ep47 いつもの日常を取り戻そう!
「へ? タケゾーが玉杉さんに頼んだの?」
「ああ。わざわざ俺にメールで連絡してきやがった」
鷹広のおっちゃんを追い払ってくれた玉杉さんがここにやって来た理由なのだが、なんとタケゾーからの依頼とのこと。
あいつだって今は父親が亡くなって落ち込んでるのに、アタシの心配なんかしてる余裕があるのかね?
――でも、なんだかそこにいつものタケゾーらしさを感じて、どことなく安心できる。
「てか、タケゾーとはアタシもあれから実家でしょっちゅう会ってるよ? それなのに、わざわざ玉杉さんに頼んでまで様子を知りたがるかね?」
「武蔵は『空鳥は俺の前で無理してるんじゃないだろうか?』ってことで、あいつなりに心配だったみてえだぞ」
「まずは自分のことを考えなよ……。本当にタケゾーはアタシに対して心配性で困るねぇ」
別にタケゾーがしつこい心配性なのはいつものことだが、これはこれで鷹広のおっちゃんとは別方向のストーカーに見えてくる。
でも、不思議と嫌な気はしない。
ストーカーに善し悪しがあるのかは知らないが、タケゾーはアタシの気持ちを尊重しようとしてくれる。
喧嘩はしても、こっちも心のどこかですぐに仲直りしたくなれる。鷹広のおっちゃんは押しつけばかりだから、そんな気にはなれない。
――そんなタケゾーの日常を取り戻すためにも、アタシはやれることをやろう。
そしてそれは、アタシの日常を取り戻すことにも繋がる。
「……あっ。そういえば、タケゾーの保育園は今頃どうなってんだろ?」
これまでの日常について考えていると、アタシとタケゾーが日常的に交流の場として使っていた保育園のことが頭に浮かんできた。
あそこの園児達もタケゾーがいなくて寂しがってないかな? アタシもよく知った子供達だし、どうにも気になってくる。
――ここはタケゾーの代わりに、一つ様子を見て来ましょうか。
このことを今度タケゾーに会った時に話せば、景気づけにもなるだろう。
「玉杉さん、今日はありがとね。アタシはちょっと出かけてくるよ。洗居さんにもよろしくね~」
「その調子なら、隼ちゃんの方は問題なさそうだな。洗居も心配してたし、よろしく言っておいてやるよ。まったく、武蔵にはいい女房がついたもんだ」
「へ? アタシとタケゾーは結婚どころか、付き合ってすらいないよ?」
「……そうかい。まあ、そこは俺も見ざる聞かざる言わざるだな~」
玉杉さんへのお礼と洗居さんへの言伝を述べると、アタシは早速保育園へ向かうことにする。
それにしても、アタシがタケゾーの女房だって? そいつは冗談にしても笑えないね。
――笑えないのかな? なんだか、またモヤモヤしてくる。
でもまあ、それもタケゾーが元気になれば、元通りになるでしょ。多分。
■
「あー! ジュンせんせーだー!」
「ひさしぶりー! あいたかったー!」
「よっす! ちびっ子ども! 元気にいい子にしてたかな~?」
アタシの内なるモヤモヤはさておき、タケゾーが勤めている保育園へとやって来た。
こちらの姿を見ると、園児達もテコテコ駆け寄ってきてくれる。実に微笑ましい。
てか、ここって魔女モードを使わないとそこそこ遠いよね。電車も通ってないし、本当は車があった方がいいんだろうね。
――まあ、アタシは免許も持ってなければ、車にも乗れないんだけどね。
「いい子にしてるけど、タケゾーせんせーがいないのー……」
「タケゾーせんせーはおやすみだってきいたけど、わたしたちがわるい子だからかなー……?」
「そんなんじゃないよ。ただ、タケゾーも今は少しだけ元気がなくってね。みんながいい子にしてたら、また戻ってきてくれるさ」
「そうなのー!? だったら、もっといい子にしてるー!」
タケゾーがいないことで園児達にも不安はあったようだが、アタシが軽く元気づけるとすぐに明るくなってくれた。
やっぱ、あいつって園児から慕われてるんだよね。これはアタシも頑張って、問題解決に当たる必要がある。
「そうだ! そらいろのマジョさんに、タケゾーせんせーのことをげんきにしてもらおー!」
「え? そ、空色の魔女に?」
そんなことを思っていると、一人の園児が気になる言葉を発してきた。
どうやら、小さな子供の間では空色の魔女は『人々を救う正義の味方』というより『何でも叶えてくれるファンタジーな魔法使い』に見えているようだ。
そこの解釈を間違えてしまうのは、小さな子供ならば仕方がない。
――でも、タケゾーにそんな話をするわけにはいかない。
あいつは今でも、空色の魔女に不信感を抱いている。
「空色の魔女さんも、そんなに何でも叶えられるわけじゃないよ。それよりも、タケゾーがここに帰ってきてくれた時、みんながいい子にしてくれてることの方が大切さ」
「そうなのー!?」
「ジュンせんせーがそういうなら、いい子をがんばるー!」
園児達もまさかアタシがその空色の魔女本人だとは思うまい。
だが残念なことに、空色の魔女ではタケゾーの心は救えない。
――むしろ、空色の魔女はデザイアガルダとの決闘を最後に、過去の噂話となって消えるべきだ。
人々の願いを聞き届ける以上の不幸が、この身には付きまとってしまう。
「空鳥さん。また会ったわね」
「あっ!? せ、星皇社長!?」
そうこう園児達と軽く談笑していると、以前のように星皇社長がこちらに歩み寄って来た。
この人もここの保育園で息子さんを亡くされたのもあるけど、ちょくちょく来るもんだね。
まあ、その気持ちも分からなくはない。アタシも両親やタケゾー父の死を思うと、どうしてもそのことが頭から離れない。
自身の子供の死となれば、それは尚更のことなのだろう。
「実を言うと、今日はあなたに会いたかったのよね」
「へ? アタシに?」
「ええ。あなたが赤原警部から請け負った開発案件だけど、あれには私もかなりの技術や資材の提供をしていたの。……彼が亡くなったことは残念だけど、今となってはこれをあなたに渡した方がいいと思ったのよ」
そうやって息子さんとの思い出かと考えていたら、どうやら今回はアタシに直接用事があるようだ。
タケゾー父に依頼されていた、アタシの両親から引き継いだジェットアーマーの開発。
星皇社長も企業としてよりは個人として深く関与していたらしく、タケゾー父への弔いの言葉と共に、アタシに一枚のマイクロSDカードを手渡してきた。
「それは以前、あなたのご両親に頼まれてこちらで用意した、脊椎直結制御回路の設計図面よ。こちらもそれをどう使うかの詳細は知らされてないけど、必要なリクエストにはできる限りお答えした一品ね」
「スッゲェ……! 脊椎に直結させる回路だけでも凄いのに、それを制御するAIまで搭載してたなんて……!」
早速スマホで中のデータを見てみると、そこにあるのはアタシでも発想に行きつかなかった、超高性能なアルゴリズム。
両親の開発するジェットアーマーもとんでもないが、この回路を提供した星皇社長の技術もやはりと言うかとんでもない。
「……あっ。でも、ここのソースが神経インターフェイスに障害を起こしちゃってるのかな?」
「流石は空鳥夫妻の娘さんね。私もそこを問題視してるんだけど、いい改良方法が見つからないのよ」
ただ、完璧と言えるものではない。
アタシも実際に開発データを見た時に危惧していた、神経インターフェイス干渉による装着者への精神汚染。
その原因がこの星皇カンパニー製の回路にあるのだが、その問題点を改良しようとすると、今度は神経インターフェイスそのものとしての機能が損なわれる。
あっちを取れば、こっちが取れず。なんとも歯痒い課題だ。
「こんな凄い技術の設計図なんて、アタシが持っててもいいのか気になるけど……」
「いいえ、あなたも持っておくべきよ。ご両親の開発を請け負ったのだから、自信と責任を持ってことに挑みなさい」
星皇社長は色々と口出ししてくるが、そこには厳しさと優しさが両立しているように感じる。
やっぱり、息子さんが安全性問題の事故で亡くなったこともあるから、ここでも安全面は気になるんだろうね。
その点については、アタシが担当するべき分野だ。もらったこの設計図があれば、時間はかかってでも課題はクリアできるだろう。
それでも、今はこちらよりもやるべきことがある。
星皇社長もタケゾー父の件は知ってるみたいだし、ここは一言断りの言葉ぐらいは入れて――
「星皇社長、車の用意ができました。本社での会議に向かいましょう」
「あら? もうそんな時間だったのね」
――と思ったら、アタシ達の近くに一台の車がやって来た。
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