第18話 音楽鑑賞
「〜〜♪」
鼻歌を歌いながら、スマホをいじる美羽。
音楽も得意な彼女は歌もうまいが、楽器の演奏もうまい。これで顔もいいし、成績優秀、おまけにスポーツ万能ときている。
その才能の一つでも分けてほしいと思うが天才にはかなうまい。
俺は普段の努力で成績を維持しているが、美羽にはそんな気配を感じないのだ。
まあ成績はクラスで一番と三番がいるんだ。それなりに釣り合うカップルだろう。……たぶん。
本当に美羽は俺でいいのだろうか?
「〜〜♪」
「それ、なんの曲?」
先程から口ずさむメロディが気になり声をかける。
「ん。〝Gの逆襲〟」
「G? Gってごき――」
「待った! それ以上はなしだよ。大輝」
やっぱりそうなんだ。
「すごいタイトルだね」
「うん。わたしのお気に入り」
いや花の乙女がその曲かよ。絶対に違うって。
「聞く?」
そういってイヤホンの片方を渡してくる美羽。
最近流行りの
だからコードの距離は短く、必然的に俺と美羽は体を寄せ合うことになる。
耳にイヤホンを突っ込むと音楽が聞こえてくる。
「ごき、ごき、ごき。ゴ○ブリを食べると〜♪」
ぱっとイヤホンを外す。
「やっぱりゴキ○リじゃねーか! しかも食べねーYO!」
美羽は不思議そうに首を傾げる。
そこには一点の曇もない
いやいや、俺がおかしいのか!?
「じゃあ一番のお気に入り」
そういって再び曲を再生する。
聞こえてくる耳障りのいい曲。
「歪んだ闇が、こ こ ろ を壊す♪」
「お! 王道っぽくていいじゃないか」
この世界への叫び、嫌いじゃない。
「うん。わたしも好き。〝世界破滅〟」
「うん?」
そんな物騒なタイトルなのか?
いやもうちょっと穏やかに行こうよ。
「わたしばかり、ずるい。大輝の好きな曲は?」
「俺? 俺は
美羽が
Wetubeは世界最大の動画配信サービスだ。
聞こえのいいソプラノボイスが曲とマッチしていて気持ちが安らぐ。
「大輝ってけっこう声フェチだよね?」
「そうか? 自分では意識していなかったけど……」
「だってわたしが歌うときも聞き入っているじゃない」
そう言われるとそんな気がする。
美羽の低音が響くアルトボイスはとても心地よい。
「ふふ。しょうのない人」
決して馬鹿にしているような雰囲気はなく、むしろ満更でもないような笑みを浮かべる美羽。
そんな顔をされたらこっちまで高ぶる。
「じゃあ次はどの歌を聞く?」
「ん。これ〝明日は地球爆発。真の敵は俺たちの心の中にいる。だから強く生きようぜ〟」
タイトルなが!
まるでな○うだな。
まあ言いたいことが詰まっている感じはするけど。
でも明日で地球が爆発するんだったら好き勝手に生きようとするものだけど……。
曲が流れてくる。
「こたっつで、うかっつな♪」
いや思ったよりも普通の曲なんだが……。
本当にこれであっているのか?
俺には理解できない。
「これはAメロのサビの部分が好き」
「そうか」
俺にはさっぱり分からないが美羽がそういうならそうなのだろう。
いや美羽の主観の話をしているのだから当たり前か。
「じゃあ俺の好きな曲〝バターと星と惑星〟」
「ん」
俺の言う通りに曲を再生する美羽。
再生されたバンドの曲は耳心地がよく、社会に一石を投じるような歌詞だ。
最近のブームはこれだろう。
ちなみに少し前なら〝うるさいですわ〟や〝先公〟があるだろう。
〝うるさいですわ〟は社会に訴えかけるような曲。〝先公〟はカボチャが踊りだすことで有名になった。
まあ俺たちはどちらも素敵な曲として受け入れていったが、それがどんな気持ちで歌っているのか、気にはなる。
「そうそう。わたし、今度オリジナル曲を作ろうと思っているの」
「えっ!? す、すげーっ!!」
さすが美羽だ。
譜面も読めなければ、メトロノームの意味すら分からない俺にとって作曲は雲の上の人だ。
「さすが美羽」
「雑に褒めないで」
そうは言いつつも、美羽の頭を撫でると嬉しそうに目を細める美羽。
「で、なんというタイトルだ?」
「タイトルはまだなの」
ぶんぶんと首を横にふる美羽。
「まずはリズムから考えて、次に歌詞、そして最後にタイトルね」
天才である美羽からしてみれば当たり前のことらしく喋りだす。
いやリズムを考えるってどうやるんだよ。
そう言いたくなるが、プロの作曲家はそうやっているのかもしれないと思うと素人意見すぎる。
とりあえずすごいことはわかっている。
「〜〜♪」
初めて聞く
あ。この曲好きだわ、と思わせるなにかがある。
「こんな感じの曲」
一通り歌い終えたのか、美羽は満足げにスマホをいじる。
スマホの画面には作曲用のアプリが開いてあり、譜面に書き起こしていた。
「すごいな。本当に曲ができていくよ」
俺が驚いている間に出来上がっていく曲。
「美羽はかっけーな!」
「もう。褒めてもなにもでないよ」
「そんな謙虚なところもまた好きだ。やっぱり俺は美羽に恋をしているんだ。いや恋愛をしているんだ。可愛いしなんでもできるからな」
「もう。もう!」
うんうんと頷くと、顔を赤らめ、照れ隠しで声を荒げる美羽。
「可愛いとか気軽に言っちゃダメ」
「俺は自分の気持ちに嘘はつけない。それにこんなに可愛いと思うのは美羽だけだ。他の人にはいわないさ」
「もう、もう、もう!! すぐそう言う!」
耳まで真っ赤にした美羽はニマニマと口を緩めながら、顔を隠す。
本当のことを言っているのに。でも恥ずかしそうにする美羽は可愛い。
「ん。タイトル決めた」
「え。急に?」
あまりにも唐突だったので疑問が湧き出る。
「〝わたしの大好きな大輝〟」
「〜〜っ!」
今度は俺が顔を赤くする番だった。
照れくささで顔を隠しニヤニヤするのを止められない。
まるで愛の告白をするギタリストのようだ。
いや俺にも意味は分からないけど。
てか名前をタイトルにするって恥ずくない?
俺だけ?
「むむむ」
「今、メロディが完成するから。あとは歌詞だけだね」
「いやさっき言っていた順番と違うじゃないか」
さっきはリズム、歌詞、タイトルって言っていたのに。
「そんなの誤差よ。誤差」
「本当は?」
「…………大輝って呼びたい」
顔を真っ赤にしてうつむく美羽。
「いつも言っているじゃないか?」
「違うの。意味もなく言いたい」
ドキッとする俺。
え。これって俺だけ?
こんなに可愛い子に「名前を呼びたい」というのだ。受け入れるに決まっている。
「そうか。好きなようにするといい」
俺は二カッと笑い、美羽の歌詞を心待ちにした。
数分の葛藤のすえ、美羽は歌詞まで完成させたのだ。
さすが天才。
さすが美羽。
さすが俺の彼女。
「〜〜♪」
曲を聞かせてもらうと、芯の奥から熱くなる俺。
恥じらいと嬉しさ半々になった気持ちをなんとか抑え込み、曲を聞き終える。
「まったく。なんて曲を作るんだ」
「これ、Wetubeにアップしていい?」
「待て。俺の名前が公表されてしまう」
俺は目立ちたくはないし、何よりもアンチが怖い。
俺への攻撃的な意見や批判的な声。それはできれば聞きたくない。
でもせっかくの美羽の曲だ。流したい気持ちもわかる。
「じゃあ歌詞の大輝を変えて歌う」
「!? できるのか?」
「替え歌と同じでできないことはない」
それは寝耳に水だ。できるなら替えてほしい。
「替えてくれ」
「ん。しょうがないなー」
面倒くさそうに呟くが、その声はどこか嬉しそうだった。
「なんで喜んでいるんだ?」
「ん? だって本物の曲は二人だけの秘密でしょ? それに初めての作曲だし」
「おうふ。嬉しいな……」
幸せを噛み締めていると美羽は嬉しそうに歌詞を書き換えて歌い出す。
本物の曲は俺と美羽だけが持っている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます