第49話 王威


 アルデバランを操縦し、神殿の中央へ移動する。

 通常の魔物など、アルデバランの前では蟻と等しい。

 妨害などできる筈もなく、歩みは容易く進んだ。


 そこからは戦況が良く見える。


 左右に別れたロージとシャルクが、魔物を相手に無双している。

 数十分もすれば、魔物は全滅するだろう。


 しかし、なんというか興が削がれたとでもいうのだろう。

 最初、このダンジョンに踏み入れた当初の様なわくわくした物は消滅していた。


 白龍と出会った事が不幸とは言わない。

 俺と同じとは言えずとも、近い環境にある生物。

 それを、殺す以外の選択肢を見つけられなかったという事実。

 無力を感じるには十分な出来事だった。


「魔力接続」


『了。接続完了』


 アルデバランには内部の魔力貯蔵が存在する。

 もっと言えば、魔法を分解し吸収する機能もある。


 デバイス制御の雷魔法を使えば充電もできるし、基本的にアルデバランは故障しない限り魔力で稼働可能だ。


 そして、アルデバランの魔力貯蔵量には限界は存在しない。

 内部に蓄えた魔石の質量によって幾らでも充填できる。

 アルデバランのMAX魔力は、俺の数十倍。


 それを接続した今、俺は本来仕様できない程大量の魔力を消費する術式を起動できる。


 新型デバイスに予め刻まれていた術式。

 カナリアが解析し、俺に託した術式。


 王である証明。

 王にある畏怖。


 人の王は、この上無い程無能だった。

 それでも王が王である理由。

 それは、この魔法を使えるからだ。


 黄金の魔法陣が、俺を中心に展開される。


 多くの魔力を使う術は、それだけ制御が難解になっていく。

 この術の消費魔力は、デバイスの手助けがあったとしても詠唱が必要な程多かった。


「金才の輝き達よ、


 俺に縋るな、

 俺に頼るな、

 俺に願うな。


 俺に縋らせろ。

 俺に頼らせろ。

 俺に願わせろ。


 俺が通る道を拓け」


 ――詠唱完了エントリー王権魔法ザ・キング・マジック――


 今の俺に出来るのは、宇宙怪獣が補佐する王族の魔法の下位効果。

 12人ではなく、たった2人への一時的な強化が限界。


 いや、これはどちらかと言えば進化だったな。


「これは……」


「この力は……」


「さっさと終わらせて帰るぞ」


 到達点。

 この魔法は、対象が重ねた時間を超過し力を前借する力。

 時間に比例して強さを磨くロージが、もし数千年の時間を生きていたなら。


 世代を越える度に、強化される固有術式が最終的に到達する臨界点。


 この魔法は、強制的にその力を引き出す。


実像幻影ファントム


否定信教ダークロード


 ロージが分身する。

 しかし、それは視覚への情報偽装では無い。

 全てが実態を持つ幻影。

 そして、全てが黄金の魔力によって限界を引き出された状態。


 シャルクの身体が肥大化する。

 黒い魔力が巨人の姿を創り上げていく。

 恐怖の具現化、畏怖の具象化。

 そして、引き出された生物の根源的な恐怖の到達点。


 最終的な恐怖の対象。

 闇との同化。


 一瞬だった。


 分身の数は100を優に超える。

 それらが高速移動を繰り返し、間合いに入った瞬間、圧倒的な武技で吹き飛ばされる。


 分身は武術も使え、武器も持ち、魔術も行使する。

 それは全て一つの意思に統一され、敵を屠るのだ。

 知能に欠ける魔物に対処する手段がある筈もない。


 方や左側の魔物はシャルクの変身した巨人が薙ぎ払う。

 闇の剛腕が腕を一薙ぎするだけで、数十、いや数百の魔物が蹴散らされる。

 俺の使うシャドウドライブとは似て非なる魔法。

 俺の魔法は闇を操るが、シャルクの巨人は闇との同化だ。

 闇という特性を司るそれは、触れた対象の脳機能に浸食する。


 具体的に言えば、一時的に最たる信仰を記憶から消失させる。

 神仏、家族、恋人、目標、欲求、そんな依存の先が消えてなくなる。

 動物であっても、その喪失に全く影響されない事など不可能。


 物理的な攻撃力。

 精神、知能への攻撃。

 両方を併せ持つ闇の巨人の一撃を、完全に耐えきれる魔物など居ようはずもなかった。


 魔物が死体へ変わって行く。

 一刻と時が刻まれるたびに、不動の山の標高が高くなっていく。


「シェリフ様、この力は一体……」


「なんなんでしょうか旦那」


「宇宙怪獣の生態能力をテクノロジーで再現した物だ。魔族の固有術式と殆ど同じ物で、遺伝子をプログラムで再現した物になる。って、そんな話はどうでもいい、さっさと船に帰るぞ」


 魔物の死骸、当然白龍のそれも含めてワームホールで船に送る必要がある。

 この空間内は転移禁止空間だから、外に運び出さないとな。

 一度アンドロイドを何体か呼び出すか。

 どうせアルデバランもワームホールで還すんだし。


 神殿から外に出て、当然のようにデバイスを通じてアークプラチナへ通信を試みる。


「は?」


「どうされましたかシェリフ様?」


 通信は、繋がらなかった。


「ワームホール」


 キーワードを唱えても、カナリアによってワームホールが開かれる事すら無かった。


 悪魔に船を乗っ取られた時ですら、通信を試みる事はできた。

 ただ、誰も出ないというだけで。

 けれど、今回はそれより悪い。

 誰も出ないのではなく、そもそも電波がアークプラチナに弾かれている。


「クソが」


「旦那、こっちの通信機も繋がりません」


 アークプラチナに何かあった。

 最悪が嫌でも頭を過る。

 アークプラチナが何等かの理由で、破壊された。


 そうなって居れば、俺の知識や技術で再建するのは不可能。

 いいや、そもそも全ての前提が覆る。

 魔族との和平も、宰相との契約も、全てが無効化される。


 そうなったら、俺は終わりだ。


「急いで戻るぞ」


「了解致しました」


「分かりました」


 アルデバランの機動力を最大限生かし、ロージとシャルクはアルデバランの手の中で補完してできる限り最高速度で帰還した。





 アークプラチナが着地した俺の領地の村跡。

 そこには、影や形すらも、一切何も存在していなかった。

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