新米吸血鬼は不死になっても自由は無いのだと思い知る。
血を欲した
「あ、そういえば和希さん。今夜は予定ありませんか? 実は……」
「あるわけ無いだろ! こんな状態で何処に行けるんだよっ」
のんびりとふざけた事を言ってるキドに切れ気味に返答するが気にも止めずに聞いてきた。
「それは良かった。実は、わたし達吸血鬼にも自治会みたいなものが有りまして。新しく仲間を増やした場合には届け出る規則が……」
またしても話の腰を折ってやった。
信じられない! 自治会だと? 馬鹿馬鹿しい!
「もう人間じゃないのに自治会は無いだろ! そもそも人間時代でも自治会なんか入って無かったぞ」
「それは……強制では無いのですが、『野良吸血鬼』になると困った事が起こった時に救済制度が使えないので入ってた方が良いと思うのです」
猫じゃあるまいし。野良吸血鬼だと? 怒りを通り越して可笑しくなって来た。
「か、和希さん? 何が可笑しいのですか?」
「だって野良だの、救済制度だのって、どんな状況で必要なんだか。吸血鬼は死なないんだろ? 意味ないじゃん」
ひとしきり笑った後、今度は虚しくなって泣きたくなった。
俺はもう死んだんだ。仕事も彼女も家族すら手の届かない所へ行ってしまった。
過去を振り返って泣くなんて初めてだが、もう生きてないんだから良いだろう?
「わわっ、か、和希さん、ごめんなさい。わたしが悪かった。もう自治会に入れとは言いませんから、泣かないでください」
吸血鬼とは厄介なものだな。泣けば血が流れるから声を出さず泣いても意味が無い。
大人になってから初めて人前で泣いたけど、少しスッキリした気分だ。
多分、誤解してるであろうキドに自治会に入るとだけ言って手渡されたタオルで目元を拭った。
案の定、タオルに赤い染みが着く。洗濯とか、もうどうでも良いや。
自治会とか行けば他の吸血鬼に会えるのかな? それもまた楽しそうだ。
「キドのおっさん。自治会に連れて行ってくれ。新人だけど野良はゴメンだ」
パッと表情が明るくなったキドは俺の気が変わらない内にとでも思ったのか、直ぐに行きましょうと提案してきた。
「野良認定されたら厄介ですからね。善は急げです」
「分かったよ。場所は何処にあるんだ?」
「案内します。それと、分かり易く自治会と言ってますが正式名称は『immortal』です。不滅とか不死って意味です」
何だか洒落たカフェみたいな名前だな。行ってやろうじゃないかイモータル。
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