第253話:カサンドラの狙い
俺がみんなのことを、エリクがカサンドラとの関係について話した後。
「アリウスは5人も妻を娶って、結局は只の女好きかと思っていたが。おまえなりの想いがあるようだな。
私としてはアリウスが只の女好きだった方が助かったがな」
カサンドラがニヤリと笑う。
「ところで、バーン。おまえは結婚する気はないのか?」
いきなり話を振られて、バーンは酒を吹き出しそうになる。
カサンドラは今日は徹底的にバーンを
「カサンドラ姉貴、なんで俺の話が出るんだよ? 俺は結婚なんて、考えたことがないぜ」
「別におかしな話でもなかろう。バーン、おまえが皇帝になるなら、妻を娶り子を作ることは義務だ。
おまえも皇族なのだから、これまでも縁談の話など幾らでもあった筈だが?」
「そういう話は全部断ったぜ。結婚する気がなかったからな。俺は女の相手よりも、剣を振る方が好きなんだよ」
バーンは学院時代からモテて、女子の扱いにも慣れていたけど。考えてみれば、バーンが誰かと付き合っているなんて話は聞いたことがないな。
カサンドラは訝しそうな顔をする。
「バーン。一応、訊くが。おまえは女ではなく、男に興味があるのか? そうなると、おまえが皇帝になることに支障が出るぞ」
「カサンドラ姉貴、馬鹿なことは言わないでくれよ! 俺はノーマルだぜ!」
バーンが俺とエリクの顔を見る。いや、俺は別に疑っていないからな。
もしかして、バーンは昔の俺と同類なのか? そんなことを考えていると。
「バーン、むきになるな。軽い冗談だ。おまえが侍女のメイアと男と女の関係にあることは、調べがついている」
「……!」
バーンは図星らしく、言葉を詰まらせる。なんかカサンドラの掌の上で、踊らされた感じだな。
「バーンが皇帝になるなら、有力者の娘と政略結婚をした方が有利だが。結局のところ、おまえが決めることだからな。身分については目を瞑ろう。
だが色恋沙汰で、皇族としての責任を放棄するような真似はするな」
カサンドラが釘を刺す。だけど俺としては、バーンが好きな奴のために、皇帝になることを辞めても構わないと思う。
それも含めてバーンが自分で決めたことなら、俺は応援するよ。
バーンは黙り込む。まあ、今日はいきなり色々な話が出たからな。バーンが悩んでも仕方ないだろう。
そんなバーンを余所に、カサンドラは唐突に話題を変える。
「さて、そろそろ本題に入ろうか。アリウス、おまえは新たな勇者とブリスデン聖王国について、どこまで知っている?」
カサンドラは獰猛な野獣のような目で俺を見る。カサンドラの意図を測りかねて、俺はエリクに視線を送る。
勇者フレッドとブリスデン聖王国の情報はエリクと共有しているけど。エリクがカサンドラにどこまで話しているか解らないからな。
「この件については、私はエリクから何も聞いておらぬぞ」
エリクが何か応える前に、俺の意図を察したカサンドラが言う。
「エリクは、訊けば大抵のことは教えてくれるが。アリウスが関わることについては口が堅くてな。
逆に言えば、エリクが私に教えないということは、アリウスが関わっているということであろう?」
俺は口止めしていないけど。エリクは俺のことを考えて、カサンドラには黙っていてくれたようだな。
フレッドのことは、そこまで隠すようなことじゃないし。ブリスデン聖王国の狙いはまだ解らない。
だけど王弟ジョセフ公爵が、
同盟国とは、ロナウディア王国とグランブレイド帝国のことだからな。
ジョセフ公爵がどこまで本気か解らないけど。グランブレイド帝国を標的すると
それを良い口実にして、カサンドラの方から戦争を仕掛けかねないからな。
「カサンドラさん。じゃあ、今の時点で解っていることを話すよ」
俺がカサンドラに話したのは、フレッドが勇者のスキルを成長させるために鍛練をしていること。
フレッドが勇者として優秀で、短期間で勇者のスキルを成長させたこと。
勇者のスキルがどこまで成長するかは解らないけど、初代勇者は勇者アベルよりも強力なスキルが使えたこと。
そしてブリスデン聖王国はいつでもフレッドを切れるように、聖王国と直接関わりのない戦力しか与えていないことだ。
「カサンドラさん。ブリスデン聖王国は勇者に関して、いまだに沈黙しているけど。
「その情報は私も掴んでいる。だがどう考えても、ブリスデン聖王国の行動は解せんな。
勇者を抱え込んで、主導権を握ったのだから。普通に考えれば、他国を巻き込むように動くだろう。
だが初めから勇者を切ることを考えるなど。ブリスデン聖王国は、勇者を使って何をしようとしているのだ?」
「フレッドには魔王を討ち滅ぼせと命じたけど。具体的な話はまだ出ていないらしい」
ブリスデン聖王国が本当にグランブレイド帝国を標的にするなら、当事者のカサンドラやバーンに情報を伝えるべきだろう。
だけどブリスデン聖王国に、
だからジョセフ公爵の言葉だけで、二人に伝えるのは時期尚早だと思う。
「魔王を討ち滅ぼせだと? ブリスデン聖王国の奴らも、魔王アラニスの実力くらい解っているだろう。勇者のスキルが成長した程度で魔王に勝てると思っているのか?」
カサンドラは呆れた顔をする。
「だが魔王を滅ぼすというのがブラフで、別の狙いがあるなら解らんでもない。例えば同盟国であるロナウディア王国やグランブレイド帝国
その可能性は俺とエリクも考えている。
だけどブリスデン聖王国からの距離を考えれば、狙われる可能性が高いのは、ロナウディア王国の方だろう。
「なあ、アリウス。おまえはブリスデン聖王国の奴らが勇者を使って、ロナウディア王国やグランブレイド帝国を標的にするという話は聞いていないのか?」
ここで否定すれば、カサンドラに嘘をつくことになる。
俺は嘘が上手い方じゃないし。今後のカサンドラとの関係を考えれば、ここは
「カサンドラさん、悪いけどそれは言えないよ」
「言えんだと? アリウス、それは肯定したのと同じではないかれ」
「いや、同じじゃないよ。俺が肯定したら、カサンドラさんは情報源を訊くだろう? 俺が教えなくても、自分で情報源になった奴を探す筈だ。
そいつを確保すれば、ブリスデン聖王国に戦争を仕掛ける大義名分になるかも知れないからな」
カサンドラは俺の言葉を黙って聞いている。
「カサンドラさんには、
ブリスデン聖王国が、ロナウディア王国やグランブレイド帝国を標的にするなら。俺は戦争が始まる前に潰すつもりだよ」
勇者のスキルをフレッドに使わせて、大量殺人をさせるつもりはないし。ブリスデン聖王国の大半の奴は、罪のない一般人だからな。戦争なんてさせるつもりはない。
「アリウス。おまえは勇者フレッドと元々親しい訳ではないのだろう? 赤の他人を守るために戦争を止めるなどと、おまえは甘い奴だな。
そんな甘い考えの奴に、誰も救える筈がない――アリウス、おまえ以外ならな」
カサンドラは面白がるように笑う。
「アリウスには甘い考えを貫くだけの力がある。だからおまえが、わがままを通すと言うのなら。私も従うしかないな」
「カサンドラさん。それって、カサンドラさんからは、ブリスデン聖王国に戦争を仕掛けるないってことで良いんだよな?」
「ああ、そういうことだ。だがアリウス、おまえは誤解しているようだが。私は戦争が好きな訳ではない。戦争という
確かに戦争も外交手段の1つだけど。カサンドラのやり方は、外交と言うには過激過ぎると思う。
まあ、俺としてはカサンドラが納得したなら問題ないけど。
「だがな、アリウス。ブリスデン聖王国を潰すときは、私も混ぜろ。私は偽善者どもが集まって作ったあの国が嫌いなんだ」
「カサンドラさんは、戦争が好きじゃないんじゃなかったのか?」
「ああ。だがそれ以上に、私はブリスデン聖王国とジョセフ・バトラーという男が嫌いだからな」
カサンドラは獰猛な笑みを浮かべて言った。
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