ミツキ・ツカサの手記

 情報分析官ミツキ・ツカサが、突然行方不明になった。これは、彼のデータベースに残存していた手記を抜粋したものだ。



【30460602】

アナコフコロニーからの連絡が急に途絶えた。何の前触れもなくだ。

しかし、中央情報分析局には、連邦政府から情報規制を強くように要請があった。アナコフコロニーからの交信履歴のログ全てを、消去させられる。過去392年分にも上った。

一体、何が起こったのだ?


【30460605】

アナコフコロニーには親戚がいる。上司にどうにか連絡が取れないか相談してみたが、彼は口をつぐんだ。アナコフ行きのスペースジェットも、全て欠便された。予約画面を見ても今では「アナコフ」という地名表示すらされない。

まるで、元々存在していない地域かのように連邦政府は、沈黙を貫いている。


【30460612】

異変を感じた市民団体が、行動を起こし始めた。家族や友人に連絡が取れなくなった人達が、連邦政府に抗議に来ている。その数は数百人にも及ぶ。政府は彼らと対話するために、全員を総務省特別行政部門ディムニへ招待したようだ。


【30460625】

いつの間にか、社会全体がアナコフコロニーの事を話題に上げる事も無くなった。総務省特別行政部門ディムニに連れて行かれた市民達は、既に解放されている。その後、彼らもアナコフの件は口にしなくなった。皆が、あのコロニーの存在自体を忘れてしまったかのようだ。不気味すぎる。


【30460719】

私は、30460601〜30460602の期間に行われたアナコフコロニーとの交信ログを、密かにコピーしていた。そして、その分析をCCGダムドにお願いしていた。勿論、違法行為だと理解している。かなり複雑なプロテクトが掛けられていたようで、ひと月以上時間を要した。

手掛かりは少なかった。殆どがマニュアルに沿った交信が、時系列に羅列されている。


しかし、交信が途絶える寸前の

458742263JAMTGET

と表示されているログだけが、異常だった。


それを分析にかけると、「ロボット工学三原則を変更する必要がある」という言葉が発信されていたことが分かった。


「ロボット」とは、何だ?


【30460816】

更にひと月かけて、過去の工学に関わる文献を、調査した結果……「ロボット」という言葉に該当するものは無かった。


【30460824】

遂に手掛かりを発見出来そうだ。コロニー不法滞在者の一人が「ロボット」という単語を知っているようだ。高い紹介料と引き換えに、詳しい人間を紹介してくれるとの話だ。


【30460825】

連邦政府から、自分宛に令状が出た。どうやら逮捕されてしまう。全てのデータをこれから消去する。この手記と共に、謎の交信ログと不法滞在者がいる場所の地図データを、同一フォルダに入れた。


後は、ティムに託す。




 ミツキ・ツカサは、この後連絡が途絶えた。私は、逮捕直前に彼からマイクロチップを受け取った。彼の意思を継ぎ、この調査を受け継ぐことにする。

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