ep30 結局、明かすわけにはいかないよね。

 アタシが巨大怪鳥にトドメを刺そうとした矢先、その近くに姿を見せたタケゾー。

 またしてもアタシのことを探し、心配してくれていたようだ。

 他の人はとっくに逃げ出しているのに、本当に律儀な奴だ。




 ――だが、今出てくるのはマズかった。




「くらエェェエ!!」

「や、やっべぇ!? タケゾーの方に……!?」


 巨大怪鳥が闇雲に放とうとしている羽根の弾丸なのだが、タケゾーはその方角にいる。

 マズい。このままでは、タケゾーが――



 ダッ!!



「させっかよぉぉおお!!」


 ――そんなことだけは絶対にさせない。

 アタシの体は自然とタケゾーの方向へ走り出していた。


 正直、そのまま先に巨大怪鳥をぶっ飛ばしていても良かったと思う。

 どうせなら、羽根を防げる金属板でも持って行けば良かったとも思う。


 ――それでも、アタシはタケゾーが傷つくのが嫌という考えだけで、そちらに向かわずにはいられない。

 タケゾーは普通の人間だ。あの羽根の弾丸を食らっては、命だって落としかねない。


 だから、アタシにできるのは実に単純な行動だけ――



 ビュン! ビュン!


 グサッ! グサッ!



「うっぐぅ!?」

「あ、あんたは空色の魔女!?」


 ――アタシの身を盾にして、タケゾーを守る。

 タケゾーの眼前で大の字で仁王立ちし、飛んできた羽根を全て受け止める。

 なんとかタケゾーには当たらずに済んでいるが、アタシの方はメチャクチャ痛い。

 電磁フィールドも使えなかったし、生身の強度頼みで受けきるしかなかった。

 体中に羽根が刺さり、衣装から血が滲み出ている。


 それでも、致命傷には程遠い。

 一か八かだったが、アタシの肉体強度で持ちこたえることができた。


「と、とはいっても、これ以上はアタシも動けないか……!」

「し、しっかりしろ! お、俺なんかを庇ったせいで……!」


 ただ、ダメージそのものはかなり大きい。ここまで血を流したのなんて、生まれて初めてかもしれない。

 巨大怪鳥にトドメを刺そうにも、体の自由がうまく効かない。

 せっかく、あと一歩のところだったのに、これでは逆にアタシがやられて――




「警察だ! そこの巨大な鳥! おとなしくお縄に付け!」

「グゲゲェ!? 時間を使いすぎたカ! 今回のところは、ここで撤退するしかあるまイ!」




 ――そのタイミングで、警官隊が拳銃を構えて駆け付けてくれた。

 流石の巨大怪鳥もアタシから受けたダメージが大きかったのか、現金輸送車は諦めて逃亡を始める。

 アタシのことにも目をくれず、そのまま夜空の中へと消えて行ってしまった。


「た、助かったか~……」

「あ、ありがとう、空色の魔女……。だけど、早く手当てをしないと!」

「い、いらないさ。アタシは大丈夫だから」

「何を言ってるんだ! あんただって、ボロボロなんだろ!?」


 結局、あの巨大怪鳥を倒すことには失敗したが、それでもひとまずは良しとしよう。

 タケゾーはアタシの正体を知らずに心配してくれるが、今は顔を見ることができない。ずっと背中を向けたまま、言葉を返していく。


 ――洗居さんの時と同じく、アタシのせいでタケゾーをピンチに追いやってしまった。

 そんな罪悪感を抱えたまま、幼馴染の顔なんてまともに見れると思う? 生憎、アタシはそこまで強い女じゃない。

 正直、タケゾーが傷つくことは、アタシにとって何よりも怖かった。




 ――これじゃ、さっきまでしてた正体を明かすなんて話もできっこない。




「そいじゃ、アタシはこれで。アディオース」

「お、おい!? 待ってくれって!?」


 アタシは背を向けたまま手元にデバイスロッドを引き寄せ、そのまま夜空へと飛び立っていく。

 とてもではないが、泣き出したい気分だ。


 ――いつもアタシの心配をしてくれるタケゾーに、仮初の姿とはいえ、そんなところは見せたくない。


「ハァ……。アタシって、本当に何をやってんだかねぇ……。イテテテ……!」


 少し夜空を飛んだ後、アタシはビルの屋上に腰かけて、体に刺さった羽根を抜き取っていく。

 幸い、深くは刺さっていない。変異した細胞の影響なのか、傷の治りも驚くほど速い。

 これならば、わざわざ病院に行く必要もないだろう。


 ――ただ、心の傷の方はまだ塞がらない。


「こーんなになるまで戦ったのに、結果がこれかぁ……。空色の魔女も、本物のヒーローにはなれないのかねぇ……」


 ビルの上から地上を見下ろすと、さっきまでアタシが巨大怪鳥と戦っていた場所が見える。

 今は警察や救急隊のサイレンが入り乱れ、後始末が行われている。


 多数の車が横転して大破し、まるで怪獣でも暴れたんじゃないかってぐらいの惨状。

 アタシも必死だったとはいえ、流石にやりすぎたと言わざるを得ない。


 ――正義のヒーロー、空色の魔女が聞いてあきれる。



 トゥルルル トゥルルル



「……ん? もしもーし。ああ、タケゾー? ――うん、アタシは大丈夫だよ。ごめんね、連絡が遅れて」


 そうやって一人ビルの上で黄昏ていると、スマホにタケゾーからの着信が入った。

 電話の内容はお察しの通り、アタシの無事の確認。自分だって危ない目に遭ったのに、よくアタシなんかの心配までできるもんだ。


「そっちは? ――へえ、そうなんだ。でも、空色の魔女に近づくのはやめた方がいいよ。下手をすれば、タケゾーまで巻き込まれるよ?」


 タケゾーは空色の魔女と会ったことも語ってくれるが、その正体であるアタシはそれを拒んでしまう。

 何やら『空色の魔女にお礼を言いたい』などと述べているが、そんなことをさせる気になれない。

 その正体がアタシだってバレるのも嫌だし、何よりもこれ以上タケゾーが関わることに嫌な予感を覚えてしまう。


 洗居さんの時もタケゾーの時も、アタシが関わることで周囲の大切な人が危険に晒されてしまった。

 たとえアタシが人々のために動いても、それで身近な人に危険が及んでしまうと、もはや何をやっているのか分からない。


「――うん。タケゾーも自分を大事にしなよ? アタシも今日は家に帰るから、もう心配しなくて大丈夫さ」


 空色の魔女は続けたい。人のためになりたいし、あの巨大怪鳥だってどうにかしないといけない。

 それでもこの件については、もうアタシ一人でどうにかするしかない。

 これ以上は誰にも正体を明かさず、空色の魔女という誰も真実を知りえない存在として活動するしかない。




 ――もうこれ以上、空色の魔女アタシに関わることで、みんなを危ない目に遭わせたくない。

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