さざえ堂から喜多方ラーメン
鶴ヶ城を見終わったら、もう一か所行くって。着いてみたら三階建てのお堂。六角形なのが目を引くけど、
「特徴は二重螺旋階段になっとるとこや。つまりは登りと下りで階段がちゃうねん。コトリも日本の伝統建築物で二重螺旋階段どころか螺旋階段も見たことあらへんわ」
「蘭学の知識が入ってるんじゃない」
西洋の地下の水汲み場で二重螺旋階段のところはあるのだって。そういう知識が入らないと、
「和風建築の階段は極力小さくするものだものね」
そうなのよ。日本でも多層式の建築物はあるけど、ほぼ例外なく階段は狭くて、むちゃくちゃ急だもの。梯子じゃないかと思うほどのものも多いよね。
「梯子より怖いよ。踏み込みがあんなに浅いんだもの」
あれは発想として階段面積を取るのが無駄の思想があるはずよ。だから、西洋みたいに吹き抜けの大階段なんて見たことないもの。螺旋階段なんてスペースの無駄だし、ましてや二重螺旋階段なんてもったいなくて思いつきもしないはず。
さざえ堂は二重螺旋階段を登って下りたら三十三か所巡りが出来るシステムだったらしいけど、見ようによっては階段しかないお堂よね。ちなみに明治の時に三十三観音は外されて白虎隊士の霊像に置き換わったらしい。
「どこまで行っても観光目的ね」
そうだけど、そうやって利用されたから今も残ってるとも言えると思う。
「お昼は」
「ここまで来たら喜多方ラーメン」
喜多方まで三十分ぐらいだって。喜多方ラーメンも有名で昭和の頃は札幌、博多と並んで三大ラーメンと言われたぐらいだそう。今みたいに全国どこに行ってもご当地ラーメンがあるのとは違う感じ。
「今だって三大ラーメンって呼ぶ人はいるよ」
基本は豚骨のあっさり系の醤油ラーメンで、麺は四ミリもある太麺で、やわらかめだそう。とは言うものの百軒以上乱立してるから、塩や味噌とかバリエーションはテンコモリになってるんだって。
「競争になると差別化を競うのは当然だけど、あんまり激しくなると、なにが喜多方ラーメンかわからなくなっちゃうよ」
それはあるかも。先発人気店と同じラーメンで勝負したら後発が不利になる。だから、先発とは違う特色を打ち出そうとするのは誰でも考えつくと思うけど、その競争があまりにも激しくなりすぎると、
「どこにでもあるラーメンになっちゃうのよ」
ラーメンもこだわる部分は山ほどある言っても、基本はスープと麺だものね。スープのバリエーションだって、突き詰めると案外多くなくて、どうしたって醤油、味噌、塩ぐらいに集約しちゃうもの。スープの大元だって鶏ガラとか豚骨とかあるけど、
「人がラーメンに求める味って、案外保守的なのよね」
コンソメ・スープじゃ無理も良いところになるもの。ここも誤解して欲しくないけど、競争することで不味くなってるのじゃない。味は良くなっても、
「ご当地ラーメンには何が求めらるかって話なのよね。きちんとイメージ戦略が出来ていないと、ご当地ラーメンじゃなく、単に美味しいラーメンになっちゃうのよね」
三大ラーメンって話が出てたけど、ユリでさえ札幌ラーメンと言えば味噌が思い浮かぶし、博多ラーメンなら白濁した豚骨スープだ。だけど味噌ラーメンも豚骨スープも札幌や博多以外でもいくらでもあるの。
だけどご当地ラーメンを求める人は札幌なら味噌ラーメンを見れば満足するし、博多なら白濁した豚骨スープをみれば、これこそご当地ラーメンと思うはず。それに比べると喜多方ラーメンと言われてイメージとして浮かんでくるものは無い。
「ラーメンの進化系って、東京のラーメンみたいになっちゃうのかもね」
東京もラーメン激戦区やけど、東京ラーメンってブランドになってないものね。昭和の頃は醤油だった時代もあったそうだけど、今じゃないもの。ひたすら個性のあるラーメン屋が鎬を削る世界だよ。
「ラーメンって拡散もするけど、収束もする料理の気がする」
かもね。そんなことを話している間に喜多方に着いた。
「サカウチ食堂ね」
「ちゃうバンナイ食堂や」
大衆食堂って感じがそそるよ。妙に立派な柱が目立つ店内だけど、注文はカウンターで先払いみたい。ユリとコウは支那そばにしたけど、
「大盛り肉そば」
「大盛りネギチャーシュー」
そうなるよね。
「お冷や入れて来たよ」
カウンター前になにやらパンフレットやチラシが置いてある感じもいかにも良い感じ。へぇ、持っては来てくれるんだ。コトリさんたちの肉そばとかチャーシューはまさにビッシリ敷き詰められてる感じだ。
「煮豚じゃなくて焼き豚みたいね。でもやわらかい」
厚切りなのよね。平麺だけど縮れてるかな。スープは醤油と聞いてるけど、塩ラーメンみたいに透明度が高いじゃない。
「全体にあっさり系ね」
豚骨ベースだからもっとコッテリ系かと思ってた。これは美味しいよ。なんだかんだと理屈を付けたけど、
「美味しければ最高!」
食べ物のすべての基本はそこ。喜多方でラーメン食べたら、すべて喜多方ラーメンで文句はない。ラーメンであるのは、
「美味いか不味いか」
文句があるならかかってこい。
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