第81話 N.G397年 ラフィン戦争②
ザクス達が戦場に着くとそこは想像以上の激戦となっていた。
援軍を求めたヴェルザード大尉の隊は既に敵軍に追いつかれ退避行動もままならず敵からの集中砲火にさらされている。
先に補給基地から出撃して行った他の部隊も参戦しているものの、いかんせんセントラルボーデンの兵が多く思うように近付けずにいた。戦力差はざっと五倍程だろう。
「ここまでの戦力を投入してくるとは、ちょっとまずいぞ。今こっちのウィザードは何人だ?」
「確か三人です。ヴェルザード隊にウィザードがどれ程いるかは未確認ですが」
隊長と思われる者が部下に確認するがあまり
「どの道ソルジャーの働きが左右しそうだな。俺が敵の一角に突っ込むから隊長達は援護してほしい」
「中佐。ここは戦場だぞ。得意の計算でシュミレーション通りには行かないんだ」
ザクスが先陣を切る事を提案したが即座に隊長に否定されていた。確かに実戦経験の乏しい技術士官のザクスが先陣を切るなど自殺行為にしか思えない。しかしザクスは全く聞く耳を持とうとしなかった。
「その通り、ここは戦場だ。だからこんな所で手をこまねいている暇なんかない。まぁ他の部隊に迷惑はかけないよ」
ザクスはそう言い残し飛び出して行くとその後を隊長達が慌ててついて行った。
ザクスの中ではある程度は自信があった。それは自分が開発したバトルスーツに対しては勿論、自らの身体能力の高さにも。
「ヴェルザード大尉、こちらザクス・グルーバー中佐だ。敵の一角を崩す。その隙に援軍が来てる位置まで退くんだ」
そう通信を入れるとザクスは更に加速して行く。そのスピードはとても技術士官とは思えない程だ。
「中佐! あんたまさか、そのまま突っ込む気か!?」
通信を受けたヴェルザードが叫んだ。
現在ヴェルザード隊に対してセントラルボーデン軍は正面、左右と分かれて三方向から攻撃を仕掛けている。このうちの正面にいる部隊に対してザクスは突っ込んで行ったのだ。
正面に突っ込んで来るザクスに対して正面の部隊だけではなく、左右の部隊も十字砲火を浴びせる。
しかし浴びせられる銃弾、砲撃、魔法さえもかいくぐるとザクスはいとも簡単に正面の部隊に到達してみせた。敵部隊の懐に飛び込んだザクスは携えていた剣と銃でまさに獅子奮迅の活躍をみせる。
正面からの突破を許したセントラルボーデン軍は焦り、現場は混乱した。その綻びを見逃さなかったのはヴェルザードだ。ザクスの活躍により正面の部隊は瓦解し指揮系統が混乱した隙をつき、右側にある部隊に攻撃を一気に集中させたのだ。
結果、陣形は崩壊し戦力は一気に半減する事になったセントラルボーデン軍は退避行動に移す。
「追撃はどうします?」
「いや、こちらも緊急発進だったんだ止めておこう。ヴェルザード隊の救援も出来た訳だし良しだろう」
一緒にここまで来た隊長がザクスに尋ねたがザクスが一度退く事を選択すると皆それに従った。初めこそ技術士官の言う事など誰も聞こうともしていなかったが結果と実力で一瞬で皆を従わせる事になったのだ。
補給基地に戻りザクスが試作型バトルスーツのアフターケアをしているとヴェルザード大尉が訪ねて来た。
「ザクス中佐、この度は本当にありがとうございました。貴方が来てくれなければ我々は今頃全滅していたかもしれません」
「俺だけじゃない、この基地の全員で救援出来たんだ。それにこのバトルスーツのデータも取りたかったしな」
かしこまって礼を伝えてくるヴェルザードに対してザクスは笑顔で答えていた。しかしそれでもヴェルザードは堅い敬礼を解こうとはしなかった。
「いえ、それでも貴方の獅子奮迅の活躍があったからこそです。途中失礼な言動があり申し訳ありませんでした。罰則は受けます。どうぞ仰って下さい」
「そんな言動あったか? じゃあまぁ、その堅苦しい敬礼と喋り方をやめたまえ」
ザクスが少し皮肉を込めてそう言うとヴェルザードは「はっ! わかりました」と言って敬礼を解くと後ろ手で組み、背筋を伸ばし胸を張りながら直立不動で立つ。
その様子を見てザクスは呆れた様な苦笑いを浮かべていた。
「ヴェルザード大尉、一つ聞きたい。俺が正面に突っ込んだ時、敵の攻撃は左右の部隊からも俺に集中した。その隙に下がれと言ったのに君は右側の部隊への攻撃を選択した。その真意は?」
「はっ! あの時我々の救援の為に駆け付けてくれた中佐を残して我々だけ安全圏に退く事は出来ませんでした。何よりあの場面、中佐に気を取られた敵は我々への警戒が疎かになっていました。あの場面、退くより攻撃に転じた方がより安全に勝てると判断した次第であります」
「そうか、素晴らしい判断だったと思う。逆に俺も助かったよ」
「そのようなお言葉、ありがとうございます!!」
にこやかな表情で話し掛けるザクスとは対照的に終始堅い対応のヴェルザードであった。
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