番外編:※過去※こういうのも悪くない


 バーン、シリウス、アリシアが『飛行魔法フライ』で水中を移動する。

 水の抵抗はあるけど、泳ぐ必要がないから。『飛行魔法』は水中で戦闘するには、実は必須の魔法だ。『水中呼吸ウオーターブレッシング』も発動しているから、溺れる心配もない。


 水着姿のバーンはナイフを、シリウスとアリシアは短剣を持っている。バーンは大物を狙うと言っていたけど。そんなナイフで倒せるのか?

 俺は『索敵サーチ』で周囲の魔物モンスターを全部把握している。特に強い魔物はいないから、俺は引率の教師モードで。何もしなくても、問題ないだろう。


「見つけた……」


 最初に動いたのはシリウスだ。前方にいる魚型の魔物を見つけて、近づいて行く。

 黒い鱗に覆われた体長2mほどの魔物はキラーフィッシュ。鋭い牙を持つ10レベルの魔物だけど、今のシリウスなら問題ないだろう。


 シリウスはキラーフィッシュに近づきながら、短剣に魔力を込める。

 シンプルな造りで飾りっ気のない短剣は高難易度ハイクラスダンジョン『竜の王宮』産のマジックアイテムで。魔力を込めると青い光の刃が出現する。


 魔力を上手く操作できないと、真面な刃ができないけど。シリウスは長剣並みの長い光の刃を出現させた。魔力操作の基本が、キチンとできているってことだ。


 シリウスに気づいたキラーフィッシュが、巨大な口を開けて襲い掛かって来る。

 だけどシリウスは冷静にキラーフィッシュを躱しながら、擦れ違いざまに刃を叩き込んで。キラーフィッシュを横に真っ二つにした。


「アリウス兄さん、やったよ!」


「ああ。シリウス、良い動きだな」


「次は私の番よ!」


 アリシアは獲物を見つけて、海の底へと潜っていく。

 海中の砂の上を歩いているのは、巨大な鋏を持つ3mクラスの蟹型の魔物。名前はまんまラージクラブだ。

 こいつは12レベルで力が強い上に、甲羅の硬さは鉄板並み。巨大な鋏で人間の身体くらい簡単に真っ二つにするけど、アリシアなら問題ないな。


 アリシアはラージクラブの頭上から近づいていくと。魔力の青い光の刃を伸ばして、ラージクラブを一撃で縦に真っ二つにした。


「アリシアも、良くやったな。2人とも魔力操作の基本ができている。キチンと鍛錬しているみたいだな」


「うん。アリウスお兄ちゃんに言われたように、真面目に鍛錬しているから。これくらいは普通にできるわ」


「そうだよ。アリウス兄さんに貰った短剣で、毎日練習しているからね」


 アリシアとシリウスが嬉しそうだ。さてと、次はバーンだな。


「バーン。おまえにも武器を貸してやろうか?」


「いや、問題ないぜ。まあ、親友。見ていてくれよ」


 バーンは海中を1人で先行して、近づいて来る魔物をナイフで次々と仕留めて行く。進行方向にいるのは、バーンが宣言した通りの大型の魔物。5つの頭を持つ巨大な蛇型の魔物シーヒドラだ。


 出会った頃のバーンは高いステータスに胡坐を掻いて、力任せに攻撃していたけど。自分の欠点に気づいたバーンは、真面目に鍛錬するようになって。今なら戦いを安心して見ていられる。


 バーンはシーヒドラの5本の首が繰り出す攻撃を躱しながら、ナイフで切り付ける。

 シリウスとアリシアの短剣のように、魔力の刃が伸びる訳じゃないけど。バーンが魔力を込めたナイフは威力があるから、シーヒドラの肉を抉るように砕いていく。

 結局バーンは無傷のまま、ナイフ1本でシーヒドラを仕留めた。


「バーン、有言実行だな。おまえも強くなったよな」


「親友にそう言って貰えると嬉しいぜ。だけど俺なんて、まだまだだろう」


 バーンが白い歯を見せて笑う。

 

「アリウス兄さんは戦わないの?」


「私はアリウスお兄ちゃんが戦うところを見たいわ」


「俺も親友が戦っているところを見たいぜ」


 別に良いところを見せようとか、全然思わないけど。シリウスとアリシアに俺が戦っているところを見せる機会なんて、滅多にないからな。


「解ったよ。だけど魔物を乱獲するつもりはないから。倒すのは1体だけだからな」


 俺は『絶対防壁アブソリュートシールド』を周囲に展開して、3人を包み込むと。『絶対防壁』ごと移動する。

 半径5km以上ある俺の『索敵』の効果範囲に、強い魔物がいないことは解っているから。それなりに・・・・・強い魔物を探すためだ。


 音速を超える速度で、周りの魚や魔物を躱しながら移動していると。直ぐに大きな魔力を持つ魔物を発見した。


 深い海中を突き進んでいるのは、巨大な角を持つ体長10mクラスの鯨の魔物ユニコーンホエールだ。

 ユニコーンホエールは巨大な身体で突進して、角を船に突き刺して沈めることで知られる魔物で。商船なんかがユニコーンホエールに襲われたら、運が悪かったと諦めるしかない。


「凄い……大きな魔物だね」


「アリウスお兄ちゃん……大丈夫なの?」


 シリウスとアリシアが心配そうな顔をするけど。


「シリウス、アリシア、心配するなよ。親友なら、全然問題ないぜ」


 何故かバーンが自慢げに言う。まあ、その通りだけど。おまえが言うなよ。


 俺は自分だけ『絶対防壁』から出て、ユニコーンホエールとの距離を一瞬で詰める。

 『収納庫ストレージ』から2本の剣を取り出すと、ユニコーンホエールが反応できない速度で一閃する。


 ユニコーンホエールの巨体に、頭から尻尾まで2本の線が入って。3つに分かれて、まるで魚の3枚おろしのような状態になった。

 まあ、3枚おろしは頭まで3枚にしないし。ユニコーンホエールは魚じゃなくて、鯨の魔物だけどな。


「「凄い……」」


 もっと綺麗に仕留める方法もあるけど。普段の俺の戦い方を見せた方が良いと思って、普通に剣で切った。


「親友は相変わらず、やることが派手だぜ」


 バーンはヨルダン公爵の襲撃を受けたときに、俺がドラゴンを真っ二つにしたところを見ているから驚かない。


「とりあえず、これくらいにして。そろそろみんなのところに戻るか」


 俺はユニコーンホエールと、3人が仕留めた魔物を『収納庫』に回収すると。みんながいるビーチに戻った。


※ ※ ※ ※


 その後は、みんなでバーベキューをした。

 シリウスが仕留めたキラーフィッシュと、アリシアが仕留めたラージクラブは食べられるから。せっかくだからと、他の食材と一緒に焼いて食べることにする。


 シーヒドラとユニコーンホエールの肉も食べられるけど。キラーフィッシュとラージクラブだけでも、デカ過ぎて食い切れないし。今回はシリウスとアリシアの戦果を披露するだけで、十分だろう。

 シーヒドラは、後で素材として冒険者ギルドに売却して。バーンに代金を渡すとするか。


「ちょっと目を離した隙に、魔物を倒して来るなんて。アリウスらしいわね」


 ミリアが呆れた顔をする。まあ、俺は3人に付き合ったんだけど。言訳しても意味がないからな。


「魔物を倒しに行くなら、私も誘ってくれれば良いのに」


 ジェシカがちょっと拗ねた顔をする。


「じゃあ、ジェシカ。あとで一緒に行くか?」


「本当! アリウス、嬉しいわ!」


「だったら、私たちも一緒に行って構わないわよね。その後はみんなで買物に行かない?」


 エリスがみんなを誘う。まあ、ここにいるメンバーは全員戦えるし。女子は買い物が好きだからな。誰も反対しない。


「俺はベリタスのダンジョンにも行ってみたいぜ。半分水没しているダンジョンって話だ。なあ、明日はみんなでダンジョンに繰り出さないか?」


 バーンの言葉に、シリウスとアリシアが目を輝かせる。俺たちが出掛けると、結局こういう話になるよな。

 だけど最難関トップクラスダンジョンで、ギリギリの戦い続けるのとはまた違って。みんなと一緒にダンジョンを攻略するのも楽しい。


「今日のアリウスは、楽しそうですね」


 ソフィアが優しく微笑んでいる。


「ああ。みんなと過ごすのは楽しいよ」


 魔王アラニスと同じ強さまで辿り着くために。俺は最難関ダンジョンの攻略を続けているけど。

 たまには、こういうのも悪くないな。


―――――――――――――――――――


とりあえず、過去の話はここまでにして。次回から本編に戻ります。


ここまで読んでくれて、ありとうございます。

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書籍版の方はマイクロマガジン社様より発売予定。

イラストレーターはParum先生です。


アリウスのデザインは近況ノートとTwitterに載せています。

https://kakuyomu.jp/users/okamura-toyozou/news/16817330660746918394

https://twitter.com/TOYOZO_OKAMURA

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