第4話「町」


 あれから特に何もなく、川の流れ通り歩いて行くと木の柵で囲われた町を発見した。

 それほど大きくもなくが村ほど小さくもない。基本木材が使われている民家が目に付く。

 柵の入り口らしき所に近づく。見張りなんかの人は見当たらない。


 「・・・ツレーシャース(小声)」


 不用心さに少し不安になりながらも、キョロキョロしつつ柵の内側へと入る。特に止められるような事もなく入れたので、そのまま道なりに進む。

 おおう、人や。人がおるぅ。

 初めて人間を見た事に感動しながら、様子を見ていく。

 普通に何人かとすれ違い、遠目にも確認出来る当たり、人口はそこそこ多いっぽい。

 さて、まずは寝る所を確保したい所だが、如何いかんせん金が無い。

 となれば、やはり


 「冒険者登録っしょ」


 頭にある知識を頼りにそれらしき建物を探す。


 「お、これだな」


 石と鉄で装飾された、漆塗りの木製の2階建ての建物。民家よりも2倍程大きいそれの扉の中央には剣と盾と星のシンボルが飾られている。冒険者ギルドの証だ。

 ちょっとドキドキしながら足を踏み入れる。きっとテンプレの如くモヒカンもしくわハゲ頭の荒くれ者達がガンを飛ばしながらちょっかいを掛けてくるに違いない!

 そんな俺の期待を裏切り。扉を開け目に入ったのは奥のカウンター席で、やる気の無さそうに頬杖をついているひげの生えたおっさんが一人いるだけだった。・・・俺のワクテカを返せや。


 「ん?なんだぁ?依頼かぁ?」

 「・・・ちげーっす」


 明らかにテンションサゲサゲな俺の顔を覗き込んでくる。


 「見ねぇ顔だな」

 「あ、今日来たっス。登録いいすか」

 「あん?登録ぅ?・・・旅人かぁん?」


 明らかに怪しげな視線を向けてくる。


 「・・・色々あるんだよ。登録できないのか?」

 「そら出来るがよ・・・まぁいいか」


 投げやりな態度で引き出しを漁りながら言う。


 「んじゃ銅貨20枚な」

 「あ、ッスー・・・その、今は持ち合わせが無いというかなんというか」

 「あぁ!?無いだぁ!?」

 「いや待て落ち着け早まるなおっさん。そうだ、先に魔物の素材を換金してくれ」


 そう言い、ポケットに手を突っ込みながらガチャ画面でシルバーウルフの牙を使用し、あたかもポケットから出した様に見せた。


 「換金?そりゃ良いが・・・未登録は2割の手数料がかかるぞ?」

 「うぐ・・・わかった」


 背に腹は変えられない。


 「シルバーウルフの牙か・・・パッと見これといった欠けもないし、2個セットで銅貨20枚ってとこだな」

 「お、じゃあそれで登録料を」

 「こっから2割減だからな。18枚だ」

 「・・・まーじで?」


 参った。どうするか。


 「あー。ゴブリンの耳とか・・・」

 「ゴブリン?討伐依頼クエストは常時出てるから数さえありゃ報酬は出るがぁ、依頼クエストだからな、登録した冒険者じゃなきゃそもそも受けれねぇ」

 「えーそこをなんとか」


 手を合わせたり特に拝んだりすることもなく頼み込む。いやマジでなんとかしてくれ。


 「なんとかって、あのなぁ・・・そもそもゴブリンの耳いくつ持ってるんだ?まさか干からびた奴を2,3枚とか言うんじゃあ」

 「これだ」


 もう片方のポッケから葉に包まれた耳の束を出す。

 

 「・・・おめぇ、これはどこで手にいれた」

 「あ?あー近くの川を辿った先の湖の辺りだ」


 うち1匹はチュートリアルの、この世界と言っても良いか怪しいとこのだが、別に良いだろう。てか知らね。


 「そうか・・・」

 「?で、金に変えてくれるのか?」

 「あぁそうだな。ゴブリンの耳はそもそも依頼クエストで10匹討伐に付き銅貨10枚だ。でまぁ本来なら依頼クエストの報酬だからな、特別にこいつも2割減で、登録料に立て替えてやる」

 「おお!話がわっかるぅ!」

 「じゃあ牙の分18枚も合わせて、計銅貨6枚と登録料ってことで良いか?」

 「おう!」


 引き出しから1枚の紙を出してきた。

 

 「じゃあそら、これに登録内容を書きな」


 見ると、「虚偽申請は一律罰則」という言葉と、名前、年齢、レベル、年齢、特技等を書く欄があった。なんか・・・アナログなんだな。というかこの知識は頭にないのか・・・冒険者なら全員通る事なんじゃないの?普通皆知ってることなんじゃないの?アレか、平均的に皆忘れてるのか。てか、名前ねぇ。痛っ

 こめかみを押さえながら書いていく。

 歳は17、レベルは8,特技はー・・・とりま書いとくか。剣、槍、斧、弓っと。

 名前はーそうだな・・・頭いてぇ、ガチャ、ガチ、チヤ・・・ガヤでいっか。

 書き上げて紙を出した。


 「ガヤか・・・ん?おいおいこれはなんの冗談だ?」


 紙を指さしながらおっさんが言う。


 「なんだ?字が小さくて読めねぇのか?老眼?」

 「誰が老眼だ!!そうじゃなくてレベルだっ!レ・ベ・ル!!」


 8レベルと書いた所を何度も指で叩く。


 「レベル8なんてどういうことだ?」

 「どうって・・・あ」


 しまった。すっかり忘れていた。


 「あー・・・いろいろあるんだよ・・・」

 「いろいろってなんだ」

 「聞くも涙語るも涙なあーだこーだ」

 「あのなぁ」


 簡単には言葉にできない複雑で悲痛な過去がある系主人公の愁い顔をして見たが、全然効かない。ナゼニ?


 「そもそも10レベル無いと冒険者にゃあ登録できねぇぞ」

 「え」


 そんな話は聞いてない。知識にも入ってない。え?詰んだ?


 「そこをなんとか」

 「ならねぇって、規則だ」

 「うっそーん」


 ハイ詰んだ~。終わりだよ終わり。こんな序盤で躓くクソファンタジーとかありえねぇって。今どき流行んねぇ~よ、はいしゅーりょー。


 「・・・まぁおめぇならすぐ上げれんだろ。これは預かっておいてやるから、明日の朝にでも行ってパパット上げてこいよ」

 「え?あー・・・ここの町の宿屋って一泊大体いくら?」

 「宿?3つ隣のグレスの野郎のとこなら銀貨2枚だが」


 因みにこの世界の貨幣価値としては、およそ次の通りだ。


半銅貨:十円

銅貨:百円

銀貨:千円

大銀貨:一万円

金貨:十万円


 くらいだ。まぁ、物価も全然も違うから大体だが。

 なので実質銅貨20枚と。


 「・・・ありがたいんだが・・・さっきも行ったように持ち合わせが無くてな・・・」

 「なんだ?宿無しかぁ?ちっと待ってな」


 おっさんはそう言うと、席を立ち奥に何かを探しに行った。


 「あったあった。ホラよここの2階の貸し部屋の鍵だ」

 「いいのか?」

 「おう。明日になったら登録するんだろう?1日寝泊まるくらい貸してやらぁ」

 「ッ!」


 これが田舎特有の人の暖かさってヤツが。目から汗が。


 「感謝の極み。この恩は寝るまで忘れないぜ」

 「起きたら忘れるんかい・・・」


 しかもなんだかんだ突っ込んでくれる。このおっさん良い奴だな。


 「いや、まじでありがとう。友好の印としてヒゲじいのあだ名をやろう」

 「余計なお世話だ!!」

























 「ふー」


 硬いベッドで横になる。

 アレからおっさんといろいろ話してこの町について教えてもらった。

 まずこの町の名前は『ゲルム』というらしい。ティラーニア王国の東寄りの地方『ツトグィア領』の辺境の町で周辺の村の中心らしい。

 まぁ田舎だ。田舎らしく冒険者の元々の数とその中心になっている村々に人を派遣している状態だから、ここのギルドは割といつもあんなにガラーンとしているらしい。

 そんな情報を集めおっさんと話し(という名のからかい)ていると、夕日も照り始めおっさんに「俺は帰るからもうすっこめ!」と言われてしまった。因みに「ヒゲじい」というあだ名は死んでも嫌だと断られてしまった。ちぇ。



スキル「ガチャ」

『ポイント』

ガチャポイント:7p

売却ポイント:150p

『手持ち』

・N 布の装備

・N ショートソード

・N 解体用ナイフ

・HN 水入り革袋

・N 回復薬×3

・UC 緑葉薬草

・HN 草刈鎌

・C 葉っぱ×2

・UC 水

・N 水 

・C ハンテンダケ

・N 陶器の碗

・C 木の枝

・UC 木製のフォーク

・HN テゴスタランチュラの糸


 固く碌な味もしない黒パンを齧りなから画面を眺める。


 「何をするにもまず金がねぇんだよなぁ」


 冒険者登録を保留にしてもらっている代わりに、素材も銅貨も全部渡している状態になっている。登録と同時に銅貨6枚が手に入る事になるわけだが、宿代には遠く及ばず、黒パンと水くらいしか買えない。現に無一文である。


 「ゴブリンか何かを狩りに行くのは決定として、次いでになんか金になる物も探さんとなぁ」


『交換所』 所持ポイント:150p

・「ガチャポイント1p」:10p

・「強化限界突破」:200p

・「手持ち限界数+5」:5p

・HN「クレイモア」:25p

・UC「水」:2p

・R+「メテオリザードの結晶鱗」:70p

・SSR「王剣・エクスカリバー」1200p


 一応、最悪ポイント交換でメテオリザードの鱗を換金する手もあるにはあるが、交換できて2枚。しかもポイントの殆どを使い切る。

 鱗が幾らになるかわからないのもあるが、何よりこの『ポイント』。やはり易易と使いたくはない。この交換は「確定で目的のモノが手に入る」のだ。今のラインナップがあまりそう感じさせないだけで、この先もっと良いものが出てくる場合もある。


 「最悪の場合交換するしかないんだけどな」


 まぁ明日の探索次第だろう。


『葉っぱ』

レアリティ:C

木のあるとこに落ちてる葉っぱ。

・特に湿ったりはしていないので火種にはなる。

→使用

→強化

→売却


→強化(ポチ)


 そして、手持ち画面から葉っぱを強化してみる。

 実は気になっていたのだ、布の装備は耐久性が上がった。では石ころは?葉っぱは?装備ではなく、素材系はどうなるのか。

 同じ物が2つ以上無いと出来ないので出来る物から試していこう。そう思えば石ころも2つは残しておくべきだったか・・・やっぱ凸システムってクソだわ。


『強化』

強化元と同じ物を選択して下さい。

強化元:「葉っぱ」強化0/1

強化消費↓

・葉っぱ


 そして強化した結果!


『葉っぱを強化した』

品質、耐久力が上昇した。洗浄された。

このアイテムは強化限界です。


 大きくなっただけやんけ!!そしてやっぱ耐久性か!

 拳大だった大きさの葉っぱは、手のひらサイズまで広くなった。えー。

 しかし、一点気になることが。


 「洗浄か・・・」


 この葉っぱは元々ゴブリンの耳を包んでいたものだった。必然ゴブリンの緑色の体液で汚れていた。しかしそれがきれいさっぱりなくなっていたのだ。これは新たな発見だ。一応覚えておこう。


 「しかし大きくなっただけかー」


 何か別の葉っぱになったりしないかと思ったが残念。次だ。


『回復薬』

レアリティ:N

治癒効果のあるポーション。品質:普

→使用

→売却


 あ、これは強化できないのね。

 革袋から水を飲みながら「水」の画面を見る。


 「これUCにしか強化ねぇな」


 つまりこれ、UCの水を強化するとNの水になるのでは?

 試してみても良いが、水はちょっと消費したくないな。ちょうど革袋の中の分もきれたとこだ。


『水』

レアリティ:N

浄水。不純物が少なく、十分なマナも含んだ品質の良い水。

量:10リットル 品質:良

・きちんと処理されたものと同レベルの水。

→使用

→売却


 革袋に補充しようと、水を使用する。と


 「うおおっとっとっと!!!!」


 いきなり何もないところから透明な液体が現れ流れ落ちる。

 慌ててもう一度使用を押す。虚空から流れ落ちる液体は止まった。

 やはり水だった。どうやらそのまんま「水」が出るらしい。個人的には樽かなにかに入った状態で現れるのを連想していたのでびっくりだ。


 「えーと」


 少し考え、手のひらを革袋の口にかざす。そして水を再び使用。


 ジョボボボ


 おー。うまくいった。

 基本的に「顕現」は「触れている」か「近く」の条件さえ満たしていれば、現れ方はイメージ通りに調節出来る。


 「・・・で、どうすんのこれ」


 びしょ濡れになった床を見つめぼやいた。

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