おぢさんが風俗嬢に恋をした日

@bitter_sugar

第1話 プロローグ

塩谷健一、52歳。中堅電機メーカーの営業マン、主任。26歳からは独身。きっと、この先も。


そんなおぢさんに、新入社員配属案件でと、事業部長から呼び出しが有ったのは、4月も終わろうとしている頃だった。


「あー、塩谷くん。わざわざ来てもらったのは、新入社員配属の件なんだが、おり言ってお願いが有るんだよ。」


“何だよ、この展開?いつもは、業績悪いのは営業部の力不足と言わんばかりに、口撃してくるのに、今日はいったい何をしろと言うんだ?”


「実は、知っての通り、来月には新入社員が配属されるんだが、その中の一人に、親戚の娘が居てね。その娘を君のチームに配属しようと思って。あっ、正規に採用された社員なので、何か問題が有るわけでは無いんだ。マスター卒なので、きっと成績も優秀なはずで。」


“筈って、何だよ?本当に面倒な娘じゃ無いんだろうな?”


「解りました。正規の配属なのでしたら、何も問題は無いかと」

「じゃあ、よろしく頼むよ。下ネゴって事で。あっ、一つ言い忘れる所だった。この親戚なんだが、実は社長の友人さんなんだよ。だから、入社して直ぐに辞めちゃうとか、セクハラとかパワハラとか、決して面倒な事が無い様に気をつけてくれよ。君なら大丈夫。引き受けてくれたんだから、心強いよ」


“はぁ〜、やっぱそう言うことか。めちゃめちゃ、面倒な娘じゃないか!”



そして、5月の連休が明け、新人の配属がやって来た。


「新人の、西田まりと申します。大学院では、地方経済活性化論を専攻していました。早く、皆様のお役に立てる様頑張りますので、ご指導宜しくお願い致します。」

「それでは、西田さんは、東日本営業部二課 塩谷チームに配属となります。塩谷くん、後は宜しく」


ありきたりなやりとりが終り、腫れ物に触る様な存在の新人さんがやって来た。


「じゃあ、席はそこで。」

“ん!ちょっと待てよ。井伊の隣は、何かと問題起こしてくれそうな気配がするな。”

「じゃ無かった。こっちにして貰うんだった。」


「あれ? 俺の隣かと期待してたのに。美人さんだし」

“最初からセクハラ発言か!これは先が思いやられるなぁ〜”


「研修とかで色々席外すだろうし、まあ研修期間の暫定って事で。それで、研修のスケジュールなんですけどね。ここに...」


「主任、もう済みました?事務連絡」

「ああ、一通りは」

「さてと。歓迎会、皆さん!どこ行きます?」

「西田さん、何か希望ある?」

「あっっ、えっとぉ〜」


“そうか、あの娘きっと行きたくないんだな。今どきの有る有るってやつ。”

「西田さん、無理に誘ってる訳じゃないんだ。都合よければなんで、個人の予定優先してくれて良いからね」

「何言ってんですか、主任。せっかくの新人さん、歓迎しましょうよ」

“だから、それが歓迎に成ってないってんだよ。”


「大丈夫です。今日は予定ないんで、皆さん宜しくお願いします」

「って事で、じゃあいつもの駅前イタリアンにしますか!」



「西田さんはさぁ、どうしてこの会社選んだわけ? 俺はさ、たまたま拾ってくれたのがここだっただけで。今となっては、居心地も悪くないし、福利厚生も良いんで、まあ正解だったかなぁ。ねっ主任、うちの会社、福利厚生だけは一流企業ですよね」

「あっ、ああ」

“だけは、余計だけどな。まあ、やっぱそうか。”


「私は、父の勧めで という感じです」

「そうなんだ。お父さん、何している人?」

「小さな貿易関係の経営者です。」

「へぇ、社長令嬢さんか。なんか、違和感ないな、そう言われても。」

“社長の友人て、そんな方だったのか。”


「やめて下さいよ。令嬢だなんて、思ったことも言われたことも、一回もないです。」

“いや、俺から見ても、良いとこのお嬢さん雰囲気醸し出してるけどな。”


「お嬢様、困ったことが有ったら、井伊先輩に何でも相談してくれたまえ」

「だいぶ、頼りない先輩だけどな。それと、お嬢様呼ばわりはだめだよ、ねぇ西田さん?」

「はいっ、お嬢様ではないですし」

「なんか、お嬢様と一緒だと、飲みすぎちゃったな。トイレ行ってこよ」

「だから、お嬢様じゃないですって」


井伊がトイレに立ったあと、西田さんから有る程度想像は出来ていたとは言え、答え難い質問が飛んできた。


「塩谷主任、これから宜しくお願いします。色々ご面倒かけると思いますが」

「いやいや、新人さんなんだから、いっぱい迷惑かけたら良いよ。それも新人さんの特権だし」

「主任は優しんですね。色々井伊さんから、かばってくれるし。」

「いや、彼はあれで頑張り屋さんで、良いとこもいっぱい有るから。そのうち解るよ、きっと気に入るから」

「はい。私、頑張ります。」

「それと、一つ聞いて良いですか?」

「何?」

「私の父から何か言われてます?」


“おっと、この展開。どう言ったらいいんだろう?”

「えっ、西田さんのお父さんとは全く面識無いよ。そもそも、社長令嬢だって、今聞いたばかりだし」

「だから、令嬢じゃないですってばぁ」

「そうだったね、ごめん ごめん。あはははぁ」


「西田さん、主任と何話し込んでたの?気になるなぁ、俺の悪口?」

「そんなぁ。井伊さんは、良い方だと伺ってました。だから、それ裏切らないでくださいね」

「そうか、解りました。井伊直哉、独身。あと2年で30歳。絶賛、恋人募集中です。西田さんに好かれるように、一所懸命お仕えします!」

「ちなみに、主任も独身ね。興味無いだろうけど」

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