第54話:俺のやり方


 朝日の中で、魔力で負荷を掛けながら身体を動かす。

 朝の鍛錬は俺の日課だからな。1日も欠かしたことがないんだよ。


 身体が解れたら、今度は戦っていることをイメージして剣を振る。

 人に見られると面倒だがらな。始める前に『認識阻害アンチパーセプション』を発動した。


 イメージする敵は最難関トップクラスダンジョン『魔神の牢獄』の偽神デミフィーンド

 全方位を偽神に囲まれた状況をリアルに想像して、敵の動きに合わせて攻撃と回避を繰り返す。勿論、魔力操作も一切手を抜いたりしない。


 結局、1日目は襲撃がなかった。まあ、予想通りだけどな。

 いきなり襲撃するつもりなら、夜なんて待たずに森を散策している間に襲撃できた。

 それをしなかったってことは、こっちが警戒して消耗するのを待っているってことだな。


 エリクが俺のために用意してくれた部屋に戻ると、シャワーを浴びて汗を洗い流す。

 この世界には魔道具が普及しているから、普通に風呂もシャワーもあるんだよな。

 『浄化ピュリファイ』の魔法を使えば汚れは落ちるけど、やっぱりシャワーの方が気持ちが良いからな。


 俺は着替えると、朝飯を食べるために移動する。昨日の昼飯も夕飯も同じ部屋で食べたからな。場所は解っている。


 部屋には白いテーブルクロスが敷かれた長いテーブルが置かれていて。ソフィアとミリアが先にいて朝飯を食べていた。

 サーシャが一緒にいないのは、たぶんまだ寝ているからだろう。サーシャは朝が弱いって話を、2人から聞いたことがあるからな。


 別荘の侍女が、2人の傍の席に俺を案内する。


「アリウス、おはようございます。昨日は良く眠れましたか?」


 ソフィアが微笑む。朝からソフィアの顔を見るのは、なんか新鮮だな。


「ああ。俺は旅に慣れているからな。どこでもぐっすり眠れるんだよ」


 俺が応えると、ソフィアが何故か困った顔をする。


「アリウスは意外と嘘が下手よね。どうせ私たちを守るためにずっと起きていたんでしょう」


 ミリアが呆れた顔をする。確かに俺は最悪の状況になる可能性を考えて一晩中起きていたけどな。

 だけど俺は自分の部屋にいたから、誰も気づいていない筈だ。


「いつものアリウスと、ちょっと雰囲気が違うのよね。なんて言うか、いつもよりも真剣な感じがするわ」


 ああ、そういうことか。だけどダンジョンを攻略しているときのように精神を研ぎ澄ましている訳じゃないのに、2人には解るんだな。


「嘘をついたことは悪かったよ。だけど俺は冒険者だからな。一晩眠らないくらい問題ないからな」


 バレているなら仕方ない。俺は正直に話した。嘘をついたのは余計な心配をさせたくないからだからな。


「アリウスが私たちを守ろうとしてくれるのは嬉しいですし。貴方なら大丈夫だとは思いますが、頑張り過ぎないでくださいね」


「そうよ。エリク殿下の護衛もいるんだから。アリウスがそこまで頑張らなくて良いんじゃない」


 まあ、その通りなんだけどさ。俺が警戒しているのは、もっと最悪な状況が起きることなんだよ。可能性は低いけど、起きたときに後悔したくないからな。

 そんなことをみんなに言えば心配させるだけだから、言わないけどな。


 今日は別荘の中で過ごすことになった。

 昨日のうちに襲撃の件を解決していたら、今日は湖でボートに乗って遊ぶ予定だったけど。さすがに遊んでいるときに襲撃されたら、みんなを守るのが難しいからな。


 ソフィア、ミリア、サーシャの3人は部屋に集まって、チェスみたいなゲームをしながらお喋りをしている。

 このゲームは駒がチェスみたいだけど、4人で対戦するんだよな。3人だと人数が足りないから、サーシャの侍女兼任の護衛が付き合っている。

 外に出掛けなくても、ソフィアたちは友だちとの旅行を楽しんでいるよな。


 他のみんなも相変わらずだな。

 エリクは襲撃のことなんて忘れたかのように、優雅に紅茶を飲みながら本を読んでいるけど。護衛や諜報部の奴が来る度に何か話をしている。


 ジークは真面目な顔で襲撃に備えているけど。昨日は良く眠れなかったのか、目の下に隈ができているな。

 いや、そんなに緊張するなよって言いたいけど。余計なことを言うとジークの顔を潰すことになるからな。


 バーンは何もすることがなくて退屈らしい。自分の護衛を相手に模擬戦をしている。

 身体能力任せのバーンの攻撃なんて、余裕で躱して反撃できる筈だけど。護衛たちは相手が第3皇子だから絶対に反撃しないんだよな。バーンの技術が伸びない原因の一端は、こいつらにあるんじゃないか。


 マルスは護衛を連れていないから完全に孤立しているし。ジーク以上に緊張していて、顔が土気色だ。

 マルスの父親の枢機卿とエリクが何か取引きして、今回マルスは理由も聞かされずに旅行に参加することになった。


 教会勢力と貴族の関係について俺も情報を掴んでいるからな。エリクと枢機卿がどんな取引をしたのか想像できる。

 台頭して来た教会の新勢力とヨルダン公爵は裏で繋ってるんだよ。


 だけどダンジョン実習のときの事件に新勢力の連中は関わってないからな。枢機卿はマルスをエサにして、新勢力を今回の襲撃に関わらせることで潰したいんだろう。

 エリクとしては新勢力を潰すことで、政敵である枢機卿に貸しを作ることになるし、教会全体の勢力は弱まるから取引きをしたんだろう。


 まあ、政治的な話は俺には関係ないけど。さすがにマルスが可哀そうになって来たな。


 結局、2日目の昼間も襲撃はなかった。俺たちは夕飯を一緒に食べてから、それぞれの部屋に戻る。

 女子たちはソフィアの部屋に集まってパジャマパーティーをしているみたいだけどな。


 そして2日目も終わる午前0時近くになって、俺の『索敵サーチ』に反応があった。

 それなりに大きな反応が20以上。全部で500以上ある。

 そいつらは森の中を真っ直ぐ別荘の方に向かって来る。


 俺の『索敵』の効果範囲は5km以上あるからな。まだ他に誰も気づいていないだろう。


 エリクの部屋に行って状況を伝える。あとはエリクが護衛と諜報部の連中に指示を出すからな。こっちのこと・・・・・・は敵の動きを随時伝えるだけで良いだろう。


 襲撃者たちが別荘まで2kmに迫った時点で、俺は行動を開始した。

 ここまで待った理由は陽動の可能性を考えたからだ。別荘からあまり離れたところで迎撃すると、俺が動くことで『索敵』の効果範囲も動くから別動隊がいた場合に発見が遅れるからな。


 俺は『認識阻害』と『透明化インビジブル』を発動した状態で、『索敵』で1番反応が大きい奴の頭上に転移する。


 『鑑定』でステータスとスキルを調べると、次に反応が大きい奴のところに再び転移する。


 そして3番に反応が大きい奴のところに転移したとき。まずはこいつを倒す必要があると思ったんだよ。


 禿頭で白髭の灰色のローブを纏う老人。俺はこいつを知っている訳じゃないけどな。

 『鑑定』で解ったことはこいつが368レベルで、第10界層魔法『流星雨メテオレイン』のレベルを50まで上げていることだ。


 第10界層魔法と言っても、習得すること自体はそこまで難しくないんだよ。100レベル台の奴でも普通に習得している。だけど習得しても、精度や威力を上げないと大して使い物にはならないからな。


 『流星雨』も習得しただけだと『火焔球ファイヤーボール』を複数同時に出現させる程度の威力だ。

 だけど50レベルの『流星雨』になると話が変わる。戦略レベルと言える威力の攻撃魔法で、直撃すれば王家の別荘くらい吹き飛ぱせるんだよ。


 まあ、エリクだって『流星雨』の対策くらい立てているだろうし。俺にも勿論対抗手段はある。だけど、わざわざ発動するまで待つ理由はないからな。


 俺は『認識阻害』と『透明化』を解除する。

 姿を隠したまま不意打ちすることが卑怯とは思わないけど。さすがにそこまでやる気はないんだよ。


「誰だ、貴様は!」


 灰色ローブが身構える前に、俺は剣を抜いて首を切り飛ばした。


「おまえたちが殺しに来た奴の1人、アリウス・ジルベルトだよ」


※ ※ ※ ※


アリウス・ジルベルト 15歳

レベル:????

HP:?????

MP:?????

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