第931話 アレク悪寒が走る!デストロイは意外に過保護!?
アレクは、ローブの男の言う通り地べたに座って目を閉じた。
「これはこれは、よく鍛え抜かれたいい体です。それに、若い肉体とは魅力的だ......実に、素晴らしい......」
「おい!変な考えを起こすんじゃねぇぞ!妙な真似をしやがったら、その時点で細切れにしてやる。それから言い忘れたが、そこにいるオレールも、俺と近い力を持ってるからな!言ってる意味わかるな?」
アレクは、服を着ているのだが、何が見えているのか、ローブの男はヨダレを垂らすのではないかといった表情で、アレクの背中を見る。アレクは、思わずゾワッと悪寒が走ったが、ローブの男の後ろに仁王立ちになったデストロイが一言言って睨みつけた。
「は、はい!わかっていますとも!少し冗談を言っただけではないですか。すぐに、始めます」
先程とは打って変わって真剣な表情でアレクの背中に手を当てる。そして、ブツブツと呪文を唱える。すると、ローブの男の手に紫色のオーラのような物が発生した。
「そいつはなんだ?またしょうもねぇことをしようてんじゃねぇよな?」
「今は、集中しているんだ!少し黙って貰いましょうか」
デストロイは、アレクに何か悪さをしようとしているのではないかと問い詰めようとするが、ローブの男はいつになく真剣な顔で語気を強めて言い返す。
「デストロイ!殴るのはあとにしましょう。特殊な魔力に間違いはありませんが、害を与えるものではなさそうです。今は、見守りましょう!私も、最大限の警戒をしていますから」
怒り出しそうなデストロイの肩に優しく手を置いたオレールは、安心させる言葉を言う。
「チッ、イライラするが、魔法だとお前には負ける......待ってやらぁ」
デストロイは、振り上げた拳を下ろして舌打ちをする。そして、口は悪いが、オレールの実力を認める発言をした。
「私から見ても彼の魔力操作は、非常に優れていると思います。この世界に、これ程の使い手がいたことに驚いていますよ」
オレールは、ローブの男の魔力の流れから実力を、すぐに把握した。
「アレクと言いましたか、一度目を開けてください。どのようになっているのか説明します」
「どうかな?うまくいきそう?」
ローブの男は、いきなり呪いを媒介する呪文を唱えたわけではなく、アレクの診断に近い呪文を使ったようだ。
「出来る出来ないかで言えば可能です。しかし、この呪いを作ったのが誰か知りませんが、あまり趣味がいいとは言えません。わざと、複雑に絡み合うように呪いを何重にも組み合わせている」
アレク達でさえ見つけることが出来なかった呪いの謎を解明したローブの男は、こめかみを押さえて悩む仕草をした。
「だから、呪いを解く薬が効かなかったのか!じゃあ、呪いを解く薬を飲みながら、貴方に治して貰えば確率は上がるかな?」
「そう単純ではないです。呪いを解く薬がどういったものか分かりませんが、全く効いていないか、再生しています。それから、この呪いを媒介するために、更に力が必要です。貴方の力を使わせてほしい」
ローブの男は、デストロイの顔を見て、力を貸してほしいとお願いをした。その顔からは、相手を謀るような様子はなく真剣に懇願しているようだ。
「俺の力を使いてぇなら好きにしろ!但し、妙な真似しやがった瞬間、オレールがお前を殺すからな」
「妙な真似ですか?出来る余裕があるならしますが、下手をすると私の命をも奪いそうな呪いですので、真剣にやります」
「そうかよ!なら、存分に使いやがれ」
デストロイは、ローブの男が冗談や謀る気はなく、本気であるとわかったので、地獄の力を解放した。
「フフフフフ、何度見ても惚れ惚れ致します。では、力を拝借します。ほほほぉ〜、戦いの時以上の力がぁぁぁぁ!素晴らしい!これならいける!目を閉じて集中してください!いきますよ」
「くっ、ぐぁぁぁぁぁ!」
手の可視化された魔力は、デストロイの地獄の力によって、更に濃い色となっていた。
そして、ローブの男が何をしているかわからないが、アレクは苦悩の表情と叫び声を上げた。デストロイは、必ず止めに入ると思ったが、オレールの動向を見ていたようで静かに見守っていた。
「フフフフフ、これはこれは、生きた呪い言うのでしょうか。私の侵入が、そんなに嫌ですか?更に、強い呪文を唱えてみましょう」
ローブの男は、アレクが苦しんでいる様子などお構いなしに、珍しい呪いに目移りしてしまう。その間もアレクは、歯が折れるのではないかというくらい強く噛み締めて痛みに耐えるのだった。
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