クレカの威力
ユリが侯爵になった時に爵位給をもらえるって話だったんだ。でもさぁ、侯爵になったものの公務免除じゃない。だからお小遣い程度と思ってたんだ。お小遣いでも月に十万円とかもらえたら嬉しいぐらい。
そうそうエッセンドルフ公爵家はリッチ。だって国家歳入の半分が公爵家からの寄付になってるぐらいリッチ。それだけじゃなく、教育も、警察も、医療も公爵家の直営なんだ。その莫大な富を運用して利益を稼ぎ出しているのが通称公爵銀行。
そいでもってユリに渡されたのが公爵銀行が発行した黒いクレカ。アメックスと連携になってるみたいでマークが入ってる。これだって日本のアメックス加盟店なんて少ないと思ったけど、日本ではJCBとも提携してると聞いてホッとした。
ココロはユリが日本に住んでいるから必要なものはクレカで買えだと思ったけど、月々のお手当がわからないと使いにくいじゃない。リボ払いとか、キャッシングもあるだろうけど、そんなことはしたくないもの。それに限度額だってあるじゃない。
「限度額はございません。それとリボ払いもキャッシングも使えません」
どういうこと?
「公爵家のカードはすべて公爵家の口座から支払われます」
ユリの個人口座は無いらしい。
「我々のような臣民が使用額について意見することは出来ません」
はぁ? なかなかシステムがわかりにくかったのだけど、公爵家のカードを持つ人間はいくら使っても良いそうなんだ。そんなことをしたら、どこかのアホが・・・
「このカードを保有されているのは公爵殿下と侯爵殿下のみです」
つまりユリの爵位給は使い放題のクレカになるで良さそう。もう腰が抜けそうになったのだけど、そうなると心配なのは税金。
「物を買われる限り無税で日本政府と話は付いております」
どうも現物支給だから無税になるらしい。現物支給だって税金がかかることはあるらしいけど、
・職務の性質上欠くことのできないもので主として使用者側の業務遂行上の必要から支給されるもの
・政策上特別の配慮を要するもの
主にこの二つの理由で免税だって。この政策上特別の配慮のダメ押しがユリの特命全権大使就任になるみたいなんだ。これも本来は現物支給だって換金が容易なものは課税対象になるらしい。たとえば高価なアクセサリーとか。
だけどユリは正式のエッセンドルフ侯爵でしかも女。どれだけ高額なアクセサリーでも侯爵の体面を保つための必要経費にみなされてしまうらしい。外食だって、
「大使の重要な役割の一つに赴任国での親善友好活動があります」
そういう公式活動の一環って・・・ものは言いようと言うか、そんなエエ加減な扱いで良いのかと思うけど、国同士の取り決めだって言うから信じるしかない。マンションの光熱費、水道代、通信代モロモロも大使館の維持費用で経費だってか。とりあえずお母ちゃんが喜んでた。
こういう使い放題のクレカを持たせてくれる代わりに日本で大使をやれって話につながるぐらいの理解で良さそうだ。もっともハインリッヒは、
「アーデル・フェルフリシェテットだ」
フランス語でノブレス・オブリージュってやつ。なんか上手いこと乗せられてる気するけどお母ちゃんは、
「まあ、そうなってるで良いじゃない」
気楽すぎるぞ。このクレカの使い方だけど、やはりわかりにくい。エッセンドルフの貴族なら暗黙のルールみたいなものが出来上がってるはずだけど、ユリにわかるはずもないじゃない。そもそも使い放題のクレカなんて存在する方が不思議過ぎる。
この手の物って、使い放題と言いながら、「実は・・・」なんてのが後から出てくるのが定番みたいなもの。ユリが能天気に使ったら、笑い者にされるとか、シッペ返しが来るとかの類の話。とにかく相手は陰険の塊のような貴族連中だ。
そうしたら閃いた。このクレカの使い方というか、使ってる実情を知っている女が日本に一人だけいる。それも身近にだ。誰かって? 言うまでもないお母ちゃんだ。
「ユリのクレカは知らないよ。ユリのクレカは当時は公爵しか持ってないし、当時のカールはマーキスの方の侯爵だもの」
へぇ、マーキスの侯爵でも持てないのか。
「ユリのクレカはブラック・カードだけど・・・」
言われてみれば黒いクレカだけど、黒いのはデザインじゃないのか。
「違うよ。クレカも種類があるじゃない」
それぐらいはユリでも知っている。年会費の高いのがゴールド・カードで、えっと、えっと、その上にプラチナ・カードもあったっけ。見たこと無いけど、
「プラチナの上がブラックだよ。でもユリのはロイヤル・ブラック。カールが持っていたのはタダのブラック」
実質変らないじゃないの。まあいい、その普通のブラック・カードの使われようは、
「使われようと言われても、普通だったよ」
どこが普通だよ。種馬親父と同棲してから下着とかは使い捨てだったって。一日一組としても、一年で三百六十五組も買ってたのか。
「そんなに買ってないよ。百八十組ぐらいかな」
うん? 残りの百八十五日は、
「愛し合ってた」
ギャフン。朝から夜までやってたから服も下着もいらなかったって・・・それしかやってないんかよ。百八十組って大学に行った日のものだとか、
「そんな感じかな。洗濯やってる時間も惜しかったし」
やっぱりサルだ。いやサルだって発情期以外はやらないはずだから、サルを越えたサルだ。でも、そこまでやりまくっていたら、どうやって買ったのよ。
「ああ通販サイトよ。別に勝負下着とかいらなかったし」
ギャフン。それでも恋人同士なら高級レストランとかデートも行くじゃない、
「最初に何回かあったけど、同棲してからは出前とかケータリングばっかり。旅行もなかったし」
色情狂のアホだ。定番のアクセサリーとかは、
「あんなもの付けてやると邪魔よ」
やったことないからわからないけど、経験者が言うから邪魔なのかな。それでもだよ、少しは買ってもらえよな。じゃあ、じゃあ、通学の時の服とか靴は、
「カールとは学部が違ったから、あんまり買い足さなかった。その代わりに、一度着たらクリーニングに出してたかな」
毎回クリーニングはリッチだけど、あんまり贅沢って感じがしないな。つうか単にやるために洗濯時間の省略だものな。でも、そこまでアレしかやってないのなら部屋の掃除とか片づけは、
「家事代行サービスを使ったね。そりゃ、長期休みの後はゴミ屋敷だったもの」
長期休暇は部屋に籠ってやりまくりの青春ってなんだよ。
「若かったからね。起きている間はアレが入ってる時間の方が長い日もあったもの。食事中だって・・・」
そこでストップだ。実の娘に聞かせる話じゃないぐらいはわかれよな。よくそんな状態で飯が食えるものだ。つうか、そこまでやりまくり状態だからゴミ屋敷になるってことだよな。
「ユリが参考になりそうなものは・・・」
なんだって、この部屋は種馬親父が下宿用に買ったものをお母ちゃんが手切れ金代わりにもらったものなのか。当時だって億ぐらいしたんじゃないのかな。でもまぁ、エッセンドルフの公太子だから、これぐらいセキュリティのしっかりしたマンションを買うのはありか。
でもそう思って部屋を見るとまたウンザリ気分が。だってだよ、この部屋でヤリチン種馬とヤリマンビッチがひたすら燃えてたんだよ。お母ちゃんの過去は知れば知るほど、ユリにとってあんまり宜しくない。
「二人の娘じゃない」
それが最高に嫌なんだってば。
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