第17話 犯人を捕まえたいけれど…
ルーカス様もすっかり元気になった。でも、まだ問題は残っている。さて、どうやって犯人をあぶりだすかよね…
その日の夜、早速ヴィーノお兄様に相談した。
“なるほど、多分あいつが毒を盛ったのだろう。アリー、お前、あいつの部屋を探れるか?きっと毒をまだ持っているはずだ”
「ええ、でも…きっと特殊な鍵がかかった箱に全て入っていると思いますの…私にはそのカギを開ける事は出来ませんわ。それに、掃除中に勝手に箱を開けたりなんてしたら、信用問題にもなりますし…」
いくら犯人の目星がついているからと、勝手に個人の大切な物を開ける訳にはいかない。
“お前は本当に変なところで真面目だな…それじゃあ、どうやってあいつを追い詰めるかしばらく考えるから。とにかく、勝手な行動は慎め。いいな、約束だぞ。わかったな!”
「分かりましたわ。でも、犯人はきっと、またルーカス様を狙うと思いますの。あまり悠長な事は言っていられません。それに、他にもスパイがいるかもしれませんし…」
“わかっている。それからアリー、お前は正体を隠してルーカス殿下の傍にいるんだ。あまり殿下の心を乱すような事はするなよ”
ルーカス様の心を乱す?何を言っているのかしら?
「私は何も変な事をしておりませんので、安心してください。それじゃあ」
そう言って通信機を切った。さて、犯人はわかっている。でも、決定的な証拠がないのよね。う~ん、どうしようかな…お兄様を待っている間に、またルーカス様が襲われたら大変だし。とにかく、あの人を見張る事にしよう。
早速テントから出ると、あの人のテントの近くまで行く。う~ん、やっぱりテントの中にいるわよね。そっと近づこうとした時だった。
「アリー、こんなところで何をしているんだい?」
話しかけてきたのは、ルーカス様だ。
「別に何もしておりませんわ。ちょっと散歩をしていただけです。それでは」
急いで自分のテントに戻ろうとしたのだが…
「待ってくれ!せっかくだから、その…少し散歩をしないかい?」
「散歩ですか?はい、行きましょう」
テントを離れ、ルーカス様と一緒に歩く。まさかルーカス様から誘ってくださるなんて、嬉しいわ。
「アリー、君は…その…討伐が終わったらどうするつもりだい?」
「討伐が終わったらですか?そうですわね…まずはやらなければいけない事を片付けたいです。それが終わったら…」
「終わったら?」
真剣な表情で見つめてくるルーカス様。そんなに見つめられると、恥ずかしいわ…全てが片付いたら、あなた様と結婚…なんて言える訳ないじゃない!
「あっ、見て下さい。隊長。今日も星が奇麗ですわ。ここからは本当に星が奇麗に見えますわね。領地でもとても綺麗に星が見えましたが、やっぱりここには負けますわ…」
すかさず話題をそらす。
私が過ごしていた領地も、とても星が奇麗だった。あの時は体が弱く、両親やお兄様たちとも離れ離れで、随分と寂しい思いをしたわね。
「君は…領地にいたのかい?」
「はい、子供の頃ですが。ここ程ではありませんが、自然豊かな場所だったのですよ」
「…そうか…」
「隊長?どうかされましたか?」
「いいや、何でもない。俺はここに来るまで、ずっと王宮で育った。あそこは息苦しくてたまらない…」
「確かに今の王宮は、息苦しいかもしれませんわね。でも…きっとあなた様にとって、居心地の良い場所になりますわ」
その為に今、頑張って皆が動いているのだ。それに、私もルーカス様を支えたい。
「アリー、君はいつも前をしっかり向いているのだね。君と一緒にいると、心がなぜか軽くなる…」
「それは良かったですわ。私も隊長といると、幸せな気持ちになれますわ」
婚約してから14年、やっとルーカス様に会えたのだ。会った時から好きだったが、一緒に過ごすうちに、増々好きになっていく。早く討伐を終わらせて、ルーカス様と幸せになりたい。
「アリー、俺は…」
「アリー、隊長と一緒にいたんだな。グレイが体調を崩したみたいなんだ。ちょっと見てやってくれるか?」
「えっ、グレイが?すぐに行くわ」
今度はグレイが毒を盛られたの?でもどうしてグレイが…とにかく向かわないと!
急いでグレイの元に向かうと、お腹を押さえ、苦しそうにうずくまっているグレイの姿が。
「大丈夫?すぐに楽にしてあげるからね。ヒール」
グレイに治癒魔法を掛ける。お願い、助かって!すると…
「おぉ、腹痛が治った。ありがとう、アリー。実はダイとどっちがたくさんのパンを食べられるか、競争していたんだ。やっぱり食いすぎは良くないな」
「へっ…パンをどちらがたくさん食べられるかですって…」
どうやらグレイの病状は、食べすぎによるものだった様だ。ジト目でグレイを睨む。すると
「おい、グレイ、そんなくだらない事で、アリーの手を煩わせるな!いいか、二度とこんなバカな事をするなよ」
珍しく声を荒げ、怒るルーカス様。グレイもびっくりしたのか、必死に謝っていた。
「まあまあ、隊長。そんなに怒らないでください。アリー、せっかくだからお茶でも飲んでゆっくりして行け」
そう言って私にお茶を入れてくれたのは、ダニーだ。どうやら彼らも、お茶を自分で入れられる様になったみたいだ。
結局この日は、ダイたちのテントで夜遅くまでお茶を楽しむことになったのであった。
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