第47話
4ー6 思い出せたのなら
「何か、あったのか?」
街からの帰り道、ご主人様がわたしに訊ねた。
「はひっ!?」
わたしは、びくっと飛び上がった。
「べ、べ、べ、別に、なんにもないですよぉっ!」
「本当に?」
「本当です!」
「そうなのか?私は、また、手の速い若い男に押し倒されでもしたのかと思ったぞ」
はい?
わたしは、ぎょっとしてご主人様を見つめた。
マジで鋭いな!
わたしは、にっこりと微笑んだ。
「大丈夫ですよ、こんなBBAにあんな若いお兄さんが手を出したりはしませんからねぇ」
「びーびーえー?」
ご主人様がきいたのでわたしは、答えた。
「貴婦人のことです」
「貴婦人?」
ご主人様がうるさいので、わたしは、逆に質問してやった。
「ご主人様こそ、ご機嫌はいかがですか?」
「ああ?」
ご主人様は、そうとう機嫌がいいようで穏やかな笑みを口許に浮かべる。
「悪くはないな」
マジか。
わたしは、幸せそうな人が嫌いなのでもう、これ以上はききたくなかったけど、訊ねた。
「久しぶりの街の様子はどうでしたか?」
「まあまあだな。領民たちも幸福そうだし、問題もなさそうでよかった。これも、ソルジュのおかげだな」
「ソルジュ?」
誰か知らんが、初めてきく名前だ。
昔の男とか?
わたしは、ちょっと期待してきいた。
「誰です、それ?」
「知らなかったのか?今、私に代わってこの領地を治めてくれている私の義理の弟だ」
義理ですと?
ますます初耳じゃん!
わたしは、あまり興味のないことは話さないのでそういうことは、まったく知らなかった。
ジェイムズさんも教えてくれてないしな。
「私は、自分のためにいろいろなことを忘れていたようだ」
ご主人様は、わたしの横で藁にまみれて眠っているライザのことを優しい目で見つめている。
「それを思い出した」
「そうですか」
わたしは、興味なく頷いた。
「いいんじゃないですか?思い出せたのなら」
わたしたちは、しばらく静かに荷車の上で揺れていた。
もう、太陽は傾いていて風も少し冷たくなってきている。
わたしは、そっとライザに予備の膝掛けをかけてやった。
ライザは、なんかいい夢を見ているようで。
わたしの知らない誰かの名前を呼んでにっこりと微笑んでいた。
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