宇宙のスカイスフィア

山口遊子

第1部 宇宙のスカイスフィア

第1話 謎の金属X、その1、隕石

[まえがき]

E・E・スミスの『宇宙のスカイラーク』のオマージュっぽい何かを書いてみました。登場人物名は他作品で使った事があるものですが、役割的には似ていますが作品との関連は全くありません。おそらく、不定期投稿となります。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 今日は休日。快晴。


 児玉翔太こだましょうたは朝から溜まっていた洗濯物を洗濯していた。


 翔太は某大学の修士を終えて、某大手機械メーカーに就職し、今はその会社の地方研究所に勤務している。


 年齢は32歳、独身である。住んでいるのは、とある地方都市の郊外にある一軒家。たまたま吉田技研の研究所が家の近くにあり、翔太が研究所勤務になったことで帰郷して住んでいた。近くと言っても研究所まで車で40分ほどはかかる。


 帰郷時には両親と同居していたが、2年前に両親が交通事故で亡くなっており今は一人住まいだ。


 家の周囲は木々が生い繁った森になっている。家の表側はわずかばかりの畑だが、翔太には手入れする暇がないため、いまは雑草が元気に生え繁っている。なお、翔太の家から隣の家まで500メートルはある。


 一回目の洗濯が終わり、洗濯機から洗濯物を洗濯籠に取り出して次の洗濯物を洗濯機に放り込み、洗剤を入れて蓋を閉める。洗濯機の設定はスピードコースなので30分もかからず洗濯は終わる。


 洗濯籠を持って2階の物干し台に上がろうと階段を上っていたら、いきなり、


 ドーン! という音と一緒に足元に振動が伝わってきた。


 気になった翔太は、洗濯籠を2階の階段口に置いて、玄関からサンダルを履いて表に出てみると、家の前の畑に大穴が開いていた。


「なんだ?」


 大穴の底からはうっすらと煙が上っている。いままで経験したことはさすがにないが、隕石が落ちた可能性もある。


 雑草ぼうぼうの畑にできた大穴を覗くと、底までの深さは5、60センチほど。その底に黒っぽい石が見え煙はそこから上がっている。石の大きさは漬物石程度。状況から考えれば隕石なのだろう。


 放っておくわけにもいかないし、隕石などそうそう手に入る物ではないので、なんとか回収したい。まだかなり熱そうなので、煙が収まるのを待って掘り起こした方が良さそうだ。


 翔太はいったん家に入って2階に上がり、置いてあった洗濯籠を持って、物干し台に出て洗濯物を干してからもう一度大穴を覗いたら煙は収まっていた。まだ15分も経っていないので熱そうだ。10分ほど煙が収まるのを待ってぼーと穴の底を見てたら、次の洗濯が終わったブザーの音が聞こえた。



 2回目の洗濯物も干し終わり、再度穴の底を覗き、穴に入って恐る恐る黒っぽい石を触ったらまだ熱を持っていたが、火傷するほどではなかった。


 底の方の土を掘って両手で石を持って持ち上げようとしたら、思った以上というか、鉄の塊でもこれほど重くはないというほど重かった。


「何だこれ?」


 たかだか漬物石ほどの大きさだが、鉄なんてものじゃなく異常に重い。バーベルのようなものならかなり重いものでも持ち上げることはできるが、この形でこの大きさのものだと非常にやっかいだ。それでも何とか穴の上まで持ち上げ、そこで手を離したらドスンと音を立て、地面がへこんだ。元畑だからということもあるが、翔太の脚が踏みつけてできるくぼみなど比べ物にならないくらいのへこみ方だ。風呂場の前においている体重計まで持っていって重さを計ってやりたいがそこまで持っていくのが大変だ。


 翔太は体重計を玄関まで持ってきて、そこで隕石らしきものの重さを測ったところ、40キロほどあった。この大きさで40キロということは金の可能性もある。しかし、表面は全般的に黒っぽいのだがところどころキラキラ白く光っているところを見ると銀かプラチナの可能性がある。銀の比重は10程度で、比重8程度の鉄とそんなに差はないので、比重が20位あるプラチナの可能性が高い。


 プラチナの相場をスマホで確認したところ、1グラム4000円ほどだった。40キロの純プラチナは1億6000万円ということになる。さすがに純プラチナが隕石で落ちてくることはないだろうが、翔太の夢は膨らんだ。



 翔太の仕事は、金属の特性の研究だ。今使っている研究室も翔太一人のために与えられたものだ。もちろん各種の分析装置も揃えている。従って、試料がどういった金属であるか簡単に調べることができる。会社の業務ではないが、その程度の融通は利く。翔太は隕石を少し削って研究所に持っていくことにした。


 マイナスドライバーで隕石の表面を削ったら簡単に削れた。それほど硬くはない。削り痕はきれいな銀色に輝いていた。ますますプラチナ臭くなってきた。削り取った隕石の表層部分は紙で包んで会社用のカバンに入れておいた。





 翌朝。


 早めに家を出た翔太は、愛車の軽に乗って研究所に到着し、機器の並ぶ自分の研究室でさっそく昨日削り取った隕石の試料を分析することにした。隣りの研究室でも早出で何かの試験をしているようでブーンという低い音が響いてきている。


――隣りの研究室は金田研究員か。熱心なものだ。なんでも、完成すれば分析対象の試料に対して特殊な場を作り出すことで、特定の金属原子だけが励起されるので、簡単に合金組成が分かる画期的な装置らしい。名まえは確かキオエスタトロン。意味は不明だがカッコいい名前だ。


 翔太の言う金田研究員は翔太の2年先輩で物性科学が専門の研究員である。翔太同様部下は持たず一人で研究を進めており、複雑な機械も自作できる何でも屋である。


 翔太は隕石から削り取った試料を一度塩酸で洗ったところ、試料から黒い汚れはきれいになくなってしまった。そのあと試料を水洗いしてろ紙の上で乾燥させた。


 試料が乾燥したころ合いでろ紙の上から銀色に光る一粒をピンセットで取り出し、試験用ピースの中に入れて試験機の中に挿し込んだ。


 3分ほどで試験は終了し、結果が試験機のディスプレイに表示された。


『やはり、プラチナだったが、同位体だな。中性子の数は、……。

 あれ、プラチナの原子番号は78、試料の中性子数は122と124が50パーセントずつか。

 ハンドブックで確認しないといけないが、プラチナだと中性子数が120を超えた同位体に安定したものはなかったはずだが?』





[あとがき]

分析がらみのそれっぽい説明は適当です。

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