第3話 サラリーマンなんて、こんなもん
木曜日の朝、昨日の出来事が何も無かったかのように、一日が始まった。
「西田さん、今日の研修は10:00からだったよね。それまでの一時間は、部のルールをレクチャーするね。」
「はい、よろしくお願いします。」
「これが、サーバー名で、このフォルダが顧客データ。新規は、このリストに登録してから追加ね。」
「この分類は、何を意味してるんでしょうか?」
「それはね!」
“理解力も高く、学習意欲も旺盛。これは、期待が持てる新人だな。俺、ついてるかも!”
そして、それから一ヶ月も過ぎようとした頃だった。
「主任、大変です。月末に佐伯工業さん向け納入予定のEWS1000の納期が、急に2週間遅延進捗になりました。」
「昨日までは異常なかったんだろ?おかしいな。考えられる事は、オプション工程に入って、本体とのミスマッチが有ったのかも? 井伊君、システム コアワンで至急調べてくれる!」
「解りました。主任の言う通りで、オプション入力が21で入ってて、21の工期が長かったからです。」
「受注シートでは20となってるので、おそらくオーダー入力ミスだったかと」
「じゃあ、情報課に依頼して至急正常に戻してくれる。それと、メーカーにオプションミス連絡しないと。もう部品入っちゃってんだろうな。とにかく、メーカーに誤り行こう。井伊君、アポお願いできる?」
「それと。西田さん、佐伯工業担当だったよね?大丈夫と思うけど、もし進捗問い合わせ来たら、調査して本日中にご一報致しますとだけ、答えてくれる?」
「はっ、はい。」
「よし。それじゃ、井伊君メーカー行こうか」
メーカーとの折衝を終え、帰社途中でこの問題の原因を探っていた。
「主任、納期何とか成りましたね。でも、進んだ工程分のペナルティは、50万円位ですかね?」
「そんなもんだろうなぁ」
「これ、きっと西田さんの入力ミスですよね。」
「いや、そうじゃないよ。あの娘、覚えめちゃくちゃ早かっただろ。だから、一ヶ月も経たない新人に私が指示したんだ。やっぱ、早かったかな? きっと、気にしてんだろうな。あー、俺の指導ミスだぁ。いいか、絶対責めちゃダメだぞ。あくまで、指導に徹して」
社に戻るなり、西田さんから心配そうな顔で状況を問われた。
「主任、井伊さん、メーカーどうでした?」
「うん、井伊君の説得力で、何とかしてくれたよ。」
「あー、よかったぁ。あの、きっと私がシステム入力ミスしたんだと思います。本当にすみませんでした」
「インプットしたのは西田さんかも知れないけど、それでチェック不十分な体制にしてたルールの問題なんだよ。決して、個人の問題では無いんだ。」
「でも、…」
責任者は、責任を負わされるから、責任者と呼ばれる。
課長から、こっぴどく叩かれたのは、言うまでもない。しかも、西田さんが絡んでるから、尚更だ。
それから数日後、無事に納入が済んだ日の夜、
「なあ、納入も無事何とか成ったんだから、飲みにでも行こうか?」
「良いですね。俺、行きます。西田さんも、行こうよ」
「私、行っても良いんですか?」
「何言ってんの?あったりまえじゃん。」
そして、いつもの駅前イタリアンで、祝杯を上げていたのだったが、
「まずは、お疲れ様。乾杯〜! 皆んなのお陰で、売上げも予定通りに立ったし」
「今回は私のミスで…」
「西田さん、だから言ったじゃない。課のルールの問題なんだって。もし、責任感じてるんなら、昨日入ったばかりの新人さんにでも入力とチェック機能がちゃんと働くルール作ってくれる?」
「主任、西田さんが責任感じて無いわけ無いじゃないですか?」
「そうだね、優秀な西田さんだもんな。」
「私、優秀なんかじゃ無いです…..」
うつむき、泪ぐむ西田。
「あっっ、主任。西田さん泣かせましたね!」
「そそんなつもりじゃ、ごめんね。何て言ったらいいか、その〜」
「西田さんは、本当に良くやれてると思うよ。俺の一年目なんて、酷いもんだったからなぁ」
「そっっ、そうそう」
「主任!それはそれで、俺も傷つくなぁ〜」
「二人とも本当に良くやれてると思うよ、本心だから」
“なんか、悪者になっちゃったけど、今夜は井伊君に西田さんを任せよう。”
「じゃあ、俺はお先するね。歓迎されて無いみたいだから、後は二人で盛り上がって。ここまでの分は、俺が払っとくから」
「ご馳走様で〜す、主任。ありがとうございます♪ 」
「じゃあ、月曜に。来週も、よろしく頼むね!」
「主任、帰っちゃうんですかぁ…」
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