第56話 シエラ
バレスタ掃討作戦から帰還した兵士達は数日間の休みを得る事になった。
ただそんな中、カストロ中隊の隊員達は行方不明となっているセシルの捜索活動に参加していた。
「ふぅ、セシル……お前何処いるんだよ?」
強い日差しが照りつける荒野で流れる汗を拭いながらジョシュアが一人呟く。
ケスターを追いセシルが駆け出して行った先には激しい戦闘を物語る痕跡があり、そこを中心に捜索は続けられている。
だがどれ程捜索しようとも発見には至らなかったのだ。
マーカスとバスケスも周りを見渡しながら途方に暮れていた。
「俺達にはよくわからないけど魔力の
「セシル少尉が簡単にやられるとは思わないけど……ボーラも元気なら捜索を手伝いたかったって言ってたけどな」
「お前ら……いつの間にそんな仲良くなってんだよ?」
「いや、ここに来る前にちょっと見舞いに顔出しただけだろ」
バスケスが何気なく言った言葉にマーカスが問い詰めたがバスケスは慌てて言い訳を口にする。
結局その日も手がかりすら発見出来ぬまま帰還する事となった。
戻ったジョシュアはその足でシエラの元を訪れていた。
「おかえりなさい。お疲れ様。今日もセシル少尉の行方は分からなかったの?」
「ああ、駄目だったよ。よく分かったな」
「ジョシュアの顔見たら分かるわよ。疲れたでしょ? ご飯にしましょうか」
そう言っていそいそと晩御飯の支度を始めるシエラを見てジョシュアは微かな幸せを噛み締めていた。
「何か手伝った方がいいかな?」
「いいわよ。疲れてるんでしょ? ゆっくり座ってて」
そんな短いやり取りでも疲れた身体が癒されるようだった。そのままソファに深くもたれかかり今回の事を思い返す。
人狼ガルフとの戦いに始まりアナベルとの再戦。彼らは何を思い、何の為に戦い挑んできたのだろうか? 戦いの中で感じた彼らの怒り。その怒りの根源は一体何だったのだろうか? アナベルの最後の姿が脳裏に焼き付き離れないでいた。
『
『優越感に浸ってるだけの偽善者』
『能力の低い者にとってこの世界がどれ程地獄だったかを』
アナベルの言葉が頭の中でぐるぐるとこだまする。ぐるぐる、ぐるぐると…………。
「……ジョシュア……ジョシュア」
気が付くとシエラが心配そうに覗き込んでいた。いつの間にか眠っていたようだ。
「大丈夫? なんか難しい顔して唸ってたよ。ご飯食べて今日は早く休んだら?」
そう言ってシエラが微笑みかけてくるのでジョシュアも笑顔で返す。その笑顔は酷くぎこちないものだった。
その後食事を終えたジョシュアはシャワーを浴びた後、先にベッドで休んでいた。
頭の後で手を組み再び物思いにふける。すると暫くしてシエラが部屋に入ってくる。
「ジョシュアまだ起きてる?」
そう言ってベッドの傍らに立つとゆっくりと腰を下ろした。
「ああ、もちろん」
「そう。じゃあ私が癒してあげようか」
シエラはそう言って覆い被さると唇を重ねた。そのまま二人身体を重ねるが、その日のシエラはいつもより何処か積極的だったようにジョシュアには感じられた。
翌日。
ドアを激しくノックする音でジョシュアは目を覚ました。その音はノックするというには余りに激しく殴りつけるような音だ。
慌てて時計に目をやると時刻は既に昼を回っていた。普段こんな時間まで寝る事はなく、ましてや今日もセシルの捜索活動に参加するつもりだったので完全に寝過ごしていた。
ひとまず外から鳴り響くこの激しいノックを止めさせるべくベッドから身体を起こす。酷く身体は重く思考もまとまらない。それ程自分は疲れていたのかと思いながら周りを見渡すとシエラの姿が無い事に気付いた。
少し戸惑ったがその間もドアのノックは鳴り止まない為ひとまずドアを開け対応する。
「……!! だ、誰だ? ここはシエラ・モスの居住地のはずだが?」
ドアを開けるとそこには軍服を纏った男達が数名おり、シエラが一人住んでいるはずの部屋から筋骨隆々のジョシュアが出てきた為男は戸惑いを見せる。
「あっ、自分はジョシュア・ゼフ少尉です。昨日シエラを訪ねて、その、そのまま寝てしまって」
男達に物怖じする事なくジョシュアが対応するが何処かバツが悪そうではあった。
「あっ、少尉殿でしたか。失礼しました。今回シエラ・モスにスパイ容疑がかかっておりまして、その調査に参りました。これが捜査令状です」
そう言って先頭にいた男が捜査令状を見せると男達は次々と部屋の中へとなだれ込んでくる。
「えっ? ちょ、ちょっと待ってくれ。シエラにスパイ容疑? いや何かの間違いだろ? そんなはずは……」
「少尉とシエラ・モスがどのような仲であるかは今は詮索しませんが場合によっては少尉からもお話を伺う必要があるかもしれません」
戸惑い否定的な言動のジョシュアに対して男は毅然とした態度で言い放つ。事態が飲み込めないジョシュアは片手で頭を抱えながらソファへ座り込んだ。
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