ep38 警察の研究施設におじゃましちゃおう!

 タケゾーとちょっと喧嘩しちゃったけど、無事に仲直りできた翌日。アタシは警察の研究施設へとやって来た。

 なんでも、警部であるタケゾー父はアタシの亡くなった両親と共に、この施設で共同開発をしていたようだ。


「はえ~……! ここの施設にある機材、個人どころか並の企業でも手が届かないような、超高性能品ばっかじゃん……!」

「隼ちゃんなら、流石にこれらの機器の性能は理解できるか。おそらく、俺よりも詳しいだろうな」


 タケゾー父に案内されて、アタシは施設の奥へと進んでいく。

 その途中で目に入るのは、世界屈指のメーカーが作ったスパコンだの、マイクロレベルの設計図にも対応した3Dプリンタだの、とにかく性能がとんでもない。

 アタシの両親って、こんな凄いところでも働いてたのか。娘のアタシ、関心と同時に唖然。


「……なあ。俺にはイマイチ凄さが分からないんだが? 正直、どれもこれも凄そうで違いが分からない」

「タケゾーもこれぐらいのことは覚えときなよ。今のご時世、常識っしょ?」


 そしてアタシの隣では、案内人の息子であるタケゾーも一緒についてきている。

 別にタケゾー自身が何か関係があるわけではないのだが、昨日の話のついででついてきたって感じ。

 タケゾー父もアタシとタケゾーの仲が気になっているのか、こうやって一緒にいる機会を設けてくれたようだ。

 まあ、タケゾーも父親の了承を得てここに入ってるわけだし? 大丈夫でしょ。多分。




「空鳥さん、タケゾーさん。昨日は私の不用意な対応により、お二人の仲を険悪にさせて申し訳ございませんでした……」

「それは別にいいんだけど……この人がいるのは予想外だった」

「まさか、洗居さんまで一緒にいるなんて……」




 ただ、もう一人だけアタシ達と一緒にいる人物がいる。アタシとタケゾーの仲違いの原因となってしまった洗居さんだ。

 その洗居さんはアタシとタケゾーに何度も頭を下げて謝罪してくれている。

 別にもう過ぎた話だし、アタシもタケゾーも気にしてない。むしろ、これ以上の謝罪はこっちが困る。


 ――で、そんな洗居さんがここにいることには、きちんとした理由がある。

 どうやら、洗居さんはタケゾー父からここの清掃業務を請け負ったようだ。

 以前に百貨店でチラッと話してたけど、本当に警察関係施設にまで掃除しに来ちゃったよ、この人。


 ――まあ、これまでも組事務所やら国会議事堂やらを掃除していたらしいので、今更な話ではある。


「三人に先に言っておくが、ここの施設には国家機密レベルの開発物だってある。他所での口外は原則禁止で願うよ」

「そ、そんな凄い場所にアタシ達を招いて、本当に大丈夫なわけ?」

「隼ちゃんについてはご両親が関与していたし、是非とも見ておいて欲しいものだ。武蔵は口外した場合、すぐに俺が殴って叱りつける。洗居さんに関してはそこまで入らず、施設の侵入可能エリアの清掃を頼む」

「なんだろう。タケゾーだけ扱いがぞんざい」

「まあ、俺の息子だからな。ハハハ!」


 色々と気になることはあるが、アタシ達は施設の奥へとどんどん進んでいく。

 途中で洗居さんとはタケゾー父の言っていた通り、仕事の都合で別行動となるが、アタシとタケゾーはそのまま先へと進む。

 何やら最上階へと進んでいくエレベーターに乗ったりもして、施設内でもいかにも重要そうな場所を目指した。





「これが隼ちゃんのご両親と共同開発していたものだ。結局は二人が亡くなったことで、今は開発も一時中断しているがね」

「な……なな……!? 何だこれぇぇええ!?」


 そうしてタケゾー父が目的のものを見せてくれたのだが、思わずアタシは目を見開いて絶叫してしまう。

 これでも独自技術と両親の遺した技術により、実はハイテクな空色の魔女なんてやってるんだ。多少のことでは動揺しない。


 ――でも、目の前にあるものはその『多少のこと』を完全に超えていた。


「なあ、これってパワードスーツみたいなものだよな? そんなに凄いのか?」

「凄いなんてレベルじゃないっての! まだ開発途中みたいだけど、こんな素材や原理はアタシも全然知らないよ!?」


 一緒に来たタケゾーには、目の前にあるものの凄さが理解できないらしい。

 タケゾー父が見せてくれたのは、一見するとただのパワードスーツ。いや、パワードスーツがある時点でも結構凄い。

 ただ、アタシはその仕様書をタブレットで確認させてもらい、これがもはやとんでもないとしか言いようのないものであることに気付く。



 ――開発コードネーム『ジェットアーマー』

 吟味したカーボン素材による高い防御性と軽量性を両立し、頭から足の先まで覆いつくすフルアーマータイプ。

 当然それだけのはずもなく、注目すべきはその機能面。

 アタシも初めて見る瞬発高出力で、小型かつ軽量なジェットシステム。それを背中に搭載することで、飛行能力をも可能としている。

 それどころか手や足にもジェットが装備されており、これならばその推進力を格闘能力に転換し、プロの格闘家が裸足で逃げ出すようなパンチやキックだって可能。

 装着者に負担がかからないよう、アーマー内部の緩衝性能もバッチリだ。


 そして何よりもヤバいのが、これらの機能を装着者が自在に使いこなせるようにする、脊椎直結制御回路。

 装着者の脊椎に直接信号線を接続し、その脳信号で機能を操作できるようにプログラムされている。

 早い話、このジェットアーマーを扱うのに、何か特別な免許なんて必要ない。

 これを着れば誰だって、今日からすぐにスーパーマンだ。



「あっ……でも、脊椎直結制御回路については、まだ未完成なんだね……」

「そこを完成させる前に、君の両親が亡くなってしまったからね……」


 ただ、このジェットアーマー自体がそんな簡単な話ではない。

 アタシもタブレットで開発データに目を通すが、これらの機能を動かす制御回路は未完成のままだ。

 制御回路自体はすでに動かせるようになっており、装着者との脊椎接続も可能となっている。


 問題なのは、制御回路が脊椎と直結することによる、装着者への精神汚染だ。

 反応速度と機能の安定でこういうスタンスをとっているのだろうが、人の脊椎への干渉はかなりの危険が伴う。

 現にシミュレーションにおいて、装着者への神経インターフェイス汚染が発生し、感情を大きく不安定にさせてしまう結果が出ている。

 もしも実際にこれを稼働させれば、装着者は自身の怒りや欲望に身を任せ、リミッターが外れたように大暴れしてしまうだろう。


「このジェットアーマーはプロトタイプだが、仮に完成していれば量産体制を引くことだってできる」

「本当にそれができたら、この街の犯罪率も一気に低下するだろうねぇ」

「できれば、の話だがな。それに、これほどの発明品だ。あくどい連中の手に渡って、逆に利用されるリスクだってある」


 タケゾー父の見解はもっともだ。正直、アタシは今でもこんなとんでもフルアーマーの開発データを見ても良いものかと不安になってくる。

 このジェットアーマーには、安全装置として承認システムも必要不可欠だろう。


 脊椎直結制御回路の完成。承認システムの設定。

 これらができれば、大凍亜連合といった反社組織だって一網打尽にできそうだ。


 ――ぶっちゃけ、空色の魔女なんていらなくなる。

 それほどまでに、ジェットアーマーは高いスペックを誇っている。


 まあ、アタシも平和が一番だし、出番が減ってもそれはそれで構わないんだけど。


「ところで隼ちゃん。君ならこのジェットアーマーの開発を、続けることができないかね?」

「できなくはない……と思う。正直、これはアタシの規格外の発明品だよ。……でも、全く分からないわけじゃない。前にも似たようなことがあったけど、アタシになら父さんや母さんの研究を引き継げると思うし……引き継ぎたい」


 タケゾー父がわざわざこうして、アタシを警察の研究施設にまで連れ来た理由が見えてきた。

 これも工場に隠されていたデータ同様、アタシの両親の遺産と言える。

 強大な科学技術は人のためになるが、扱いを間違えれば逆に危険へと巻き込んでしまう。


 ――危険を回避し、世のため人のためにも、アタシはこの手でジェットアーマーを完成させたい。

 蛙の子は蛙。アタシもやはり技術者の子だ。

 それに何より、両親が完成させられなかったものならば、娘のアタシが是非とも引き継ぎたい。


「では、今後は隼ちゃんによろしく頼むよ。必要な部品があれば、いくらでも言ってくれ。こちらでも星皇カンパニーと提携しており、材料には困らないはずだ」

「星皇カンパニーと!? それなら、期待もできるねぇ!」


 まずは口約束といった程度だが、アタシはタケゾー父からジェットアーマーの開発を請け負った。

 しかもあの星皇カンパニーとも提携してるだって? それを聞いただけでも希望が見えてくる。

 もしかしたら、星皇社長とも今後関わっちゃうのかも。テンション上がっちゃう。


「俺にはもう、何が何やらなんだけど?」

「まあ、アタシの技術者としての新しいクライアントができたってことだよ。タケゾーもそこは素直に喜んどいて」

「あ、ああ……。まあ、親父からの仕事なら間違いはないか」


 一緒に話を聞いていたタケゾーだが、どうやら内容について行くことはできなかったらしい。

 専門外のタケゾーなら仕方ないか。これは完全にアタシの分野だ。


「手続きはまた別として、もうすぐ昼食だ。ひとまず、食堂スペースにでも行くか」

「それなら、洗居さんも呼んでいいかな? あの人、こっちから伝えないと、昼食の存在を忘れることもあるし」

「そ、そうか。流石は超一流の清掃用務員。仕事熱心……過ぎるな」


 アタシ達はジェットアーマーが置かれた研究室を後にし、エレベーターに乗りながら食堂を目指す。

 丁度お腹もすいてきたし、洗居さんにも事情の説明が必要だ。

 アタシがジェットアーマーの開発に入れば、清掃の仕事に入るのも難しく――




「……ん? なあ、空鳥。あそこに見えるのって確か……?」




 ――少し考え事をしながらエレベーターに乗っていると、タケゾーが窓の外に何かを見つけたようだ。

 こっちは色々と考えないといけないことがあるのに、タケゾーは呑気なものだ。まあ、直接的には関係してないから当然だけど。

 ただ、どうにもその言葉が気になって、アタシも窓の外に目を向けてみると――




「あれって……鷹広のおっちゃん?」

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