第148話 復活⑯
男は右手の人差し指をピンと立てながらゆっくりとフェリクスの方を指す。
「黒い騎士よ、貴様の名は?」
「……フェリクスだ。ルカニード王国軍所属、フェリクス・シーガー特務大尉だ」
「ならばフェリクスよ、貴様は先程光魔法を使ったよな? あれは駄目だ。光魔法の割に遅い。本物はこうだ」
男は笑い、指先に光が集束して行くと、それを見たフェリクスは腰を落として警戒態勢を取る。
『
男の指先から光が放たれるとすぐさまフェリクスの眼前へと迫った。警戒していたフェリクスは光の矢が頬をかすめるも、間一髪躱して見せる。頬をつたう血を拭いながら、フェリクスは苦笑いを浮かべた。
「はは、躱したぞ。人の魔法を遅いだ、なんだと言っておきながらお前のもそこまで速くはなかったぜ」
そう言って笑うフェリクスだったが、その表情からは明らかに驚きの色が見て取れる。実際男が放った
「そうか、なら次も避けきれるよな?」
振り返ったフェリクスの目に飛び込んで来たのは、男の前に無数に集まる光の玉だった。その数にフェリクスも思わず息を呑んだ。
「いや、ちょっと多いだろ……」
『
男が唱えた刹那、フェリクスを無数の光の矢が襲った。幾つかは躱し、幾つかは弾いたが、それでも避けきれない無数の矢を身体に受け、フェリクスは宙を舞った。
「フェリクス!!」
フェリクスが地面に叩きつけられるとほぼ同時にセシルが叫ぶ。すぐさまセシルが駆け寄るとフェリクスは僅かに身体を起こした。
「大丈夫?……じゃないか」
「ああ、何発かはまともに喰らった。なんなんだあいつは」
フェリクスに
「さて、どうやって攻略するか……。ジョシュアとか言うのとアイリーンがいてこれじゃあ……」
「仕方ないか。大気の状態を不安定にしてくれてるアイリーン大佐の力をまた少し借りようかな」
そう言って立ち上がったセシルは飛びっきりの笑顔を見せる。この状況下で笑って見せるセシルを不思議に思ったフェリクスだったが、立ち上がりすぐに目を閉じ詠唱に入ったセシルを守る為すぐに剣を握り締めた。
周りに再び風が吹き荒れる。視線の先では男もフェリクス達の動向に気付いたようだが、ジョシュアとアイリーンが間髪入れず攻撃の手を緩めない為フェリクス達まで手が回りそうになかった。
「ちっ、鬱陶しい連中だ。火竜よ、あっちの二人を阻止しろ」
男の命令に火竜が反応しフェリクスとセシルに向かって炎を吐く。燃え盛る炎が迫る中、詠唱を唱えていたセシルが目を見開き笑みを浮かべる。
「残念、少し遅かったわよ『
微笑むセシルの前に竜巻が起こると、迫る炎を巻き上げて阻んだ。それと同時に幾つもの竜巻が出現すると、火竜より放たれた炎を飲み込んだ竜巻は男と火竜に迫る。
「なんだ? 火竜の炎を取り込んだ竜巻を使って連撃するつもりか?」
男はすぐに
「まじかよ!?」
「な!? セシル貴様!」
「ふふ、油断し過ぎですよアイリーン大佐」
ジョシュアとアイリーンが驚愕の表情を浮かべる中、セシルはニヤリと笑って見せた。
竜巻に飲まれたジョシュアとアイリーンが空高くへと舞い上げられるのを確認するとセシルはすぐにフェリクスに抱きつく。
「ごめんねフェリクス。ここは引こう」
セシルがそう言った瞬間、二人も竜巻に飲まれ空高くへと舞い上げられた。
暫くして竜巻が収まると、その場には男だけが残されていた。男はキョロキョロと周りを見渡すと納得したような笑みを浮かべる。
「一番冷静だったのは風使いの女だったか。まぁいいだろう」
口角を上げて一人頷きながら納得の表情を浮かべる男の背後に一人の女性が近付く。
「ふざけた事を。追いますか?」
「いや、今回はいいだろう。縁があればまた目の前に現れるさ。今は世界連合を潰し、私の復活を世界に知らしめるのが先だ」
「了解しました。ふさわしい舞台を整えましょう」
「ああ、頼んだ……もう少しだ、待っててくれシャーロット」
男は振り返り、再び戦火の方へと歩んで行く。
――
少し離れた森の中へと落下したフェリクスとセシルは息を潜めていた。
「どれだけ飛ばされたんだ?」
「今はラブカの東よりの森の中よ。少し休んだらリオさんと連絡取って合流しましょう」
「ひとまずあの竜巻は逃げる為の物だったって事だろうが、アイリーン達はどうなったんだ?」
「あの場面、フェリクスが負傷した時点でこっちの勝率なんかゼロに等しかったでしょ? 無駄に死ぬぐらいなら逃げた方がマシでしょ? ジョシュアとアイリーン大佐はついでだから逃がしてあげただけ。ほっといたらあの男にダメージを与えてくれたかもしれないけど、確実に二人はやられるでしょうし、そんな中私達だけ逃げ出すのも釈然としないからさ」
「まぁ確かにそうだな。あの二人は何処に飛ばしたんだ?」
「さぁ? 竜巻で飛ばしてあげたけどその後まではコントロール出来ないから何処まで飛ばされたのかはわかんないかな。ひょっとしたら着地で大ダメージなんて事もあるかもしれないけど」
そう言って平然と悪戯っぽい笑顔を浮かべるセシルを見て、フェリクスも少し呆れた様に笑った。
「まぁあの二人なら死にはしないか」
「なんせ
――
ラブカ南側に位置する岩場にうずくまっていたアイリーンが片膝を着いて身体を起こす。
「セシルめ、私をこんな僻地に飛ばすとはやってくれる。ここから歩いて本隊まで帰らねばならんのか、本当にやってくれたな。しかしあの男、何者だ? 嫌な予感がする。少し急ぐか」
アイリーンは着地の際、痛めた左腕を押さえながら足早に本隊を目指す。
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