感情

「感情がわからなくて怖いの」

「僕の?」

「あなたしかいなくない?」


 少しお洒落なレストラン。パスタを食べながら彼女はそう言った。


「楽しい時は楽しいって言うし、悲しい時は悲しいって言うよ?」

「ロボットみたいな声音じゃない。怖いのよ」


 感情の揺れは少ない方だと自分でも思う。別れ話を切り出されている今だって、悲しいけど、泣くほどではないから。


「今悲しい」

「それなんだよね。怖いの」

「じゃあ」


 僕は精一杯感情を込めて言った。


「ばいばい」


 彼女は目を見開いた。どれだけ感情を込められたかわからない。どれだけ伝えられたかわからない。でも、この反応は、伝わったのかもしれない。


「最後までロボットね」


 彼女は怒り会計を済ませ、帰っていった。僕は頭の中で音楽を再生しながら、喫煙所を探しにいった。

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