第167話 大泣きするアレク!師匠には全てお見通しだったようです!

夕食を終えて、お風呂に入ってから会議室に向かっていると、見慣れた顔が歩いているのを発見した。


「アレク様〜お久しぶりです。戻られたと聞いて居ても立っても居られず早く来てしまいました」


アレクが会議室に向かう廊下を歩いていると、パスクがアレクを見つけて手を振って駆けてくる。


「元気にしてたみたいでよかったよ。それにしても、強くなったね。雰囲気だけでビンビンと伝わってくるよ」


アレクは、ノックスやオレール、それに敵だったNUMBERSなどの強者を目の当たりにして、雰囲気だけで強さを測れるようになっていた。


「アレク様に、そう言って貰えると頑張った甲斐があります。マンテ爺も久しぶりですね。元気にしていましたか?」


「アレクとの模擬戦以外は体を動かす機会がないからのぅ。軍棋だけがうまくなってしまったわい。あとで一局やらんか?」


マンテ爺もすっかり人の世界に馴染むようになり、戦闘以外では穏和な性格になって、軍棋が大好きなマンティコアになっているのだ。


「わかりました。あとで一局やりましょう。マンテ爺がどれ程の打ち手になったのか見極めさせてもらいます。あ!そうでした。皆様もう集まられておりますので、アレク様を呼びに行こうとしていたのでした」


「そうだったんだ。じゃあ会議室に行こう」


どうやらアレクに会いたくて待ちきれなかったようで、時間より早く集まっているようだ。


アレクが会議室に着くと、すでに全員が集まって席に座っていたのだ。


「アレク様〜お元気そうで何よりです。私も王都に行ければよかったのですが...」


ナタリーが、アレクの元気な姿を見て喜んでいる。


「そのお腹じゃ仕方ないよ。それよりも、大事な時期に呼び出してごめんね。あの時、ナタリーに話したことをみんなに告げようと思ってね。ナタリーには、改めて聞いてほしかったから」


ナタリーは、セバスと結婚をして、すぐに妊娠したのである。お腹も大きくなって、もうすぐしたら産まれるようだ。


「大丈夫ですよ。安定期に入って長いですし、階段とかはセバスが抱っこまでしてくれますから。それと、とうとう話されるのですね。どんな結果になっても、私はずっとアレク様の味方です」


ナタリーとセバスは、かなりお似合いのようである。抱っこ発言にはセバスも恥ずかしかったようで顔を真っ赤にさせるのであった。


「アレクくん、お久しぶりですね。随分大変そうですが、伯爵の仕事には慣れましたか?」


オレールが、いつものように話してくる。アレクが、伯爵になろうとも変わりなく接してくれる人物の一人だ。


「貴族としての仕事よりも復興に対する仕事の方が多くて...正直、これからも陛下からの個人的依頼と貴族の仕事両方が、のしかかった時にやっていけるのか心配です。冒険者もしたいのに...」


アレクは、前世の仕事の辛さを思い出して同じようなことになるんではないかと、疲れた表情をする。


「そんなもの断わりゃいいんだ。なんでも引き受けるから付け上がる。出来ないものは出来ないと断われ!もし、グダグダ言ってくるなら国を出ると強く言ってやればいい」


ノックスが、話に割って入ってきて、ノックスらしいことを口にする。


「それが出来れば苦労しないですよ...」


「アレク坊!数年前を思い出せ。数年前のアレク坊は、自由に生きたいと思っていたし、縛られること嫌って、後先考えず抵抗していただろ?まだ13歳だ!色々失敗していいんだ。一度、昔を思い出して自由になることも大事なんじゃないか?もし、失敗して全てを失っても帰る家もあるし、俺達大人が助けてやる。だから、本心を隠して苦しむようなことはするな。わかったな?アレク坊」


アレクは、ノックスの話を聞いて自然と涙が溢れてきていた。すると、後ろからヨゼフとカリーネが抱きしめる。

アレクは、この1年間気づいていないうちに、本心を圧し殺して無理をしていたのであった。それを、師匠であるノックスが、すぐさま見破ったのである。


「アレク、好きなように生きればいいんじゃ。ワシらは、アレクが幸せならそれでええんじゃ」


「そうよ。無理をすることはないわ。アレクちゃんが幸せで元気ならそれでいいの」


ヨゼフとカリーネも、抱きしめながらアレクに思いを告げる。アレクは、みんなの前で恥ずかしい思いはあったが、涙が止まらず大泣きしてしまう。その様子にみんなは、黙ってアレクが全てを吐き出し終わるのを待っていた。


「みんな...待たせてごめんなさい。気持ちが楽になったよ。もう自分に嘘をつかない。この新しい人生を楽しむよ」


アレクは、泣き腫らして清々しい顔をしていた。それを見たノックスを含めた全員が、大丈夫だなと確信するのであった。


「そして、みんなに聞いてほしいことがあるんです!」


アレクは、遂に自分の秘密を打ち明けようと話し始めるのであった。

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