第十九章 ブリーフィング・表
三上久遠のその後を決める話し合いの場が持たれた翌日。
特班の面々は鐘渡教練校のA-2戦闘訓練区画と銘打たれた場所に集っていた。市街地での屋外戦闘を想定した訓練区画で、いい感じにぼろぼろになったビルなどの廃墟群が立ち並び、壁やアスファルトなどにこびり付いたペイント弾の塗料が歴戦を思わせる。
その訓練区画に幾つかあるブリーフィングルームの一室に特班は勢揃いしていた。
「それで、結局どうなったんですか?」
教官が来るまでの話題は、一昨日の幼女の話だ。
誓約書云々と長嶋に事前に脅されていたので皆その正体や来歴にまでは触れなかったが、これからどうするのかは気になっていたようで、代表としてエリカが口火を切ったのだ。
「どっちかの実家に預けるつもりだったんだが、久遠が大泣きしてなぁ………。結局、俺と小夜が預かることになった。と言っても、四六時中は無理だから、日中は教練校の託児所が面倒見てくれることになったよ」
以前にも記したが、現代社会は人口の少なさから産めよ増やせよが大正義であり、そう言った理由から教育機関である鐘渡教練校にも教職員、生徒共用の託児所がある。
平時の昼間は三上にしても式王子にしても教練があるので身動きができず、その施設のお世話になることにしたのだ。それで放課後や休日の久遠の面倒はこちらで見れる。とは言え、ある意味で個人の時間が無くなったとも言えるので目下、放課後や休日のバイトをどうするかが三上の悩みだったりする。
尚、今回の件で何を思ったのか長嶋が珍しく強権を振りかざして桜山寮周辺のマンションに三上と式王子を引っ越しさせた。この辺り一帯の大地主なのは知っていたが、ぽんとここまで質の高い住居環境をくれるとは思わなかった。3LDKであり、三人で暮らすには十分過ぎる。
と言うより、ここまで優遇されると周囲から要らぬ勘ぐりを受けそうなものだから一度は固辞したのだが、自分達で借りたことにしておきなさいと妙な圧力で押し切られた。
家族は一緒に住まなきゃね、と何故か自嘲気味に言っていたのが印象的だった。そう言えば、武神には娘夫婦がかつていた、と言う話を三上は聞いたことがある。その娘夫婦の娘―――つまり孫娘と、後妻である静流との間に出来た息子が彼の家族構成だと情報の上では知っているのだが、その顔は知らないし、昨日の集まりでも静流は見かけたが他の家人は見かけなかった。
ひょっとしたら、世界を救った男でも密かに家族仲で悩んでいたりするのかも知れない。
「その歳で一児のパパですか。―――不潔ですわね!」
「ぐぅ………!」
しかしそんな心配もリリィの侮蔑の視線で、それどころではなくなった。人の心配より、まず自分の現状を心配すべきである。
何しろ15歳で5歳ぐらいの子供のパパとなったのだ。まぁ、落ち着くまでは戸籍関係は保留にしてあるらしいし―――そんな柔軟な対応が出来る事自体が驚きではあるが、武神パワーは政治力にも通じるのだろう―――おそらく本当の年齢は50歳を超えているのだろうが。
とは言え、だ。その来歴がどうあれ、今の彼女は見てくれ通り5歳の子供で、中身もそれに準じている。
現状を理解しているわけではないようであるし、そもそも三上や式王子を両親と誤認したのも、琉花に曰く親族ということもあって彼女の両親に非常に似ているそうなのだ。俺金髪なんだけど、と三上は突っ込んだが、どうも隆一氏は髪染めしていたらしい。
とは言え別人なのだ。ひょっとしたら、いつか違和感に気づいて三上達を両親と呼ばなくなるかも知れない。そういう可能性を踏まえて戸籍関係は保留にしてある。
「まぁともあれ落ち着いて良かったよ。子供と内縁の嫁さん養うために頑張らないとねぇ………!」
「血涙流しながら言うと凄まじく見苦しいな、班長よ」
童貞力を荒ぶらせる新見に、飛崎は呆れたように突っ込みを入れる。
「しかし模擬戦をやるとは聞いたが、教官はまだか?」
「明里ちゃんは多分、根回しに奔走しているよ。―――ほら、ウチ、特殊だから」
新見は言葉を濁したが、理由は当然エリカである。他国の姫様であるエリカを模擬戦とは言え戦わせるのだ。SPは教練校内にまでは立ち入っていない―――少なくとも表向きには―――事になっているので、そことの折衝がまず手間である。
まぁ、彼等は護衛ではあるが管理者ではない。基本的にエリカの方針にケチを付けることはないし、教練校内では直接手を入れられないのをもどかしく思っている程度なので事前に通告、後は護衛対象の様子を映像で中継してやればそこまで文句は上がらない。
大きな問題があるとすれば、むしろ教練校内だ。
仮にも軍人の卵なのだから基本的に命令には従わなければならない。故に対戦拒否、とまでは行かないが反応が渋い。さもありなん。歩く国際問題に徒に手を出す馬鹿はいない。たまに遠くから盗撮する勇者、もとい、阿呆はいるようだが。
結果として、実践訓練での相手に事欠くぐらいには難儀する。マッチング相手が萎縮して遠慮するようでは訓練にならないし、かと言ってやりすぎれば場合によっては国際問題。
山口が特班専属の権利に拘った理由がよく分かる。たった一つの班にここまで繊細に気を使わなければならないのに、他の受け持ちなどしたくはないだろう。
(だから多分初戦はボーダーを見極めれる相手かな。自前の装備持ち込みの許可も出てるし。冷静沈着を旨とする班長は幾人かいるけれど………こっちには二人もクラスExがいることも考えると、多分―――)
新見が初戦の相手を考察していると、不意に部屋の扉が開いて山口が入室してきた。
「敬礼」
それに反応した新見は意識を切り替えて直立して敬礼。真っ先に飛崎が続き、続いてエリカとリリィ、若干遅れてわたわたしつつ三上と続いた。この辺りの対処速度は経験と場数が物を言うのだろう。
「はい、ごくろーさん。先週末は悪かったね。色々根回しとか必要で顔を出せなかった」
山口も答礼し、適当に陳謝する。
「さて、今日から本格的に異能を使った教練を行っていく。とは言え、お前等は全員既に異能を自覚しているし、ある程度以上に使えるだろう。発動訓練は必要あるまい」
適合者としての目覚めはおおよそ十代前半に起こるが、全員が覚醒と同時に異能を十全に扱えるわけではない。ここには個人差があり、検査で係数が適合者のそれだったとしても、異能の発現がなされていない場合もままある。
一定数の割合で、異能がまだ使えないのに教練校に入学―――と言ったケースもある。そう言った場合、発動訓練を主軸の訓練メニューになるのだが、ここにいる面子は自分の異能を自覚している。尤も、新見は欠陥を抱えていて発動不可だったりする。係数の関係もあって、暫定クラスはBだ。
「まぁ、発動訓練自体は無駄ではないから必要だと思ったら各自でやっておくように。しばらくは、あくまで班を集めて出来る訓練を優先する」
理由こそ明言しないが、まず間違いなくエリカ絡みの事情が理由だ。対JUDAS用に連携能力を養おうという狙いだろう。
全員が全員腹に一物抱えている、とまでは言わないがそれぞれに事情がある。普通に生まれ、普通に成長し、普通に適合者として目覚めて普通に進学した―――そうした一般生徒は特班にいない。勿論それを狙って集められてはいるが、だからこそ一般的な基礎教練は効果が薄い。
個々の戦闘能力は比較的高めではあるし、紆余曲折あったとは言えほぼ全員が既に何らかの鉄火場を経験済みだ。
ならば早急に必要なのは体力作りや戦場での心構え云々ではなく、互いの戦闘様式の確認と折衝と調整―――早い話がチームとしての慣らしになる。
「だから今回の趣旨は実戦形式での教練だ。相手もこちらで用意した」
加えてこの班の特殊性を加味すると、最初に必要になるのは周囲の生徒への情報開示。
特班と言う特殊な班が何を以て集められていて、どこまでがセーフなのかと言う見極め。
しかし、並の班では既に実戦を経験している彼等を相手にボーダーを引き出すことは叶わないだろう。
以上を加味すれば、自ずと対戦相手は絞られる。
即ち。
「戦闘科第一班。鐘渡教練校最優の班がお前達の相手だ」
―――現状の、最大戦力を当てることだ。
●
「予想はしていたけど………のっけから凄まじいのと組まされたなぁ」
模擬戦のレギュレーション説明を終えた山口は、後の作戦は任せると言って出ていった。
どうやら相手も教官からはその程度の説明しか受けられないらしい。班同士の模擬戦は今年度初戦、と言うこともあって注目度も高く、それを利用して特班の―――ひいてはエリカとリリィの―――扱い方を学んで貰おうという目論見があった。
生徒に作戦やら何やらを丸投げにしたのも、その自由度から自分達でボーダーを引け、と言外に告げられているに他ならない。
新見自身、多分そうなるだろうとは思っていたのだがいざ現実になると頭を抱えざるを得ない。
「おい班長。こっちは第一班ってのがどんなのか知らんのだ。憂鬱になってないで、もそっと説明せよ」
だが、その意味を分かっていない新入生達が大半を占める班なのである。やっぱり僕に負担来すぎなのでは、と世の不条理を嘆きつつ新見は部屋のホワイトボードを使って説明を始めた。
「えーっとね、鐘渡教練校には大雑把に3つの兵科があって、それぞれ戦闘科、情報科、工兵技術科―――工技科と別れているんだよ。更にそこからそれぞれ班で別れていくわけ。で、その中で戦闘科の第一班っていうのは全ての科、全ての班のまとめ役になっているんだ」
体力作りを主にした基礎訓練や最低限の護身能力獲得のために戦闘訓練はどの科でも行うが、異能を用いた模擬戦を行うのは戦闘科だけだ。それでも全校生徒の過半数を占めており、その中で主にクラスExで構成される理論上の最優班が第一班となる。
「学生会とは違うのか?」
「学生会は日常生活に於ける相談役とPXの物販と校内で認められているアルバイトの斡旋所と言うか………」
「ふむり。つまり、第一班は生徒会で、学生会は生協にハロワと言った所か」
「よく分かんないけど多分そう」
前世紀の認識で理解を示す飛崎に、新見は曖昧に頷いた。生徒会はともかく生協とハロワって何だろう、とは思ったが何となくそれっぽいニュアンスなので流したのである。
「で、第一班は生徒の顔役というだけあって、能力―――この場合、適合クラスだね。それを念頭に集められるんだ」
前述したように、第一班はクラスExを主軸に構成されている。
とは言え、自然発生率が0.00125%の低確率だ。場合によっては全く出てこない年もあるので、その年はクラスAから選抜して第一班を構成する。因みに今年は当たり年と言われていて、メンバー全員がクラスExだったりする。
「うん?適合クラスがそいつの能力の絶対ではないだろう?」
「どういうことですの?クラスが高ければ、それだけ適合者としての能力は高いでしょう?」
『―――ん?』
不意に疑問符を浮かべた飛崎に、リリィが質問を被せ、二人は互いに首を傾げる。
「あ、二人の言いたいことは分かりますよ。レンは多分、実戦での事を言っていて、リリィは適合者そのもののステータスの事を言っているんでしょう?」
その認識のズレを、エリカが指摘して新見はああそういう事、と手を打った。
「えっとね、コレは卒業後の事を考えているんだ」
基本的に、クラスExと呼ばれる適合者は理外に最も近いと言われている。
ただでさえ物理法則を捻じ曲げている異能ではあるが、理外に至った適合者―――それが振るう異能はその比ではない。
物理現象の変換。
概念の書き換え。
想像の事象具現。
呼び名や比喩表現は幾つもあるが、理外に至ると総じて
結果として、クラスExの適合者というのはいるだけで最大戦力としての価値を、例え理外に至っていなくても見込まれる。無論、クラスの差がそのまま戦闘力の差に繋がるわけではない。瞬間火力が幾ら高かろうが、長期戦に持ち込まれれば不利は否めないし、その逆も然り。
故にこそ、クラスExを基本に集められた第一班は理論上最優の班と呼ばれているのだ。
しかしながら、期待値で語るならばクラスExこそ戦力の中核になり得るのは否定できない。そしてそれを、いつまでも単体戦力として押し込めておくのも非合理的である。当人の性格や適性に左右される部分も大きいが、非常識な力を持つ者に指揮官としての苦労や懊悩を学ばせておくのは非常に重要なことだ。でなければ、クラスExは意思を持つ核兵器と呼んでも過言ではない程の危険性を孕んでいるのだから。
故に、クラスEx適合者は任官と同時に少尉の待遇で迎え入れられる。実際に部下を持つのは半期後になるが、早々に出世していくことになる。立場と階級で柵を作ってそう簡単に無法者にならないように囲むのだ。
立場が人を作るという言葉があるが、あれは科学的な実験でも証明されている。
「成程なぁ。任官後腰掛けもそこそこにいきなり部下を与えられて経験も無くば無駄死にさせかねないから、教練校にいる内に人の使い方を学ぶためにそうした特権を与えていると」
「そうそう。因みに、これは情報科や工技科も一緒。ナンバリングは二班、三班だけど。各々の兵科のまとめ役だね。でも、やっぱり最前線で命を張るわけだから、第一班が顔役になっているって訳」
「うむり。よく分かった。つまり、第一班ってのはエリートの集まりという訳だな」
「身も蓋もない言い方をするとそう。あ、でも能力が高いからって鼻持ちならないってわけじゃないからね?」
「―――違う、のか?」
うむうむと理解を示していた飛崎が、唐突に戸惑ったような表情を浮かべた。
「班長班長。コイツ多分今、天狗になっているようなエリートだったらぶっ潰しても問題ねぇなとか失礼なこと考えていましたよ」
「うん。正治、今のは僕にも分かった」
あっぶねーウチの班員がヒエラルキー最上位にナチュラルに喧嘩売るところだったいや適合クラスはコイツもヒエラルキー最上位だけども………!と新見は冷や汗をダラダラ流しながら、言い含めるようにゆっくりと語る。
「さっきも言ったけど、彼等は言ってしまえば出世が約束された立場だ。だけど、それだけで人ってのはついていかない。恐怖政治で支配すれば、いずれ同じ恐怖政治で潰されるよ」
「―――あぁ、アレか。部活のOBみたいのが卒業してから延々続くのか。どっかの大手自動車会社の学園エスカレーターみたいなの」
「うーんと、前世紀の理解だとそうなの、かな?」
教練校でお山の大将を気取った所で、卒業して任官してしまえばまた下っ端からのスタートだ。多少下駄を履かせて貰ってはいるが、それでも上はいる。しかもこちらを知っている先達が。そんな中でいつものように調子に乗っていれば、後は何を況やである。
それを想像できない、あるいはしないのは、余程の実力者か底なしの馬鹿かのどちらかだろう。
「まぁ、中には空気読まないで選民意識盛り盛りで偉そうにする奴もいるみたいだけど、一週間もすれば大体潰されるなぁ」
「そうなんですか?その手の人って自省とか自戒って言葉を知らないと思うんですけど」
何かその手の輩相手に嫌なことでもあったのか、エリカが珍しく舌鋒鋭いが新見はカラカラと笑って。
「だって問題児をそのまま放置しているだなんて、第一班の醜聞だよ?その時の総代―――第一班班長に部下を扱う能力がないって喧伝しているようなものだから」
面子の問題だよ、と彼は告げる。
まるでヤクザか何かの言い分であるが、これは正しくはある。やんちゃをする馬鹿の鼻っ柱一つ折れない能無しが一組織の最優を名乗れば、全体を無能と見られかねないのだ。実際には違う、とか本当の所は、等と宣った所でそれは単なる言い訳に過ぎない。幾ら理論的であろうと情に訴えようと、ケジメとしての自浄が成されない集団など誰も信用しない。
グダグダ言う前に態度と行動で示せ、と言うのは今も昔も変わらない社会的信用の本質である。
「まぁ、第一班の在り方云々はここまでにしようか。問題は、僕ら特班の訓練相手がそのエリート達って事だね。今年のクラスExの分も含めて情報は集めて来たけど、ウチとは食い合わせが悪いよ」
「あら、班長自ら情報を仕入れてくるとは良い心掛けですわ」
テーブルに置かれたホログラムプロジェクターにPITからデータを飛ばして出力を始める新見に、リリィは珍しく感心したように頷いた。
「二年生が僕しかいないし、僕自身、異能が使えないからね。サポートぐらいしないと」
新見が自嘲してプロジェクターを操作すると、中空にデータが浮き出た。その様子を見て、コレ何度見てもSFしてんなぁ、と昭和生まれが違う所で感心していた。
映し出されるのは、長い黒髪をポニーテールにした眼鏡の少女だ。
「まず、現第一班班長―――つまり鐘渡教練校総代である
「面倒っすね。一人砲兵団みたいなもんか」
近接しか取り柄がない、と自認する三上に取っては相性最悪である。
次に映し出されたのは、ざんばら頭に三白眼と少々とっつきにくい雰囲気がする少年だ。
「次に副班長―――次席、
「ニンジャ!ニンジャですね!?ニンジャは本当にいたんです!!」
日本文化に憧れ抱いているお姫様のテンションが天元突破する。
「ここまでが二年。経験豊富だけど去年一年僕が見てきている分ある程度手の内は知っているから、まぁ、まだ対策の立てようがある。問題は、どっちかって言うと一年かな」
そう言って新見が次に映したのは、頬に傷を持つ少年だった。鋭い猛禽のような眼差しもあって、妙な貫禄がある。
「一年主席、
「ゴ○ゴかよ………」
昭和人間からしてみればフィクションの世界にしかない狙撃能力である。実際にリアルで銃火器に触れてみて、数百メートルの狙撃でもキチンと当てるには複雑な計算が必要になって、人並み以下のセンスしかない自分には非常に難しいと理解した飛崎にとっては、思わず著作権に配慮しない発言をしてしまったとしても仕方ない程にデタラメではあった。
次に映し出されるのは、随分と小さい少女だ。眠たげな眼差しと、澄ました表情が何処か猫を彷彿とさせる。
「一年次席、
「城、ですか………」
リリィの引き攣った表情に、新見はさもありなんと言わざるを得ない。
『幻想侵食』は、国を滅ぼす願望等と言われるほど危険視されている空想具現系の異能だ。実際に、この異能を持つ適合者を異能が遺伝するという根拠で家畜のように繁殖させようとして暴走させ―――滅んだ国がある。比喩でも揶揄でもなく、文字通り一国の国土全域を己ごと火の海にした。
「最後は、まぁ、僕らも面識があるね。昨日、会ったでしょ。あのクオンって幼女にママと呼ばれていた女の子。正治の彼女だね」
最後に映し出されたのは、他の面子も知っている顔だった。
「
「いや流石に至ってませんよ。と言っても、入学試験でレールガン弾いてましたけど」
「リリィ。レールガンて初速がマッハ6よね?」
「流石クラスEx、デタラメですわ………」
しれっと否定する三上の追加情報にエリカとリリィが戦いた。
「さて。ここまで説明して、ウチとの相性の悪さは理解できる?」
その尋ねに、飛崎がはぁーと感嘆して。
「そうさな。城とやらを召喚して、それに立て籠もってひたすら鴨打。乗り込んでこようものなら障壁で弾いて、よしんば乗り込まれても疲弊したところを暗殺者が一撃。―――かってぇなぁ」
「私達殆どが前衛ですからねぇ。取り付く前に狙い撃ちされちゃいそう」
「そもそもこっちは最大火力になり得るクラスExが二人しかいない。まぁ、僕に至っては異能すら使えないから偉そうなこと言えないけど」
つまり、無理せず防御に徹しているだけで仕留め切れるほどに盤石なのである。相手は奇を衒ったことなどする必要もなく、陣地を構築してそれを基軸に仕留めるだけ。派手さはないが、だからこそ堅実で安定している。
さて、それを真正面からこの面子だけで切り崩そうとすると、ウルトラCを幾つも決めなければならない。実戦経験が豊富な飛崎をして、儂なら即座に撤退するか遅滞戦闘で増援を待つな、と呟いたぐらいだ。新見も異論はない。と言うよりも、実戦でこんな状況になったら真っ先に撤退を提案することだろう。
とは言え今回のこれは模擬戦で、撤退も降伏も認められない。教練校全体でエリカとリリィへの今後の立ち位置を決める、という裏の目的もある。
「で、ここで相談。普通に戦えば順当に負けるよね。模擬戦だし、それは別にいいんだけれども―――逆に、模擬戦だから犠牲前提の戦術は取れるんだよね」
チェスで言うならば
命をベットに、最大限の戦果を求めなければならない戦場は、必ずある。
指揮官適正はあまりない、と自覚する新見でさえそれぐらいのことは心得ている。
「どうする?鐘渡教練校最優と謳われる班に、噛み付いてみる?」
故にこそ、新見は悪戯小僧のように笑ってみせた。
下馬評を覆す勇気はあるか、と。
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