第22話 襲撃⑤
「ふぅ……」
左手に銃を構え、右手には両刃のダガーを逆手に持ち、ジョシュアが深く息をついた。
はたして銃が効くのか? 接近してナイフや剣の方が有効だろうか? それともこういう時こそ魔法の出番なのか?
初めて対峙する人狼に対して攻めあぐねていた。
「へへへ、どうした? ビビってるのか?」
ガルフが大きな口から舌を出し挑発する。
「はっ、誰が。どう料理してやろうか考えて……」
ジョシュアが笑みを浮かべ、そこまで言葉を発した時、ガルフの鋭い爪が眼前に迫っていた。
ジョシュアは前髪数本を散らしたが、間一髪体勢を崩しながらも上体を反らし、ガルフの攻撃を躱す。
しかしガルフは攻撃の手を緩める事なく、その研ぎ澄まされた左右の爪でジョシュアに向けて襲いかかった。
先手を取られ防戦一方になるジョシュア。
辛うじて躱し続けるが、ガルフの爪の切っ先がジョシュアを徐々に捉え始めていく。
その時、後方から銃声が響いたかと思うと、空気を切り裂き一発の弾丸がガルフに迫る。
ジョシュアの後方から放たれた弾丸は正確にガルフの頭に向かってきていた。
だがガルフは余裕を持って身をひるがえしその弾丸を躱してみせる。
「フン。援軍か」
ガルフが後方にいるエイトリッチを見つけ怠そうに呟いた。
エイトリッチの放った弾丸はガルフを捉える事は出来なかったが、しかし防戦一方になっていたジョシュアを援護するには十分だった。
「いい加減俺のターンだろ」
そう言ってジョシュアが右手を下げて構えると、不自然な風が吹きはじめ、足元に砂塵が舞う。
「なんだ?」
ガルフが半身で構え怪訝な表情を浮かべる。
「全開でいくぞ『風の刃に刻まれよ
ジョシュアがそう唱えて右手を上に振り上げると、地を履うように三筋の鋭い疾風がかまいたちの様にガルフに迫った。
咄嗟に腕をクロスに構え、防御したガルフだったが腕と足に切創を負うことになった。
「魔法も使えるのかよ。ハイブリッドか?……いや、そのスーツのおかげか」
クロスにしたまま。己の血が滴る腕の間からジョシュアを睨むようにガルフが呟く。
ガルフはすぐに反転しもう一人の人狼に向かって叫んだ。
「シャルザーク! その女をこっちによこせ! そろそろ時間だ!!」
そう言ってシャルザークから、拐った女性を受け取ったガルフが振り返りジョシュアを睨む。
「おい兵隊。俺の貴重な血を流させた事、後悔させてやりたいが今回はタイムアップだ。面倒な奴らが帰ってくる前に退散させてもらう」
そう言うとガルフは拐った女性の首を片手で掴み、ジョシュアに見せつけるように持ち上げる。
その巨大な手に掴まれ持ち上げられた女性は苦悶の表情を浮かべていた。
「おい。その人を離せ。人質取らなきゃまともに戦えないのか?」
「ははは、本当ならもうちょっとやり合ってもいいんだが、あいつらが帰って来るとちょいと面倒臭そうなんでな。ここいらで退散させてもらうぜ。ちゃんと受け取れよ。助けたいんだろ?」
そう言うとガルフは眼前に持ち上げた女性をあらぬ方向に放り投げた。
放り投げられた女性は玩具の人形の様に力無く宙を舞う。
「な!?……野郎!!」
ジョシュアが慌てて放り投げられた女性の方へと走り出す。
建物の二階程の高さまで放り投げられ、そのまま地面に叩きつけられれば、生身の女性ではひとたまりもない。
女性が地面に落下する寸前、ジョシュアが女性と地面の間に自らの身体をすべり込ませ、間一髪女性を抱きしめた。
「あの野郎!!」
即座に身を起こし体勢を整えたジョシュアが振り返るともう既に、そこにはガルフの姿はなかった。
「少尉駄目だ、逃げられた」
後方で全てを見ていたエイトリッチから通信が入る。
「俺の方も終始人質を脇に抱えてやがったから迂闊に攻撃出来なかった」
バスケスも首を振りながら歩み寄ってきた。
お互い決定打を欠く結果だったが、拐われた人質を助けられただけでも良しといった所だろうか。
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