第56話:エリクの実力


 それから1時間ほどして、外が騒がしくなる。

 500人ほどの襲撃者たちが、別荘を取り囲んでいた。


 騎士は20人ほどで、残りは傭兵や冒険者崩れって感じだ。

 三大公爵家の1つであるヨルダン公爵家もエリクに追い詰められて、手元に残った騎士は20人しかいないってことだな。


「どうやら私はエリク殿下を侮っていたようだな。破格の報酬を払って掻き集めた『掃除屋スイーパー』たちが、こうもアッサリ倒されるとはな」


 金色の髪と口髭を整えた40代半ばのイケメン。豪奢なフルプレートと宝石が散りばめられた長剣。現ヨルダン公爵家当主、ビクトル・ヨルダンだ。


「僕に言わせて貰えば、ヨルダン公爵は脇が甘いんだよ。喧嘩を売るなら相手に一切悟らせない完璧な策を講じるか、そうでなければ初めから全力で叩き潰すべきだね」


 エリクは無防備に城壁の上に立つ。完全にヨルダン公爵を挑発しているよな。

 まあ、ヨルダン公爵が何かしたところで、諜報部の連中が対策済みだけどな。


 ちなみに防御魔法と反撃魔法カウンターマジックが計12回発動済みだ。今攻撃したらエリクは無事で、攻撃した奴は確実に死ぬからな。


「私もエリク殿下の恐ろしさがようやく解った気がするな。さすがはアルベルト陛下の嫡子だ。陛下に良く似ている」


 ヨルダン公爵は一瞬だけ懐かしむような笑みを浮かべる。

 だけど直ぐに真顔になって、エリクを睨みつけた。


「だが、私はまだ終わりじゃない。エリク殿下……いや、エリク! 貴様だけはヨルダン公爵家とともに滅んで貰おう!」


 襲撃者たちが魔法を放つ。『火焔球ファイヤーボール』と『雷撃ライトニングボルト』の集中砲火。狙いは城門だ。

 まあ、『流星雨メテオレイン』が使える魔術士も暗殺者もいなくなったからな。正攻法で攻めるしかないよな。


 だけどエリクも当然対策しているからな。多重発動した防御魔法が攻撃魔法を完璧に防ぐ。


「オスカー、騎士団の指揮は君に任せるよ」


 エリクが指示をしたのは、ダンジョン実習のときに引率役の教師に成り済ましていたオスカーだ。


「エリク殿下、承知しました――全員抜刀! これより殿下に楯突く反逆者たちを殲滅する!」


 白銀の鎧を纏う騎士たちが一斉に城壁から飛び降りる。

 襲撃者たちの只中に降り立つと、1人1人が縦横無尽に襲撃者たちを切り捨てながら突き進んでいく。


「でしたら、露払いは我々にお任せください。アリウス卿のおかげで働く機会がありませんでしたので、皆退屈しているんですよ」


 『認識阻害アンチパーセプション』と『透明化インビジブル』を解除して姿を現したのは、灰色の髪をオールバックにした20代後半の男。

 王国諜報部第3課課長レオン・グラハム。ダリウスの腹心の部下だ。


「ああ、レオン。君の好きにしてくれて構わないよ」


「了解しました――魔術士と50レベル以上の標的を全て2分でクリアしろ」


『『『『『了解!』』』』』


 レオンが命令した瞬間。諜報部の連中は『認識阻害』と『透明化』を発動したまま、魔法の一斉射撃を始める。

 集約した魔力の塊を高速で放って、標的を確実に仕留めていく。


 キッチリ2分で一斉射撃が止むと、魔術士と50レベル以上の襲撃者たちは全滅していた。


「エリク……貴様はどこまで……」


 ヨルダン公爵が怒りに唇を噛み締める。あとはレベルが低い奴だけだからな。全員100レベル超のエリクの騎士たちの敵じゃないよ。

 敗戦濃厚と悟って逃げ出す奴らが続出したけど。諜報部が魔法の壁で退路を塞いで、ピンポイントで確実に仕留めた。


「さすがはエリク殿下だ。部下の腕も半端ないな」


 バーンが感心している。戦いの様子を見たいと言うから連れてきたんだよ。俺が『絶対防壁アブソリュートシールド』を展開しているから問題ないからな。

 いや、リスクを考えれば当然別荘の中にいた方が良いけど。みんなもヨルダン公爵の件に巻き込まれたんだからな。結末を見る権利があると思ったんだよ。


「エリク殿下、完璧な勝利ですね。おめでとうございます」


 ソフィアが毅然とした態度で笑みを浮かべる。ソフィアも来たいって言うから、一緒に連れた来たんだよ。

 

「ソフィア、ありがとう。だけどちょっと気が早いんじゃないかな。まだ戦いは終わっていないよ」


「いいえ、エリク殿下。戦いの大局は決まりましたから、殿下の勝利は確実です」


「なるほど。ソフィアも戦局の見極めができるようになったようだね」


 エリクはいつもの爽やかな笑みを返す。

 エリクとソフィアは婚約者だけど、お互いが政略結婚だと認識している。

 だけどソフィアは籠の中の鳥になりたくないから、エリクの役に立つ存在になりたいんだろうな。


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る