第112話 動き出した運命④

 フェリクスに返信した数時間後再びフェリクスからの返信がセシルに届く。


『二週間後セシルの予定に合わせるよ。また連絡待ってるから』


 そのメールを見てセシルの心は踊り、翌日には早速二日間の休暇を申請も済ませた。

 その日の夜。訓練が終わるとセシルはジョシュアとアデルを誘って飲みに出掛けていた。


「あはは、まぁあんたも大変だったけどさ、少しは前向きになったみたいで良かったよ」


 グラスを片手にジョシュアの肩を空いた手で軽く叩きながらセシルは笑っていた。


「そりゃ自分の中で踏ん切り付けなきゃどうしようもないしな。それに、落ち着いたらまた何処かで会えるかもしれないし」


 ジョシュアが少し困った様に眉根を寄せて笑うとセシルとアデルも微笑んだ。


「結局諦めてはいない訳ね。まぁ簡単に諦められても、向こうからしたらそれはそれで納得いかないかもしれないけどね」


「なんだよそれ? 何処かに行ったのはシエラの方なんだぞ?」


「それはお互いの立場上、今はそうしなきゃいけなかっただけじゃないの? 何? 貴方達の関係ってそんな簡単な物じゃないんでしょ?」


 少し納得のいかない様な顔を見せるジョシュアに対して、セシルは頬杖をつき微笑みながら問い掛けていた。


「そりゃそうだが……なんだよ、めんどくせぇなぁ」


「男と女なんだからそりゃ面倒臭い事もあるわよ。なんでわかんないかなぁ?」


「ジョシュア、恋愛においてもセシルの方が俺達より上って事だな。俺には複雑過ぎる。紙面上にあるデータや数字の方がどれだけ単純な事か」


 二人の会話を聞きながらアデルが笑いながら頭を抱えてジョシュアに語り掛けていた。三人で笑いながら再びグラスを交わし、充実した時間を過ごす。


「しかし何か良い事でもあったのか? この前まで何処か不機嫌そうにしてた様に思ったが?」


 笑いながら不意にアデルが問い掛けてきたのを聞いて、セシルは一瞬戸惑ったがすぐに笑顔になる。


「良い事なんてないわよ。この前までは任務とかがあって疲れてただけ。そうね、強いて言うなら吹っ切れただけ。私一人が悩んでても世界は回るし、待ってもくれない。だったら一人悩んで立ち止まってたって仕方ないでしょ? 先に進んで答えを見つけなきゃ仕方ないかなってね」


 セシルが少し遠くを見つめて微笑むと、グラスを傾け一気に飲み干す。


「なんだ、セシルでも悩む事あるんだな」


「ほほう、どういう意味かな? 魔力が戻ってなくてもあんた吹き飛ばす風ぐらい起こせるわよ」


 酒も入り、少し饒舌になったセシルを笑ってジョシュアが茶化すと、セシルも眉をぴくつかせながら返していた。三人での楽しい歓談の時は瞬く間に過ぎ去って行った。


 数日後、申請が受理され休暇まであと一週間と迫った時、セシルはアイリーンに呼び出されていた。


 一週間後にフェリクスに会う。そんな後ろめたさのせいかセシルの表情は若干強ばっている。


「アイリーン大佐、何かありましたか?」


「いや、実はなセシル。お前が申請していた休暇なんだが、認める訳にはいかなくなってな」


 恐る恐る伺ったセシルに対してアイリーンが少し笑みを浮かべながら答える。セシルは突然の事に絶句してしまい唖然とした表情を浮かべていた。


『却下された理由は? まさかフェリクスとのやり取りがバレてしまった?』


 セシルは頭が混乱しパニックになりそうだった。しかしそれを悟られない様に、ゆっくりと息を吐きながら一つ一つ冷静に問い掛ける事にする。


「一度下りた休暇の申請が取り消されるとは何故でしょうか? 何か手続きに不備等があったんでしょうか?」


 セシルの問い掛けにアイリーンは不敵な笑みを浮かべていた。


「いや、手続きに不備等無かった。こちら側の問題だ」


「こちら側、ですか?」


「ああ……いいかセシル? 本来はまだお前達には知らせてはいけない事なんだがな、お前にだけ教えといてやろう。決して口外するなよ」


 眼光鋭く語り掛けるアイリーンの迫力にセシルは気圧されながら静かに頷いた。


「今から丁度一週間後、お前が休暇の申請をした日に我々セントラルボーデン軍はルカニード王国へ向けて進軍を開始する」


「……!! は、はい!? 何を!? ルカニード王国への進軍なんて……ちゅ、中立国ですよ!?」


 あまりにも予想だにしない事態にセシルは完全にパニックに陥ってしまう。


――時は遡る。

 四百周年記念式典が行われていた日、一足先に戻っていたルーシェル・ハイトマン元帥はある人物達と秘密裏に会合を開いていた。


「わざわざお越しいただき申し訳ありませんな」


「まぁ元帥自ら『自国で直接会って話がしたい』と言われれば応じざるを得んでしょう」


 そう言ってやや面倒くさそうにし、椅子に深く腰掛ける男の名は『リチャード・マクドネル』世界連合三大国家の一つ、ターパフォーカス帝国の国家元首である。


「まぁまぁ、我々三大国家が一堂に会す機会なんか滅多にない訳ですからいいじゃないですか」


 やや遠慮がちに笑って場を和まそうとしている男が『ケリー・マイヤーズ』世界連合三大国家の一つ、ギアノ王国の代表を務める男だ。


 世界連合を束ねていると言っても過言ではない男達が集まり、歴史的な会合が今始まろうとしていた。

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