僕の装備はそれだけだった。@柿本英治


「ね、文化祭一緒に回らない?」



 我が校の文化祭は二日ある。他校に居る本彼氏くんが来るだろうから、僕は休むつもりだった。


 もし鉢合わせでもしたら慌てふためくことになる彼女が可哀想だ。



「いいね。何日目?」



 正直なところ、彼女が大好きだ。


 だからいくら影で浮気されても嫌いになれない。こんな感情なんて誰にもわからないだろう。


 ましてや僕は人を好きになったのは初めて。


 キスやそれ以上もまったく想像できない。


 恋愛感なんて、付き合う、いずれ結婚。そんな感じだ。


 自分でも幼稚で浅い考えだということはわかっているし、付き合い方なんて調べればいくらでも出てくるだろう。


 けど、それはどこかの誰かの誰かに対する思いの軌跡で、それに乗るのは何か花咲さんに悪い気がして出来なかった。


 大好き。


 僕の装備はそれだけだった。



 だから浮気されたのだろうか。


 自分でも今の状況でのこの感情は、わかっていない部分も多い。


 普通はすぐ別れたり、問い詰めたり、復讐など考えたりするんだろう。


 でも僕にはできそうにない。


 彼女の曇った顔は見たくないんだ。



 好き過ぎて別れたい。


 だけど勇気が出ない。


 だから僕は振られたい。



「楽しみだね、文化祭」


「そうだね」



 だから僕は予定通り、文化祭を二日間とも休んだ。

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