前に来ると、小鬼は嬉しそう言い、リードを軽く引いて犬を座らせた。あっという間に犬と意思を通わせられるようになっている。

 そして今度は一緒に並んで歩くようリードを引っ張ると、小鬼はフワリと浮いて言った。


「ハッハッハ、犬の散歩してみたかったんだ。叶った叶った」


 晶は手で傘を作って、眩しく光る小鬼を笑顔で見守った。

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