第6話 バニラシェーキとポテト

「の~ど~か~わ~い~た~!」


 帰りのバスで璃里りりが駄々をこねだした。


「もうすぐ着くだろ、我慢してっ!」


 おれはなだめるが璃里は一向に聞く気がない。


「小腹もす~い~た~!」


『まあ、確かにお昼のラーメン少なめだったし、おれも少しお腹すいてるな』


「じゃあ、着いたら駅前の『ハンバーガー喰イーン』でお茶でもする?」


「やったあ!」


 璃里がすぐ機嫌をなおした。


「切り替え早すぎだろ!」


「りょう君もお腹すかない?」


「まあ、確かに少しすいたな。ラーメン少なめだったしな」


「でしょう~? なら、良かった!」


 璃里はバスを降りたら『行こ行こ』とおれの手を引っ張って走り出す。


「そんな焦らなくても食べ物はなくならないって!」


「そうだけど、もう決めたんだもんっ! シェーキ飲むの!」


「わ、わかったよ」


 おれも璃里と同じ速度で走る。


と、その時、璃里が脚を絡ませて思いっきりこけそうになる。


「キャッ!」


 おれはヤバイととっさに璃里が引いた手に力をこめて、こけないように璃里を引っ張る。


 次の瞬間、その力が強すぎて璃里が突っ込んできて、その勢いでおれは璃里ごと後ろに倒れた。


「痛ってぇ」


「りょう君大丈夫?」


 璃里が馬乗りの体勢になっている。


 おれは起き上がろうとして頭を起こすと、璃里の胸元のワンピースが垂れ下がり、胸と下着が頭を覗かせていることに気づいた。


「上もセクシー系なんだな」


『あ、とっさに言ってしまった!』


「へんた~いっ! りょう君のへんた~いっ!」


「でも、大丈夫そうでよかったよ」


 そう言いながら璃里はバッグでおれの顔を押さえた。


「りりは大丈夫か?」


「りょう君のおかげでね」


 良かったと言いながら2人で立ち上がった。


「じゃあ『ハンバーガー喰イーン』行こ!」


 今度は普通に店まで歩いた。


 璃里は悩みながらも、バニラシェーキとポテトを頼んだ。さすがの璃里もハンバーガーは無理らしい。


 おれは大人っぽくアイスコーヒーを頼んだ。


「りょう君はポテト頼まないの?」


「あぁ、悩んだけどやめとくよ」


 なにやら璃里がニマニマしている。


 中途半端な時間だから人は少なかった。おれたちは一番奥のあまり他から見えない席に座ることにした。


「じゃあ~、一緒に~」


「「いただきますっ!」」


 いつもどおり璃里の様子をまず見る。


「まずはバニラシェーキから」


『チュウチュウ』


「う~ん、冷たくて甘さたっぷりで癒される~。ちゃんとしっかりバニラの味もして美味しい~」


『チュウチュウ』


『なんか、ストロー吸ってる表情がエロいな、気のせいか。キス顔のような……』


「なかなか出てこないけど、このアイスとジュースの間ぐらいの食感も最高だよね~。舌触りもなめらか~」


『シェーキにした方が良かったかも』


 おれはアイスコーヒーに少しのクリームとシロップを入れて一口飲む。


「さあ、口が甘々したあとのポテトだよね~」


『サクッ』


「う~ん、いい塩加減っ!」


『サクッ、サクッ、サクッ』


「リスみたいに食べるなよ」


「食べ方は自由でしょ~?」


「まあそうだけどさ。やっぱり、りりポテト1本くれない?」


「しょうがないなあ、いいよ~」


 ニマニマしている。


 璃里は長めのポテトの片方を咥えておれの顔に近づける。


「ふぁい、とぅ~そ」


「いやいや、それなんだよ」


「ポテトたへたいんへひょ? ほは、はしからはへて」


 璃里が顔を近づけてくる。


「ポテト食べたいけど、それはやりすぎだろ?」


「らって、たれもいらいし、らいしょうふてしょ?ホテトおいひいひょ?」


 目がキラキラ輝いている。


『これを狙っていたのか』


「あ~わかったよ」


 おれは食欲に負けて降参した。


 璃里の要求に従い、ポテトの逆から食べていく。


『サクッサクッ』


 やっぱりポテトは美味しい!


 でもどんどん璃里の顔に近づいて恥ずかしいっ!


『なんか、目をつぶって待ってるし!』


 軽くキスをしてみる。


『ヤバ、恥ずかしすぎるし』


「りょう君の唇が一番美味しいね~」


「シェーキも飲ませてよ」


「いいよ~」


『こっちは簡単に渡すんだな』


「甘くて美味しいなあ」


「でしょ~。間接チューだね~」


『それを狙ってたのか』


 まあ、食べてるときの璃里はなんだか可愛いらしい。さらに色気もあるような気がする。


「美味しかったね~」


「「ごちそうさまでしたっ!」」

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