第20話 ボードゲーム
〝人生はライトノベルの中〟というボードゲームがある。
それはライトノベル作家になったユーザーたちが、お金を競うゲームとなっている。
参加人数は多い方が面白いといわれているが、今は俺と美羽の二人しかいない。
内容は人生ゲームのライトノベル作家版というもの。
俺が青い車に、美羽は赤い車に旗をさした。
「いざ勝負!」
最初にカクヨム作家コースとプロ作家コースの道を選べる。
カクヨム作家コースは趣味としてやるので、あまり稼ぎは良くないが、その代わりに幸福度が高くなる。
幸福度が高いほど、ルーレットの数字に上乗せができたりするので稼げる。
プロ作家コースはデビューすれば稼げるが、幸福度は低く、ルーレットの数字がダイレクトに影響してくる。
そんなこんなで、俺と美羽はどっちのコースを選ぶかで少し悩む。
「うーん。じゃあ、わたしはプロコースで!」
「同じのにしても楽しめないか。それに俺はカクヨムユーザーだしな。よしカクヨムコースで行くぞ」
先手の美羽がルーレットを回し、デビューを狙う。
数字が奇数ならデビュー、偶数なら日雇い労働者として少しばかりの金額がもらえる。
「こいこい!」
美羽がぐっとを拳を掲げると、ルーレットは3を示す。
「やった! デビューだ!」
デビューマスに移動すると、いきなりマスの効力が発揮される。
デビューの賞金が振り込まれるのだが、それもルーレットで決まる。
1~6は50万。7、8は100万、9は200万らしい。ちなみにそれによって小企業、中企業、大企業の三つに分かれていく。
「ルーレット、スタート!」
美羽が思いっきり回すと、ルーレットは勢いよく回転する。
「行け、行け!」
興奮した様子でルーレットを見つめる美羽。
からからと音を立てて9にとまる。
「やった! 200万の大企業だ!」
美羽はガッツポーズをとると、駒を進める。
「えぇ~。いきなり勝てる気がしないんだが……」
俺はルーレットを回し、駒を進める。
「お。『初めてのコメント。幸福度プラス一!』。おおコメントがもらえた! 嬉しい!」
「幸福度がそのままルーレットに追加される……え。いきなり二以下はないってこと!?」
「そうなるな。これはカクヨム無双かもな!」
がはははと豪快に笑う俺。
「むう。なら負けないもん!」
ルーレットを回す美羽。
「ええと。『重版が決まった!臨時収入50万!』いやった! お金持ち! えへへへ」
だらしない笑みを浮かべる美羽。
でも負けるわけにはいかない。
「今度はこっちだ」
ルーレットを回し、駒を進める。先ほどの幸福度でルーレットはプラス一されている。
「ん? 『初めてのレビューコメント! 幸福度プラス二!』」
「え。さっきのと合わせて、三も!?」
「そうなるな」
「はへー」
どんな声を出しているんだよ、美羽。
「わたしの番ね!」
からからと回るルーレットが1を示す。
「ええ。全然進まないじゃない」
そう言って駒を動かす。
「ええと。『盗作の疑いをかけられ、100万支払う。幸福度マイナス一』って。ええ!」
「美羽、盗作はいけないなー」
「もう! ひどいよ!」
美羽は銀行に100万支払うと幸福度を下げる。
「というか、100万払ってもまだ借金にならないとは。
俺は最初にもらった1万くらいしか資金源がないというのに。
次の番になった俺がルーレットを回す。
3だ。そこにプラス3になる。合計で6だ。
駒を進めると、赤い枠のマスにとまる。
「お! 『給料日、ルーレットの数字かける1万円がもらえる』だと!」
今、幸福度が3だから、最低でも4万円、最高で12万ももらえる。
くるくるとルーレットを回転させると、9に止まる。
「よっしゃー! 最大金額! 12万」
「へ、へー。でもプロのわたしにかなうわけないじゃない!」
美羽はない胸を張り、ルーレットを回転させる。
「ん? 『ツイストーのコメントが炎上。10万支払う。幸福度マイナス1』……」
「……どんまい」
その後も何度かルーレットしていくと、俺と美羽の差は埋まっていった。
だが、幸福度は俺が10。美羽がマイナス3。
金額は俺が100万。美羽が80万。
この差は大きい。特に幸福度が。
「そ、そろそろ負けを認めたら? 大輝」
「何言っているんだよ。ここからが面白くなるんだろ?」
二人とも意地の悪い笑みを浮かべ、ルーレットにかける。
俺の番。
くるくると回転すると、3で止まる。プラス10で合計は13だ。
駒を進めると、強制イベントが発生。
「ええと。『結婚する。ルーレットでお祝い金を頂こう! ルーレットの数かける2万』、うはっ!」
「ちょっと、待った! なんでわたし以外の子と結婚しているのよ!?」
「そういったゲームだ。しかたないだろ?」
納得がいかず、ふくれっ面を浮かべる美羽。
「もう。なんでよ」
かまわずにルーレットを回すと、7が出る。これに10を追加して、17。そこにかける2万。
「ええと。37万ほど頂けないかな?」
「なんでよ~! わたしの大輝なのに~!」
泣き叫ぶように言う美羽。
なけなしの37万を渡してくる美羽。
「むぅ」
未だに不服そうにルーレットを回す美羽。
「あ。『結婚する。ルーレットでお祝い金を頂こう! ルーレットの数かける2万』よ! 大輝とじゃないなんて嫌だけど」
いじらしいことを言われてドギマギしてしまう俺。
プロポーズされている?
え。これって俺からプロポーズするべき!?
ドギドキしながら、結果を見届ける。
美羽の回したルーレットは2。幸福度マイナス3の美羽だと、マイナス1。
「え。逆に支払うの!?」
「そうではないらしい。最低でもゼロだと。注釈に書いてある」
「よ、良かった~」
俺は訝しげな視線を向ける。
「俺は全然良くないんだからな!」
誰と結婚したんだよ。そいつ羨ましい限りだ。
結婚したのか。俺以外の奴と。
と叫びたくなる気持ちを抑えて俺はルーレットを回す。
「何々? 『子どもが産まれる。お祝い金を頂く。ルーレットの数字かける1千』だと」
ルーレットを回すと8が出る。8足す10で18。
「全部で1万8千だな」
「むぐぐぐぅ……。分かったわよ。でもわたし以外の子をもうけるなんて!」
うぎぎぎと今までにない声を上げて顔を歪める美羽。
「そんな怖い顔をしないでくれ。これはゲームなんだ。遊びなんだ」
「それも、そうね……」
そう言って美羽がルーレットを回す。
「あ。『子どもが産まれる。お祝い金を頂く。ルーレットの数字かける1千』」
「ふーん。へー。そうか……」
俺以外の奴と子どもが? 何これ。
脳がバグる。破壊される。
うお。なんだ。これ。
字面だけでもかなりショックだわ。
なんだか涙出てきた。
からからとルーレットが悲しげに回転する。
数字は3。マイナス3でゼロ。
「なんでこうなるのよ……!」
美羽は悲しげに涙する。
そのあとも足の引っ張り合いやルーレット運などで、美羽と俺の差は開いていく。
「ゴール! ん? その手前か」
俺がその手前のマスを確認する。
「ええと。『水星に移住する。200万支払う!?』」
俺が目を飛び出して驚いていると、美羽がクスクスと笑う。
「いいじゃない。素敵よ、水星暮らし」
そう言って美羽がルーレットを回す。
8。
「なな、はち、と。え……」
美羽も同じマスに止まり、200万を支払う。
俺の番になり、駒を進める。
「ようやくゴールだ!」
「むぅ。わたしもゴールよ」
先着順にお金の金額が違ってくる。
美羽ももらえるが、その差は大きい。
「ま、負けたわ」
決算すると、俺が1000万、美羽が80万という結果になった。
「なんだ。プロの作家さんも存外もうからないものだな」
「これはゲームだから!」
美羽は怒ったように声を荒げる。
「まあ、普通は逆だよな。幸福度の設定が甘すぎる。これじゃゲームとしては没だな」
「辛口ね。でも、わたしも思ったの」
こうして二人は疲弊しながらもなんとか〝人生はライトノベルの中〟をクリアした。
「でも、俺は美羽以外の奴と結婚する気はないからな」
「え!?」
美羽の顔がリンゴみたいにまっ赤になった。
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