第12話 魔物に襲われました
「さあ、皆も討伐に向かったし、早速やるべきことをやらないとね」
最近はケガ人もあまり出ていないため、もっぱら雑務を中心に行っている。それでも、討伐部隊にとっては大切な仕事だ。皆が少しでも快適に過ごせるよう、各テントを綺麗に掃除していく。
「もう、どうしてこうも着たものを脱ぎっぱなしにするのかしら?」
ダニーとダイ、グレイの部屋はいつもグチャグチャだ。毎日掃除しているのに、すぐに汚すのだ。早速魔法で綺麗にしていく。もちろんテントには大切な物もある。そういったものは特殊な鍵がかかった箱に入れられている為、私は触る事は出来ない。
その為、安心してテントに入り、掃除が出来るのだ。大切な物が無くなった!なんて言われたら、大変だものね。
1つ1つ丁寧に掃除を行っていく。そして…
最後はルーカス様のテント。隊長と副隊長は、それぞれ1人1つづつテントが与えられている。ルーカス様のテントは、いつも綺麗に整っている。きっと私の手を煩わせない様にと、気を使ってくれているのだろう。
洗濯物もまとめておいてくれている。ついルーカス様の洗濯物に手を伸ばし、ギューッと抱きしめた。
ルーカス様の匂いがする…て、こんな姿、本人に見られたらきっと、ドン引きされるだろう。それでもどうしてもやめられないのだ。この匂いを嗅ぐと、ものすごく落ち着くのだ。匂いを堪能した後は、魔法で掃除をし、テントを後にする。
さあ掃除も終わったし、そろそろお昼ご飯にしよう。1人厨房に来て、簡単な料理を作る。今日はホットサンドにしよう。そう思って材料を並べた時だった。
ドーンと大きな音が聞こえたのだ。
一体何の音?
外に出ると、そこにはおびただしいほどの魔物の群れが。ただ、ルーカス様の張ってくれたバリアにぶつかり、こちらには来られない様だ。それでも魔物たちはバリアを破ろうと、火を噴いたり体当たりして、攻撃してきている。
どうしよう…さすがにあんなにも沢山の魔物、1人では倒せないわ。でも、バリアがあるから大丈夫よね。そう自分に言い聞かせる。お願い…魔物たち。どうか諦めて帰って…
そう願っていたのだが…
ドーン、ドーンと一向に諦めようとしない。と、次の瞬間、バリバリとバリアが破られ、一斉にこちらに向かって魔物が飛んできたのだ。
あまりのたくさんの魔物に、足がすくむ。恐怖から服の中に入れているペンダントを握った。そう、16歳の私の誕生日に、ルーカス様が贈ってくれたペンダントだ。
大丈夫よ、一通り攻撃魔法は習ったのだから。とにかく、ここで命を落とすわけにはいかない。よし!
「炎!!」
ありったけの攻撃魔法を、魔物たちにぶつける。とにかく、攻撃の手を緩めず、ただ戦うしかない。でも…
「キャァァァ」
後ろから襲って来た魔物の攻撃を食らってしまい、そのまま木に叩きつけられた。体中痛くてたまらない。さらに私をめがけて、炎が飛んでくる。
もうダメ…
そう思った時だった。
「炎!!」
目の前まで迫っていた魔物が、一気に焼き尽くされたのだ。この声は…
「アリー、大丈夫か?」
私の前に現れたのは、なんとルーカス様だ。
「ル…カス…さま」
ルーカス様は魔物めがけて、一気に攻撃魔法を掛ける。あれほどいた魔物たちが、どんどん倒されていく。もちろん、魔物たちも負けていない。四方八方から攻撃を仕掛けているのだ。
「危ない!炎」
隙をついてルーカス様に襲い掛かる魔物を、一気に焼き払った。
「アリー、ありがとう。まだ戦えるか?」
「はい…ただ、私は戦闘能力が低いので…」
「そんな事はない、立派な炎を出せるじゃないか。それじゃあ、後ろを頼んでもいいか?」
「はい」
一旦自分に治癒魔法を掛け、すぐに後ろから迫って来る魔物たちに攻撃魔法を掛ける。ただ…私は攻撃魔法が得意ではない。どんどん魔力を消耗してしまうのだ。
「アリー、力を抜け。そんなに魔力をぶつけなくても大丈夫だ。リラックスしろ」
その言葉、お母様にも何度も言われた言葉だ。でも私は、そのリラックスが出来ない。
次の瞬間、ルーカス様に脇を掴まれたのだ。
「キャ」
脇を掴まれた事で力が抜けてしまったが、それでも立派な炎が飛んでいく。あら?この程度の魔力でも、炎が出るのね。
「お前は力が入りすぎだ。今みたいに力を抜いてやってみろ」
「はい、ありがとうございます」
つい力が入りすぎていたが、今の感覚を思い出し、攻撃魔法を掛ける。すると、少ない魔力で炎を出すことが出来た。これなら、長い時間でも戦える。
そう思っていたのが、すごい勢いでルーカス様が魔物を倒してくれたので、残り数匹になっていた。
「アリー、残りの魔物は、お前が倒せ」
「はい、雷」
「ギャァァァ」
最後の魔物は雷の魔法で倒した。その瞬間、腰が砕ける様に、その場に座り込んだ。
「アリー、大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。隊長が助けに来てくださったので。ただ…物凄く怖かったです…」
気が付くと、ポロポロと涙が溢れて来た。5年間必死に訓練を積んだはずなのに…やはりあれほど多くの魔物を目の当たりにして、初めて死を覚悟した。あの時の恐怖は、今思い出しても怖くて震えが止まらない。
「助けるのが遅くなってすまなかった。とにかく、無事でよかった」
そう言うと、ギューッと抱きしめてくれたルーカス様。この香り、いつもこっそり嗅いでいるルーカス様の洗濯物と同じ匂い…私も無意識に、ルーカス様に抱き着いた。大きくてがっちりとした体、この温もりが、ものすごく落ち着く。
結局私は、ルーカス様に抱き付き、しばらく泣き続けたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。